歌と、新しい手帳

人の悪口はなるべく残さないように心掛けている。聖人ではないので、悪口を言わないというのは無理がある。吐き出すべき時にはそうするけれど、せめて文字には残らぬように。
でも、三連休の最終日に渋谷駅の地下ホームで三十分以上電車を待ったことは、ここで愚痴ってもいいだろう。いや、でも誰かを責めたいわけじゃない。そう、たまにはこういう日もあるよね。珍しく寄り道を我慢してまっすぐ帰ろうと決心した矢先だったから、ちょっとモヤモヤイライラ、がっくしきてしまっただけ。それだけだ。日曜の黄昏時を共にしてくれるラジオがあってよかった。クラムボン「タイムライン」がやさしくイヤホンから流れ、暮れてゆく夕陽の姿が目に浮かんだ。地下だけど。

無事に動き出した各駅停車。数駅過ぎて、自由が丘で急行へと乗り換えた。乗り込んだ車両で目の前に座っていたのは、長いブロンドの髪を頭の上でひとまとめにした、鼻の高いすてきな女性。きっと同じ服装を私がしたとしてもこんな風におしゃれには決まらないだろう。2019年の新しい手帳を手に入れたようで、さらさらと右手のペンでアルファベットを綴っていく。左手には、手帳よりもうひと回り小さなメモ帳。黒い革のカバーが艶やかだ。アルファベットの細かなメモ書きに混じって、日本語もいくつか記してあった。住所だろうか、誰かの連絡先だろうか、それらも丁寧に新入りへと書き写しているようで。念のため言っておくが、決してプライバシーを脅かすような覗き見はしていない。けれど「13出口」の4文字だけははっきりくっきりと目に留まってしまった、すみません。通勤路の駅の出口なのかな。手帳を彩る四季の花や鳥たちと、両手につるりと塗られたクリアネイルがとてもきれいだった。  

波に飲まれ、一時は手から離れていたスーツケースもなんとか私の傍に留まり、無事にFライナー号での航海を終えた。横浜港に到着。

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