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楽曲分析を始めよう~出版社による楽譜の違い~

今回はアナリーゼの基本、導入です。

ここでは複数の譜例を挙げますが、ピアノ初心者の方は先生に告げられた一つの楽譜を購入すべきです。経験者や指導者、研鑽を深めたい方は様々な出版社のものを見て、ご自身や生徒さんに合った楽譜や考えが合致した楽譜を見つけてください。

(※譜例はパブリックドメインのものを使用しております。)


原典版と初版と校訂版

原典版とは、作曲者の書いた楽譜そのもの又はそれをほぼそのまま再現した楽譜を指します。

初版とは、作品が最初に出版された楽譜を指します。=第1版。

校訂版とは、すでに出版されているものに修正を入れたり、原典版を元にして新たに情報を追加し演奏しやすくしたりしたものなど、元の作品に手を加えられた楽譜を指します。


楽譜には色々なものがあるということはお分かりいただけたでしょうか。

同じ曲であっても出版社や校訂者が異なると、テンポやアーティキュレーションが変わるのはもちろん、音そのものが違う場合も少なくありません。

今回はピアノの教本としておなじみのブルグミュラー25の練習曲から1曲目の冒頭4小節を見ていきましょう。


楽譜の違い


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(※上段が初版(原典版)、中段と下段が校訂版です。)

それでは解説していきましょう。これらはほぼ同時期に出版された当時の楽譜ですが、出版社は全て異なります。

テンポは共通していてAllegro moderato(♩=152)です。因みに日本でよく使われる全音版(校訂版)はピアノ製造技術の発展に伴い(♩=126~138)としています(後述)。そしてピアノ(P)とdolceも共通しています。

私がまず注目したいのは右手のレガートの掛かり方です。

・上段の初版は前半は2拍ずつ、後半は1小節ずつ。
・中段の校訂版は冒頭から5小節目の頭まで一つで続いている。
・下段の校訂版は2小節ずつ。

初版は作曲者の意図、校訂版は校訂者の意図があります。なぜ変更されたのか、その意味は何なのか、変更によって考え方や演奏はどう変わるのか。これらを演奏者は理解しなければなりません。これは楽譜選びにもつながります。

もちろん考え方は人それぞれですし、正解は一つではありません。


その次に注目するのは、クレシェンド、デクレシェンドです。

・上段の初版、中段の校訂版はクレシェンドが無く、2小節目前半にデクレシェンド。
・下段の校訂版は1小節目後半からクレシェンドし、2小節目を全て使ってデクレシェンド。

たったの1段4小節でこれだけ違うのですが、皆さんはどう考えて演奏されますか。楽譜通りに演奏するもよし、使っている楽譜に他の楽譜の要素を盛り込んで演奏してもそれはあなたの音楽になります。もちろん正解は一つではありません。大事なのはどう理解し、どう演奏するか→その目的のために練習や演奏法をどうするかです。これがアナリーゼの大切な意味で、目的なのです。


テンポ表記について

先ほど少し触れましたが、楽譜に書かれたテンポは合っているのでしょうか。ブルグミュラーが生きていた時代と私たちが今生きている時代では、ピアノという楽器そのものの発展や、移動や仕事などを含めたスピード感の違いがあります。

テンポが校訂版で修正されている場合も、もう一度疑ってみましょう。

全音版のブルグミュラーを例に挙げると、

1曲目は Allegro moderato(♩=126~138)

2曲目は Allegro scherzando(♩=126)

となっています。

共にテンポ♩=126という共通したポイントがあります。

1曲目のAllegro moderatoとは、Allegroとmoderatoの中間あたりのテンポでという意味ですので、♩=126はAllegroより遅いテンポとなります。

しかし、2曲目のAllegro scherzandoは、Allegroなのに♩=126です。曲想はscherzandoということですので、♩=126より少し早い方が良いかも知れません。

クラシック音楽ではこのようなことがよくあります。テンポ表記に惑わされないよう、お気を付け下さい。大事なのは、曲想とテンポが合っているかです。もし合っていないと感じられたら、作曲者とご相談の上、ご自身の意味づけでより良い演奏を目指してください。


楽譜の選び方

演奏者として楽譜選びはとても大事な作業です。

必要な楽譜が一つしかない場合は良いのですが、ほとんどの場合は様々な出版社や出版年、校訂者から選ぶことになります。

先にも述べましたが、ピアノ初心者の方は先生に告げられた一つの楽譜を購入すべきです。経験者や指導者、研鑽を深めたい方は様々な出版社のものを見て、ご自身や生徒さんに合ったものや考えが合致した楽譜を見つけてください。

私たちは勉強のために複数の出版社から同じ曲の楽譜を購入することもよくあります。音楽の内容だけでなく、目の疲労を抑えるために紙色が黄味がかったものを選んだり、譜めくりが簡単にできるようにページ配分が計算された楽譜を選んだりもします。

プロや上級者の楽譜選びのベースとなるのは、作曲者の出身国や活動国の出版社が出している原典版です。アマチュアの方はぜひ参考になさってください。


最後までご覧いただきありがとうございました。まもなく「ブルグミュラー25の練習曲」のワンコイン読譜レッスンを販売予定ですので、しばしお待ちください。スキ、フォロー、サポートもよろしくお願いいたします。

本日取り上げた曲の動画はこちらです。

①【ブルグミュラー】25の練習曲 1.素直な心

②【ブルグミュラー】25の練習曲 2.アラベスク

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