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#23 樹海ロード日高 長い焚火

  今夜泊るのは、日高山脈を越えて少し行った、R237とR274が交差する道の駅 樹海ロード日高に程近いキャンプ場だ。地図を見ていると、数学の先生が板書するときのxの文字のように国道が交わっており、つい目に留まってしまった。他にキャンプ場の選択肢が殆どなかったからでもあるが。
 樹海というネーミングは、湿っぽくて暗く、どちらかといえばなんだかよくない印象さえあるが、樹海ロードに近いこのキャンプ場は、川沿いにあって十分に陽の光を浴びた明るい芝生で、しかもサイトにバイク乗り入れができる穏やかなところであった。着いたのはぼちぼち夕方の時間帯という頃で、車で来たファミリーやグループで賑わっており、バイクのキャンパーもかなり増えた印象である。
 ここは、ライダーにとっての玄関口である苫小牧港から遠くない場所で、フェリーで昼過ぎに着いたライダーが陽の明るいうちに落ち着くには、余裕をもって来られる距離だ。そういう客が多いのか、ぼくが到着した頃には、多くのバイク乗りはすっかり落ち着いて、すでに夕飯や一杯やったりしていた。
 車は入れないがバイクは乗り入れできるこのエリアは、賑わっているようで、静かである。到着して、テントを張る場所を見定める者、買出しか温泉だかに出かける者、戻って来た者、テントの設営や夕飯の支度をする者、すでに飲んでくつろいでいる者など様々だが、ソロキャンパーが多く、それぞれが皆、黙々と営んでいる。
 受付で売っている薪はずいぶん太く、ぼくの小さな焚火台ではとても使いこなせない。薪がいつもちょうどよいサイズとは限らないだろうと、念のためナタを持ってきていたのが奏功した。テントを張ったあとは薪割りである。
 とはいえ、持っているのは斧でなく竹割り用のナタである。一度振り下ろしたくらいではちっとも刃が入らず、何度も何度も打ち付けなくてはならない。ドス、ドス、ドスという鈍い音と振動が、芝生のサイトに響き渡る。何事かと、こちらの様子を見る人もいる。

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 しかし、キャンプ場に薪割りの音が響くのはあってもよさそうなものだが、どういうわけかこちらの音が迷惑で、ハーレーの排気音の方が場に似合っているような気がしてしまう。自然や手作業よりも人工や機械の方に馴染みを感じてしまうは、雰囲気や心境といったものも、郊外から都市部へ近づいてきたということか。

 買い出しに、道の駅と同じ一角にあるスーパーへ行く。おそらくは同じキャンプ場の客と思われる人がチラホラいるが、他に客はなく、店内は閑散としている。そのせいか、品揃えにも活気を感じることができず、あまり選択肢が浮かばない。仕方なく、パックされたイカのネギ醤油炒め、1パック五尾の氷下魚、ビールにワンカップなどを買って戻った。

 昨夜、帯広の居酒屋で食べた氷下魚も旨かったが、焚火の煙で燻されながら焼いた魚は、昨日とは違う旨さがある。そしてこういうときのワンカップもまた、うまい。

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 あいにく、北海道に好きな日本酒があまりない。日中は温かいフランスではブドウが獲れたからそれでワインを造り、寒冷なドイツは小麦の方が向くから、ビールを造った。モノゴトの始まりはきっとそういうもので、土地の風土と食は繋がっているはずである。
 北海道のお米も美味しくなったとはいえ、お酒にするとどうも硬く感じてしまう。北海道における品種改良の努力に敬意を想いながらも、ごめんねといって、旅では毎夜、大衆酒のワンカップを選ぶ。

 今夜の薪は松や白樺などの混合で、割ったとはいえまだ太い。しかし剥いだ皮に着火させればすぐに火が着き、そして長持ちする。一昨日に中標津のホームセンターで買った薪は、製材された杉か檜の余り物のような部分で、少し湿気っていたとはいえ細いくせに火が着きにくく、着いたあとも油断するとすぐに消えてしまう。針葉樹は焚付けによいはずだが、何がどうなんだかよくわからなくなってしまった。結局は木の乾燥具合か。
 そういえばもっと若い頃は、薪は買ったりせず、森や海岸で枝や流木拾いからやっていたな。それで得意な気になって、ある時はバーベキューをするからと備長炭を買い、いくら着火剤を使ってもなかなか火が着かず苦労したよな。
 燃えやすい木、長持ちする木、燃えにくい炭、すぐに燃え尽きる炭。そういうことも、もっと知らないとだな。

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よい具合に酔っぱらっており、普段ならどうでもよいことばかり考え、かれこれ3時間以上焚火をしている。そして薪は、まだある。

7日目


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