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#6 日本海オロロンライン②

 左に海、右に丘陵だけが続く間を一本の道だけが延々と続く日本海オロロンライン。やがて右側の丘陵の、多少平地になっているところには、納屋だか人家がポツリ、ポツリと現れ、しばらくすると道の駅 おびら鰊番屋に着く。明治の頃のニシン漁で財を成し、最盛期は200人以上が作業していたという、大きくて立派な番屋の建物だ。店内には当時の面影を残した造りや資料が展示され、このオロロンラインの交通量からは想像する以上の客がいた。
 しかし、この道の主要な町である留萌からここまでは、遥かに遠い。途中に主だった町や集落などない、僻地。
 車などなかったであろう当時、獲れた鰊はどこに売りに行っていたのか。この立派な番屋の木材はどうやって運んで、どうやって建てたのか。冬の暮らしはどうであったのか。明治の頃の暮らしぶりに興味はさらに深まるが、道の駅の展示物を見ていても疑問は解決しない。この厳しい僻地にこれほど立派な番屋を建てられるほど、当時は鰊漁が盛んであったのかと、感心して興味を終えることにした。

 北海道を旅する人が稚内方面を目指すには、オホーツク海側、内陸、日本海側のどれかで、日本海側を行くなら、最終的にこのオロロンラインに絞られてくる。みな同じ道を通るから、道の駅やコンビニで休憩するたびに、お互いに抜きつ抜かれつになる。こちらが休憩している間に前を通り過ぎるバイクがあると、あのバイク、さっきのコンビニに停まっていたな、というように、見知ったバイクが増えてくる。
 14時半。最高気温のままの暑さ、バテたお尻の筋肉、寝不足もあって休憩が増える。そうして苫前(とままえ)のコンビニに寄る。そういえばこのコンビニは確か、以前にも停まったことがあった。前回は、この道を稚内から南下してきたときに寄った。同じ道でも反対に進めば景色も印象も違うはずだが、どうも苫前では、前回も今回も疲れの印象しかない。
 あとからハーレーのツアラーと、ぼくと同じCB1300の2人組が駐車場に入ってきた。二つ前の道の駅 あいロード厚田で、ぼくと入れ違いで後から入ってきた2台だった。その2台は、ぼくのより1.5倍はあろう荷物量で、慎重に重いバイクの停車位置を直す。ヘルメットを脱いだ二人は、ダンディーな年配のコンビだった。
 「今日はどこまで向かうんですか?」ダンディーな一人がぼくに声をかけた。
 「まだ決めてないんですけど、みさき台公園キャンプ場はどうかなって考えてます」
「あー、良さそうだよね。うちらも気になってますよ」
いくつかの情報交換をして、
「では、もしかしたらまたキャンプ場で会うかもしれませんね。道中、お気をつけて」。そうして、またぼくが先に出発した。

 初山別(しょさんべつ)村のみさき台公園は夕日がキレイなスポットで、園内には数か所のキャンプサイト、道の駅 ロマン街道しょさんべつ、温泉、野球のグランドなどがある、広大な公園施設だった。受付がどこか分からず、とりあえず園内の最も手前にあるそれらしい建屋に行くと、そこはオートキャンプ用でテント1張り3,500円という。もっと奥の海側にもサイトがあり、バイクなら無料です、と紹介してくれた。
 オートキャンプサイトのもっと奥には、高台のところと、より海に近い低いところとにフリーサイトが3,4か所ある。海側はすでに混みあっている様子だが、高台のサイトはまだ十分余裕があるうえに、見晴らしもよく、駐車場のすぐ横の木陰の場所も空いていた。駐車場に近すぎて落ち着かないかな?と少し迷った。ほぼ同じタイミングでやってきた中型バイクがぼくの並びに停車し、
「あ、木陰。ここしかないでしょ。なんでみんな下の方に行きたがるんだろう。ねぇ?」
といいながら、彼はさっそく荷物を降ろす。それは独り言のようでも、ぼくに向けていったようでもあり、会話の始まりなのかよくわからなかったが、残る木陰のスペースはあと1張分程度となった。そうですね、この木陰はラッキーですよね、といって、少し離れてぼくもすかさず荷物を運んだ。
 ぼくよりは年上であろう中型バイクのその兄さんとは、各々がテントを張りながらちょこちょこと話した。このキャンプ場は広くて、あっちにもサイトがあるらしいとか、北海道にはもう2週間目で、まだしばらくいるつもりだとか、この近くにはスーパーはあるのだろうかとか、話題は細切れだが、軽やかだった。 

 まだ日は高い。スウェットパンツに履き替え、汗のせいで硬くなったジーパンを丸太風の柵にかけて干す。その後もちょこちょことバイクが出入りし、キャンプ場の芝生の緑は、ライダーたちのテントによって徐々にカラフルに彩られていく。そのうち、サイドカー付きの岡山ナンバーのナナハン(750㏄)ともう一台の、20代と思しき若い女性の2人組がやってくる。実物のサイドカーはかなり珍しく、しかもその持ち主が若い女性ということもあってか、往来するバイク乗りからひっきりなしに声を掛けられている。現物を目にしたのはぼくも初めてだった。今日、このサイトにいる全ての人の注目を集めた二人だった。

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