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黄色い桜の葉(後編)

学内でも一二を誇る樹齢の桜の木の根元に、喫茶猫耳の入口はあった。二足歩行で人間の言葉をしゃべる猫はするりと入口のドアを抜け中に入っていく。 ゆうかは慌てて後を追うが、大きな楽器を背負ったままでは抜けられそうにない。楽器をドアの横に置き、ちいさな入口に身を屈めるようにしてなんとか体を押しこんだ。 「いらっしゃいませ。喫茶猫耳へようこそ。」 二足歩行の猫は優雅に言う。 「狭い店内ですがごゆっくりお過ごしくださいね。」 小さな入口にふさわしい、小さな店内には暖炉とカウンター、ソフ

    • 黄色い桜の葉(前編)

      桜の葉が、黄色く枯れ始めていた。 まだ、9月も始まったばかり。 ノロノロと列島を縦断していった台風が、まとわりつくような湿った空気とどんより厚い雲をこの街に残している。 残暑という言葉の通りの天気で、紅葉にはまだ早すぎる季節のはずなのに、植えられた桜の木は一様に少しずつ黄色く色をつけている。 ゆうかは人もまばらな、夕方のキャンパスを一人歩いている。 大学はまだ夏休み。あと2週間ほどは静かな様相である。肩に食い込む楽器の重みが足取りを重くする。 今日、集まる意味あったの

      • お子が欲しいという感情

        この記事は2023年8月に執筆したものです。 28歳、牡羊座、B型。独身女。 アラサーの私のタイムラインは、毎日、婚約報告や、結婚式の写真で溢れかえる。 そして最近増えてきたのは、妊娠出産の投稿。 マタニティーフォト、エコー写真。生まれてきた子供の手。ニューボーンフォト。マンスリーバースデーの写真。お宮参り。お食い初め。ハーフバースデー。離乳食開始。たった。歩いた。喋った…。上げ出したらキリがない。 別に皮肉や批判ではなく、本当にこの手の投稿が多いのだ。 日々、仕事に

        • 文章を書くということ

          絵を描く、 作曲をする、 振り付けをつける、 踊る、 歌を歌う、 楽器を演奏する、 写真を撮る、 演説をする、 彫刻をほる… 何かを創造する、その手段は多種多様で、人の数だけあるのではないだろうか。 私の、創造、とは 文章を書くということ、かもしれない。 小さい頃から、本を読むのが好きだった。 寝る前に両親に読んでもらう絵本の時間が好きだった。 読書感想文は得意だったし、 手紙を書くのも好きだった。 絵を描くことよりも、 音符を並べて歌にすることよりも、 体から溢れる

        黄色い桜の葉(後編)

          身長157cmの文系女子が宇宙飛行士を目指す話②

          そのリリースが出たのは2020年の11月だった。 10数年ぶりの宇宙飛行士候補生の募集。 ついにこの日が来たんだって、ワクワクと、ドキドキと、少しの不安があった。 ちょうど、自分の人生の中でも、とても悲しい出来事があったばかりで傷心だった私は、飲みに連れ出してくれた友人にこういった。 「もうさ、宇宙飛行士でも受けてみようかなって思って。」 その時の友人は、驚いたような、でも納得したような、ワクワクした顔をしていたと思う。 募集が始まるのは約1年後、22年の春からだった

          身長157cmの文系女子が宇宙飛行士を目指す話②

          身長157cm文系女子が宇宙飛行士を目指す話①

          わたし。 長野の田舎出身。 今は都会にでてきた、26歳。独身女性。 職業 パイロット。 2021年。宇宙飛行士を目指すことにした。 始まりは、一体なんだったんだろう。 高校生の時に立ち読みした、宇宙兄弟だったか。 もうその頃には、わたしはパイロットになることを心に誓って、吹奏楽部の部活に勤しんでいる普通の高校生だった。 まあ、パイロットになるから、宇宙はその次かな?なんて、軽い気持ちでいたあの頃。 なんだったか、高校にJAXAの人が講演に来たことがあった。 早く終われば

          身長157cm文系女子が宇宙飛行士を目指す話①