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給食委託会社を推奨しない理由1

新卒、未経験の栄養士の就職先と言えば必ずといっていい程、給食委託会社です。

給食業務の委託化が始まったのは、1993年2月の医療法施行規則の改正以降の話です。

今では、病院や施設、事業所給食は当たり前のように、厨房業務に関しては委託会社が入っていることが当たり前となっています。

2005年度の介護保険制度、2006年度の診療報酬制度の改定によって管理栄養士業務が栄養ケアマネジメント業務になってから、管理栄養士業務と給食管理の業務のすみ分けがなされるようになりました。

この導入前に、栄養ケアマネジメントに関わる研修会に参加し、当研修会では「管理栄養士が栄養ケアマネジメントをやらないと、あなたたちの就職先がなくなるわよ!」と言われ、何としてでも導入しなければと、焦りましたね…


その少し前から、給食部門の業務委託化は始まっていましたが、長年病院や施設で働いてきた身として、給食部門の委託化はデメリットの方が遥かに多いと思っています。

給食委託会社や栄養士の仕事関係のブログを見ると、委託会社は激務で薄給だの、調理師や管理栄養士にパワハラされてツライだの、愚痴をこぼしているブログが沢山ヒットします。

確かに従業員が働く環境が良いとは言い切れないのですが、給食委託会社は一番大切にすべきお客様と逆ウィンウィンの関係であることも確かなのです。

これは給食委託会社が利益を得ることばかりに重要視してしまうと、患者様や利用者様を栄養失調に陥らせてしまうことがあります。

治療を目的として食事を提供するどころか、会社の儲けのために患者様や利用者様を犠牲にして、会社自体が部下である栄養士に利益を出すことを強要し、その栄養士も上司に可愛がられたいとばかりに利益に突っ走り、患者様が衰弱しようと平気で貧相な食事を提供している事実もあります。

栄養部門の収入は、他の部門より冷遇されており、設備投資にしろ二の次三の次と言う事業所が殆どでしょう。

また、事業所によっては徹底した栄養管理業務を行いたいために、給食部門は完全に給食委託会社に任せないと、病棟業務に専念出来ないというところもあります。

一人一人の病態に応じた栄養管理を行うことは間違っていませんし、栄養管理や食事管理は、本来ならオーダーメイドで出来るのが一番理想的だと思っています。とは言っても、限られた人数や時間の中で完全にオーダーメイドの食事提供は無理がありますけど…


傍から見ると給食委託会社は体裁良い

病院や施設に勤務していると、時折、給食委託会社の営業が周ってくることがあります。

持参するパンフレットには、洒落た器に腕の磨かれた調理師によって作られた料理が掲載されています。

この他にも、衛生管理の徹底、従業員の教育環境、ソフト食の提供といった内容の事柄が写真付きでカラーで掲載され、当外給食遺体会社に一目置いてしまうようなトリックが仕掛けられています。

中には、その体裁の良さに「給食委託会社の従業員はプロだ」と思い込んでいた管理者もいました。

私から言わせれば世間知らずもいいとこ。

給食業務を委託化すれば食事の質が落ちる…これ、常識レベルのことです。

離職率が高く、常に人手不足なので料理そのものが雑に仕上がり、厨房内もろくに清掃出来ないというのもあるのですが、この食事の質が落ちるのは、委託会社が謳う徹底した衛生管理が原因になっています。

2000年代に入ってから、食品に関する事故や事件が多発してきました。

自社でもこのような事故を起こさないためにも対策を講じてきて、自分の会社の身を守っているのもあります。

しかし、それは、徹底した衛生管理によって失われたものがあります。


機械的な食事

給食委託会社の食事は美味しくない…それは、冷凍食品が使われているから。

単刀直入にいうとそういうことになります。

また、提供する料理は調理開始2時間以内に作られたものを提供することがルールとなっているため、「茹で小豆」のように長時間煮込んで作る料理の提供は禁止となっています。その為、代わりに缶詰やレトルト品を使って、長時間煮込む作業をカットします。

また、ハンバーグを焼いて提供するときも、冷凍品を使って、デミグラスソースの缶詰をベースとしたソースをかけて、冷凍野菜を付け合わせて提供するといった、そっけない方法で食事が提供されます。

冷凍野菜もバリエーションが増えてきており、昔は葉物野菜の冷凍と言えば、ほうれん草、菜の花ぐらいしかありませんでしたが、今は、緑色の葉物野菜は全て冷凍、キャベツや白菜、玉葱までもが冷凍が当たり前になっています。

このような野菜を中心とした料理は、葉がびちゃっとしている割には筋が硬く、おまけに刻み方も不適切なので、患者様や利用者様にとって食べにくい料理を提供してしまいます。

煮豆や漬物も手作りは不衛生という理由で禁止となっているため、それこそ出来合いのものを器に盛りつけて提供となります。

給食業務を委託化してしまうと、これだけ冷凍食品や缶詰、レトルト食品のオンパレードとなってしまうため、見る人によっては機械的で冷たい料理という印象を与えてしまいます。


家庭の延長というわけではないけど

かつては病院や施設の食事と言えば、厨房スタッフの大半は主婦が占めていました。

献立内容も高齢者向けであることから、まさにおふくろの味といったところです。

かといって、提供する食数は多いので、完全に家庭の延長というわけでもありませんでした。

作る側が調理師であろうと、年輩の主婦であろうと、冷凍食品や加工食品のオンパレードの食材を用いるのなら、生鮮食品を用いて、可能なかぎり手作りのものを提供していった方が明らかに食事の質は上回ります。

例えばお浸し一つ作るのだって、生鮮食品による青菜から作られたお浸しは、冷凍食品のような筋張りがなく、茹でた際にきちんと水分を絞っておけばシャキッとした仕上がりになります。

ハンバーグも今は冷凍加工技術が向上したことによってだいぶ味が改良されましたが、やはり手作りのものは違います。

そして、働く従業員の意識が高いと、これらの食材の良さを活かして料理を作ってくれます。

理想論と言えば理想論ですが、有機野菜を使うまでとはいかなくても、やはり冷食より生鮮食品の方が料理は美味しく仕上がります。

以前、直営で給食部門を運営していた介護施設では、時折手作りの煮豆や茹で小豆を提供していました。

白砂糖がたっぷり使われているので、決して健康的なものではありませんが、小豆や煮豆は弱火で長時間じっくり煮込むことによって、豆に含まれるデンプンが煮汁に溶け出し、適度に煮汁に粘度が出ます。

この粘度が煮豆や小豆の濃厚さを引き出します。レトルトの煮豆には、このような濃厚さはありません。

もちろん添加物や着色料は使用されていないので、素材そのままの純粋な味わいを楽しめます。

病院や施設の食事は、食品添加物や農薬といった観点から見ると、決して安全とは言い切れませんが、生鮮食品を用いて可能なかぎり手作りのものを提供すると、それなりにクオリティが上がります。

それは作った人の意識にも大きく左右されます。

料理は作った人の心が表れるものであり、工業的に作った人の料理はいまいち温かみを感じませんし、本人も向上心がないため、料理の腕もあまり良くないので味や仕上がりという点でも劣ります。

でも、食べる側のことを考えて作っている人の料理は、料理の仕上がりや見た目に一工夫をし、料理そのものも温かみがあります。

しかし、残念ながら殆どの病院や施設は業務委託化されているため、このような温かみのある料理に巡りあう機会は殆どありません。


業務委託化のメリット?

栄養管理業務を徹底するのなら、フードサービス業は委託会社に完全にお任せするべきという考えの栄養士も実際にいます。

この辺の意見は人それぞれですが、管理栄養士は栄養管理を徹底して、フードサービスに関してはこの分野に精通しているベテランに任せればいいという考えがあるからでしょう。

(この体制では管理栄養士と給食委託会社間のトラブルが危惧されますが)

でも、いくら管理栄養士による栄養ケアマネジメントが徹底されていても、食事が不味ければ患者様は食事を食べてくれません。

病院や施設といった事業所は、約束食事箋(栄養量)の設定を、日本人の食事摂取基準に基づいて設定しなければならないことから、どうしても厳格な塩分制限が必須となります。

管理栄養士の中でも馬鹿真面目な人は、塩分量を正確に計算して食事を提供することに拘ります。

塩を予め測っておくものの、料理に使う水の量が多すぎて、味のない料理が出来ることも多く、患者様は美味しくないから食事を残してしまいます。

先述しましたように、病院食は栄養バランスが良くても決して安全とは言い切れません。

栄養管理を徹底しても、料理が不味くて患者様が食べてくれなければ、栄養量は充足されません。

制度上のことがあるので、これを改善しろと言っても無理があるのですが、これでは、かつて病院食が不味いといわれていた時代と大して変わらないクオリティとなってしまいます。

おまけに冷凍食品のオンパレードなので、料理そのものにも人間的な温かみがない…

かつては給食部門の収入もそれなりにあり、食材費も今ほど高騰していなかったので、それなりのクオリティの高い食事が提供出来たと言えます。

制度が絡むと、業務に携わる人達は巻かれなければならないという宿命に遭遇します。

病院食は栄養バランスが良くても勧めるものではありません。

そのためには、病院に頼らないための身体づくりをして、自分の身を守ることが欠かせないでしょう。

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