#2 支笏湖~ニセコ 何も観ないパノラマライン

 ぎこちない運転のまま千歳市内を抜け、まずは支笏湖へ向かう。関東よりはいくらか涼しいだろうと期待していたが、8月の北海道の午後も、同じように暑い。支笏湖へ向かう道道16号は、緑に囲まれながらときどき緩やかにカーブする。止まることも右左折することもなく、あまりにスムースな道は、運転に慣れるという意味では大して機会にならない。

 支笏湖の南側に沿うR453からは、湖の様子はちらほらと見える程度で、トンネルを抜けると、いつの間にか湖畔から離れて山に入っていく。支笏湖に来たという実感を殆ど得ないまま、湖を後にする。

 緩やかに標高を上げ、そして下がり、R276を西へ進む。羊蹄山の東南東から道道97号に入り、山麓の南側を行くと、左右には牧場が広がるようになる。牧場の景色は、ぼくが期待する北海道らしさの象徴で、ただその中を走るというだけで気分が上がる。羊蹄山を常に右に観ながら道道は66号に乗り変わって西へ進み、やがて羊蹄山は視界から後ろに消え、ニセコへ入っていく。

 いつだったか、ニセコは海外からの旅行客や投資家からの視線がアツいなどと聞いていたから、町の様子はどんなものかと眺めるが、走りながらではちっともよくわからない。新千歳からここまで100kmちょっと。久しぶりすぎるバイク姿勢のせいで、すでにお尻が痛い。休憩にしようとコンビニに入った。

 地元の客たちは皆、しっかりマスクを着けている。それをみて、自分がマスクをし忘れていたことに気付く。旅の初日の最初に立ち寄る街では、それがどこであれ、自分がよそ者であるというような違和感を憶える。マスクをし忘れたことの後ろめたさが、余計にそう思わせた。 

 ニセコの町がどんな様子か、結局はよく見もしないで、すぐに出発する。これまで単調だった道のりは、ここから北北西に向かって、山を越えるワインディングになる。教習所ならようやく実技の後半。実践でほんとにちゃんと乗れるか?という段階だ。
 まさに茂るという言葉とおりに豊かな緑の森は、白樺の木がよく目に映るようになる。どんどんと標高を上げつつ、6速まで加速できる直線もあれば、一気に3速まで減速して入るようなカーブもあり、加速減速、右コーナー、左コーナー、ひととおりの動きをクリアする。固まっていた体が少しずつほぐれ、心地よい緊張に変わる。

 〇〇パノラマラインなどと名のつく道は、名前のとおりパノラマな景観を観ることができるはずだ。けれども、走ること自体に夢中になっていると、意識の半分以上は路面と次のコーナーの入口にあり、横を流れる景色はどんどん脳から漏れていく。そうしてたいていは、止まってじっくり観るべき景観スポットを見逃し、そのまま過ぎ去ってしまう。ニセコパノラマラインもそうで、たくさんある温泉もすべてすっ飛ばし、上っていたはずの道は、いつの間にか下りに変わる。やがて周囲の景色は蕎麦や野菜の畑が広がるようになる。
 忘れていたお尻の痛みがジリジリとぶり返す。座る姿勢を何度も直す。まだ初日の、ほんの数時間走っただけでこれじゃあ、これからどうなるのか。

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