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飲食店|レイアウトの決め方


飲食店の開業にあたって、もっとも重要な要素の1つが店舗レイアウト(間取り)の構築です。

独立開業を目指している人にとって自店のレイアウトを考えることは夢が膨らんで楽しい作業かもしれませんが、かなり気を引き締めて慎重に取り組まなければなりません。なぜなら、ほんの少しの配置の違いが後の営業に大きな影響を及ぼすことになるからです。

【店のレイアウトが営業に及ぼす影響】
・客席数と満席時の実質収容可能人数
・通常営業に最低限必要なスタッフの数
・提供可能なメニューの種類
・注文から料理提供までの時間
・店内での接触事故やクレームの発生リスク
・保健所による営業審査の可否
・団体客取り入れの見込み
・個人客取り入れの見込み
・現実的に可能な最大売上
・ゲストやスタッフの快適さ
・空調機器の台数や換気能力 etc..

最終的な店舗レイアウトは実際に入る物件が確定してからでないと決めようがないのですが物件確定前でも、ある程度のモデルを想定しておくことが大切です。

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モデルとなるレイアウトがあると物件選びの際にも、本当に自分のしたい店の形態がその物件で可能なのかその物件を選んだ場合に何を妥協することになるのかも判定しやすくなるからです。

それでは具体的な考え方について見ていきましょう。

① 飲食店に必要な間取り

飲食店に必要な間取りは大きく分けてキッチン、ホール、バックヤード3つに分類され、それぞれの中に主要設備が存在します。

・キッチン(厨房)
《キッチンの主要設備》
メインコンロ、フライヤー、電子レンジ、炊飯器、オーブン、台下冷凍冷蔵庫(調理作業台)、冷蔵ショーケース、2槽シンク、手洗い場、エアコン、排気ダクト、デシャップ、ドリンクサーバー、製氷機、換気扇、食器棚、調味料棚、グリストラップ etc...

・ホール(客席)
《ホールの主要設備》
カウンター席、テーブル席、カトラリー台、レジ台、エアコン、エントランス、音響設備、お手洗い etc..

・バックヤード(倉庫・事務室など)
《バックヤードの主要設備》
食品保管棚、冷凍ストッカー、更衣ロッカー、掃除用具入れ、事務机、電話(FAX)、PC設備、タイムカード機器、おしぼりやテイクアウト容器などの保管棚 etc...

※厳密にはバックヤードとは、お客が立ち入ることのないキッチンも含めた店舗の裏方スペース全般を指す言葉なのですが、ここではお店の営業スペース(ホールとキッチン)以外のスタッフルーム、事務室、収納庫のように使われている空間のことを指しています。飲食業界では一般的にこのようなスペースのことを『バック』や『』、『事務所』、『倉庫』、『パントリー』などと呼びます。

上記の設備はあくまで一般的な目安であり、業種業態によって必要なものは異なります。例えば麺ゆで器、コーヒーマシン、ワインセラー、炭焼きグリル、TVモニター、排煙設備、食洗機、追加のシンク槽などが必要になる場合もあります。

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飲食店のレイアウトを考えていく順番として僕がおすすめするのは最初にキッチン、次にホール、そして最後にバックヤードに使えそうな空間を店舗のどこかに確保しておくという流れです。

ついついお店のイメージそのものであり、客席数などにも直結するホールから考えて行きたくなりがちですが、それでは見栄えだけが良くて中身が脆弱な店になってしまう危険性があります。

仮にお店を人間の体に例えるならばホールは顔キッチンは心臓です。まずは心臓部をしっかりと構築し、完成したキッチンとの連携を意識しながらホールレイアウトを決めていくことが重要となります。

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また飲食店を開業しようとしている人であればホールとキッチンの重要性は充分に理解されているかと思いますが、意外と見落としがちなのがバックヤードの重要性です。

特に小規模飲食店の場合、売上に直結するホールをお客様にとってより快適に、そして1席でも多くのキャパシティを確保しようと可能な限り広めに設定し、ただでさえ厨房に割り当てる面積は小さくなりがちです。

狭すぎる厨房は作業効率が落ち、設備なども全てコンパクトなものになるため、場合によってはせっかく確保した席数分の調理に対応できなくなってしまうといったような事態すら考えられますが、それ以上に深刻になってくるのが収納スペースの不足です。

店舗経営をしていると想像以上の物品が必要となります。また、それらは年を重ねるごとに増えていきます

近いうちに使うつもりの荷物でも一時的に保管しておく場所が必要だったり、クリスマスツリーなど特定の時期だけに使うイベント装飾品、箸袋やおしぼり、紙ナプキンなど営業備品や食器や電球やトイレットペーパーなどの予備、米など大きなサイズの常温保存食材、厨房内の冷凍冷蔵庫に入り切らない仕込のストック清掃用具などを収納しておける空間が必須となってくるのです。

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さらにバックヤードは単に収納としての役割だけでなく、制服があるならスタッフが着替えたり手荷物を保管しておく更衣室にもなります。また両替金や日々の売上金などをキッチンやホールに置いておくわけにはいかないため、金庫や重要書類などの管理スペースにもなります。

他にもスタッフの面接面談を行ったり、休憩やまかないを食べる場所にしたり、店頭掲示物をPCで作成して印刷するなど収納庫兼簡易事務室のような空間としてバックヤードの存在は極めて重要ですので、たとえ小規模であっても、できる限りレイアウトに組み込んでおかれることをおすすめします。

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② キッチンレイアウトの決め方

料理人にとってキッチン厨房)は一日の大半を過ごす空間です。使い勝手が変わると仕事のしやすさ調理オペレーションに大きな影響があるため、一度決めて稼働し始めると閉店の日を迎えるかリニューアル工事でもしない限り、滅多にレイアウト変更はされないのが普通です。だからこそ最初によく考えて作る必要があるのです。

キッチンのレイアウトを考える際、重視すべきことは以下の5つです。

1. 居抜き店舗の基礎を活用する。
2. 設備配置を縮小モデルで検討する。
3. 自分とスタッフの立ち位置を決める。
4. 過去の職場と経験を参考にする。
5. メニューから動線をイメージする。


1. 居抜き店舗の基礎を活用する。

まず初めて開業する場合、居抜き物件を活用される方も多いかと思います。居抜き物件は以前も飲食店であった場合、設備投資が少なくて済むという利点があります。

台下冷蔵庫や大型冷凍庫、製氷機など、そのまま使える厨房機器が残置されている場合もありますし、逆に自分の開業には不必要な機器が残されていたり、厨房だった跡は残っているものの厨房機器類は一切ない場合もあります。

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いずれにせよ、ガス管や排水、コンセントや排気ダクト(換気フード)の位置などを基準にいくつかの機器は置き場所が必然的に決まってくるケースも多いでしょう。

まずは現状のまま変えずに使えそうなものや場所を変えようがないものからレイアウトを組んでみてください。

全ての必要設備がそのままスムーズに当てはまればラッキーですが、なかなか理想通りにはいかない部分もあるでしょう。そんなときは、もし予算が許すのであれば思い切って追加工事をしてでも自分の使いやすい形に変えてしまうことをおすすめします。

店舗の規模や工事内容にもよりますが、ガスや水道の配管延長や電気コンセントの追加工事程度でしたら意外と恐れるほどの莫大な出費にはなりません

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ここを妥協して自分自身にとって使いにくいレイアウトに組み上げてしまうと、この先、何年間も不便さとストレスを感じながら過ごすことになってしまいます。

あくまで居抜きそのままでお得に使えそうな部分があれば、そこだけを自分のプランに取り込むイメージで最初に検討してみることです。


2. 設備配置を縮小モデルで検討する。
居抜きでない場合やゼロから厨房の配置を構築する場合は、まず自身の展開しようと考えている業種業態に合わせて必須となる厨房機器や設備をリストアップするところから初めましょう。

そして、それぞれの設備機器(設備)のサイズ横幅、奥行き)を計測またはネット情報を元にして調べ、画用紙を使って10分の1サイズくらいで機器を模したカードを作成します。

同じくキッチンもできる限り厳密に計測または家主さんから図面をもらったりしてカードと同サイズに縮小した平面図を作成します。

そこへ無駄なく必要なものが収まるよう設備機器のカードを置き換えながら設置位置を検討していくと、ノートに何度も手書きするより効率よくレイアウトの構築作業が進められます。

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ちなみに僕はAdobeのIllustrator(イラストレーター)というソフトを使用して厨房機器などの縮小パーツを作成し、取り込んだ実際の店舗平面図のサイズを調整して、PCの画面上でレイアウトを検討しました。

Illustratorはこのような間取りの検討などにも活用できる他、ちゃんと使いこなせばお店の看板やPOPチラシや販促物あらゆるデザイン制作に幅広く使えますので非常に便利です。

ただ、自在に扱えるようになるためには少しだけ勉強と努力が必要です。

もっとかんたんにレイアウトの検討と完成したお店のイメージ作成してみたいということでしたら、3D飲食店プランナーという飲食店のレイアウト構築に特化した便利な専用ソフトもありますのでおすすめです。完成した平面図をプリントアウトしたり、レイアウトした店舗の中を3Dイメージで歩いてみたりもでき、とても便利かつ直感的に扱いやすいソフトではありますが、デメリット店舗のデザイン設計用途のみにしか使えないという点です。

縮小モデルを使って配置を検討することにより、もう一回り小さなサイズのシンクに変更すべきだ、この機器の導入は諦めよう…などという設備の取捨選択もしやすくなり、同時にこの場所に200V機器用の電源コンセントの追加工事が必要だ、ここまで水道管を引っ張ってくる必要があるなどといった細かい部分も見えてきます。

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もっとも危険なのは現場でメジャーだけを頼りにアタマの中でイメージしながらレイアウトを確定してしまうことです。

大雑把なイメージの参考程度なら問題ありませんが、一度は正確な平面図に落とし込んでみないと厨房機器が届いて実際に配置してみたら思ったより幅が大きくて人が通りにくい、中途半端に一箇所だけ飛び出していて見栄えや作業効率が悪いなどといった問題が起こりやすいです。

実際の厨房機器は大きく重いものが多く、電源や配管の位置などもあるため、一度設置してしまった後からではカードのように手軽に場所を移動させることは限りなく困難なのです。

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さらにキッチンや店舗の出入口の大きさ通路幅などの搬入経路のサイズ確認も怠っていると最悪の場合、厨房内に置けるスペースはあっても届いた機器がその配置場所まで運び込めないといった失敗もありがちな話です。

特に物件がビルの2階や3階などの場合はエレベーターの開口幅や奥行き階段の曲がり角などにも気を配り、購入した機器が壁などを壊さないと搬入できないといったようなことがないよう充分に気を付けておきましょう。

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あと、図面上だけでは確認しにくいのが設備の高さです。一般的な厨房機器は規格がほぼ統一されていますので、それほどアベコベにはなりにくいですが、導入する機器によっては高さを調整できる台の上にのせたりしないと作業がしにくくなったりということもあります。

また、台下冷蔵庫やシンク台の上の壁部分に収納戸棚を付ける場合など真上から見下ろしただけの平図面では把握しづらい壁の空間についても無駄なく効率的な活用を考える必要があります。

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3. 自分とスタッフの立ち位置を決める。
ある程度、キッチンの全体像が見えてきたら、自身や厨房スタッフの基本的な立ち位置を想定してみましょう。

常に一人だけでキッチンを回すのか、忙しい時にはサポートするスタッフと作業を分担するような場合があるのか、常に複数の人数で営業するのか、その形態によって各スタッフの立ち位置から作業台や冷蔵冷凍庫の配置なども考えておく必要があります。

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よく厨房内での作業分担に用いられている空間分けホット場(ストーブ場や焼き場、メインなどともいう)とコールド場(サラダ場や前菜場、サブなどともいう)があります。

火を扱う調理は難易度が高く、お店のメインとなる料理人が担当することが多いため、メインコンロの正面付近をホット場などと呼んで一つの立ち位置として考えます。

そこから楽に手の届く範囲で盛り付けなどができる調理作業台電子レンジオーブン、イタリアンの場合はパスタボイラーなど加熱調理に関連する設備機器を機能的にまとめていきます。

調理使用後のフライパンや小鍋をさっと流したりするコンパクトなシンクも近くにあれば重宝します。

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ホット場に対し、コールド場(サラダ場)では調理経験の少ないアルバイトスタッフでも対応しやすいサラダや調理済みの前菜やデザートなどを盛り付けたりする他、手が空いているときは食器洗いに回るなどもしやすいよう、立ち位置周辺には作業台、食器洗浄用のシンク冷蔵庫の配置などを決めていきます。

冷凍冷蔵庫の扉の開閉方向だけでも右開きなのか、左開きなのか、観音開きなのかで作業効率に影響を及ぼしますので立ち位置からの動きのイメージを綿密に計算して機器を選びましょう。

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調理としては比較的かんたんな分類に入る揚げ物もホット場が忙しい時にコールド場のスタッフが手伝えるよう、フライヤーなどはホット場とコールド場の境目付近に設置しておくと作業効率が良くなるかもしれません。ただ、高熱のフライヤーが入ると大変危険ですのでシンクパスタボイラーなどの水を扱う設備とは隣接しないように配置しましょう。

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お店の規模やキッチンの広さや形状などによってさまざまなパターンが考えられますので、これが絶対的な正解という形はなく、あくまでケース・バイ・ケースなのですが、最初から立ち位置調理の分担を熟慮しておくことは極めて重要です。

なにせ実際に営業が始まってから後悔しても、もう基本的に設備の配置変更はできない場合のほうが多いのです。


4. 過去の職場と経験を参考にする。
過去に調理場で働いていた経験のある方は、その時の配置も参考にすると良いでしょう。特に長年、働いていた厨房の作りには体が慣れているため、ピーク時に反射的に動ける場合もあり、それは新しい店で働く時には非常に大きなメリットとなります。

通常は職場が変わると調理自体には問題がなくても、いちいち道具などの配置場所が分からず、作業の勝手が大きく変わるため、思うように動けなくなってしまうものです。

一般の職場では慣れるしかないことですが、自分のお店なら厨房機器の配置も全て自分自身で自由に組めるため、過去の職場の使い慣れた配置を可能な限りコピーすることも可能なのです。もちろん違法でも何でもありません

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特にチェーン店複数店舗を経営しているような企業ではキッチンの設備配置を決める際にもその道の専門家が携わり、過去の失敗や現場の声を加味し、効率的で衛生的なつくりに仕上げられているため、優良で参考になる場合が多いです。

また良い面ばかりでなく、過去に働いていた職場で不便に感じていた部分や効率が悪い、問題があると感じていたような箇所反面教師として自店の厨房づくりに活かすといったことも有益です。

自身が働いていなくとも、ネットや書籍などで収集できる情報の中には自分のしたいと思っている業種業態に近い店舗の平面図やキッチンの写真がいくらでも見つかります。プロデザイナーやどこかの料理人が過去の経験などを踏まえて一生懸命考案したレイアウト参考にし、良いと感じた部分があれば自店舗に取り込んでみるのも賢い方法かと思います。

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5. メニューから動線をイメージする。
最終決定する前に実際に提供する予定の全メニューから一連の動きを平面図とイメージの中でデモンストレーションしてみましょう。

特にお店の核となる看板メニューがいかにスムーズに提供できるかを重視し、その次に一人だけで回す場合二人で回す場合などの各メニューの調理の流れや作業内容仕込みの際の動きなども確認していきます。

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そこでは調理だけでなく、下がってきた食器類がどこに一旦置かれ、どこで洗浄され、どこで乾かされ(もしくは拭かれて)、どこの棚へ誰が戻すのかといった食器の導線や、その作業を担当する人などもイメージしておかなければなりません。食器棚の位置だけを決めていても使用した食器が勝手にキレイになって自動的に元の棚に戻ってくれるわけではないのです。

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食器や調理機器以外にも仕込品の保管場所や解凍場所、ソースポットや調味料、フライパンや鍋などの調理器具類や計量器やラップや調理バサミ、キッチンタイマーなど頻繁に使用する調理小物の位置も予め想定しておくことで必要な棚壁掛けフックなどの設置空間を機能的に確保できます。

レイアウト構想時に忘れがちなものとしてはゴミ箱があげられます。下がってきた料理の残飯などを捨てるメインのゴミ箱洗い場の近くに必ず必要ですが、それとは別に調理人の近くにも小型のゴミ箱は必要不可欠です。

仕込品を開封したビニール袋やはがしたラップキッチンペーパー業務商品のパッケージシンク内のカゴに溜まったゴミ食材の包み紙輪ゴム発泡トレー空缶空瓶など残飯だけではなく調理中にもたくさんのゴミは発生します。それらを手元ですぐ破棄できるようにしておかねばスピーディーな調理に支障をきたしてしまいます

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あと、ハンドミキサーやフードプロセッサーなどを使うために必要となる作業台上の空きコンセントの位置や数も調理や仕込みの実際の流れをリアルにイメージすることで足りないものが見えてくるはずです。それらの問題を一つ一つ解決していきます。

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ひとまず、これくらいまで考えておけばキッチンのレイアウトに関しては仮確定しておいて問題ないでしょう。

仮確定というのは最終的に施工業者さん図面を見てもらい施工上の問題改善アドバイスなどがあればさらに微調整していく必要があるということです。

ちなみに施工業者さんを選ばれる時は可能な限り、飲食店の施工経験が豊富な工務店に依頼することをおすすめします。

飲食店の施工に精通した業者さんであれば例えば排気ダクトの位置関係から、この図面通りの配置だとコンロで出た煙が客席側に流れてしまいますよ?といった素人では分かりづらいことも指摘してくれ、さらにそういった問題の対策方法についても、ここに換気扇を一つ付けましょうここにアクリル板で仕切りを作れば大丈夫ですなどと、これまでの施工経験や実績をもとに親身に相談にのってくれますので非常に心強いはずです。

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③ ホールレイアウトの決め方

ホールレイアウトを考える際、参考にすべきことは以下の3つです。

1. お客・スタッフ・商品の導線
2. 個人・グループ・団体の取り込み
3. 客席数の確保と居心地のバランス


1. お客・スタッフ・商品の導線

まず、ホールのレイアウト構築において何よりも重要視すべきなのが動線です。

《お客の主な動線》
来店 → 着席 → 注文 → 飲食 → トイレ → 会計 → 退店
《スタッフの主な導線》
待機 → 案内 → 注文伺い → キッチンへ伝達 → ドリンク提供 → 料理配膳 → 食器回収 → 会計(レジ操作) → 見送り → バッシング(リセット)
《商品の主な導線》
オーダー伝票到着 → 調理 → 盛付(仕上げ) → 配膳指示 → 配膳 → 回収食器到着 → 残飯廃棄 → 食器洗浄

お客スタッフ商品も上記のような一連の流れの中でホール内を通過することになります。

もし、お客の入店は常時1組のみ、スタッフも常に1人だけ、料理も1品づつしか提供しないといったような場合ではそれほどホールの動線を気にする必要はないのですが実際にはそんなことは稀で、複数のスタッフ複数のお客複数の商品入り乱れた状態で営業されていくのが現実です。

そんな複雑な動きが入り乱れる中で互いの動きの弊害にならないような機能的な空間配置が求められるわけです。

新規のお客が入店した直後に退店しようとしているお客がいるかも知れません。スタッフがレジ計算をしている間にトイレに立つお客がいるかも知れません。あるスタッフが料理を運んでいる最中に別のスタッフが空いたグラスを下げているかもしれません…。

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このような、店内で起こり得るあらゆる動きや状況を想定し、多くの人がすれ違う可能性のある場所出入りの激しくなるドアや扉付近、人が立ち止まる必要のあるエリア急に立ち上がると影響を受けそうな客席の背後などの空間を適切に確保しながら客席の配置を考えていきます。

また、お客同士の席間隔も大切です。

一席でも多く確保しようと、あまりに密集している状態だと着席するときやトイレに立つたびに隣の席の人に声をかける必要があり居心地悪く感じたり、知らない他人とは隣接したくないため、無駄に間に空席を空けられたりしてしまうのでかえって逆効果ということもあります。

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テーブルとテーブルの間隔は目安として60㎝程度カウンターの場合は一人あたりが専有できる幅を80㎝程度は取りたいところです。

メインとなる通路(人がすれ違う可能性の高い場所)の幅は1.2m以上その他の通路幅も最低60㎝以上は必要だと言われています。

特にノーゲストで待機状態のときと、実際に着席されているときとでは使用される面積が大きく異なります。

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背中合わせに着席されている際の席間でも人が通れるだけの通路を確保しておかなかれば、満席時目的の客席まで料理やドリンクが届けられないといった困った状況にもなりかねません。

狭小店舗で意図的にあえて席間隔を詰めてにぎわいを演出し、繁盛しているお店も実際に多数ありますので、これも何が正解で何が間違いという話ではありませんが、オーナー本人が『こんなつもりじゃなかった…!』ということにならないようにしっかりと各動線を確認しながらレイアウトを構築していきましょう。

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2. 個人・グループ・団体の取り込み
選択すべき客席のタイプは各店舗の業種業態コンセプトメインターゲット層に密接に関係します。

例えば牛丼店やラーメン店などのようにカウンター席を多くすれば、1名もしくは2名程度で来られたお客が利用しやすく席数も無駄なく確保することができますが反面、4名以上のお客は横並びになるため利用しづらく団体客による宴会需要にいたってはほぼ見込めません

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逆にテーブル席ばかりにすると1名でも一つのテーブルを専有してしまうため、席効率が非常に悪くなってしまいます。日本では相席は特に嫌がられる傾向もありますからね。

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せっかく来店してくれたグループ客をテーブルに1人客が座っていたために帰らせてしまう機会損失ほど手痛いものはありません。また個人客側も帰らせてしまったのが自分のせいだと分かるので気まずい思いをさせてしまうかもしれません。

そこで僕がおすすめするのはカウンター席とテーブル席を併用しつつ、複数のテーブル席を組み合わせることで団体客にも対応できるようなレイアウトです。

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1~2名のお客はできるだけカウンター席へ誘導し、3名以上の場合はテーブル席へ案内それ以上の人数での来店や団体の貸切などがあった場合はホールのテーブルを臨機応変に組み合わせて対応するというものです。

業種業態にもよりますが一般的な居酒屋やバルなど宴会ニーズがあるような店舗では是非とも取り入れるべき定番のスタイルです。

可能であれば壁側に長いベンチシート席があり、等間隔で小さなテーブルと対面にイスが並んでいるようなレイアウトであれば、個人客から団体客まで人数によって簡単かつ自由自在に形態を変化させられる強力なスタイルになります。

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付随的な裏技ですがソファシートの下を店舗備品の収納スペースにしておけは、かなりの量が片付けられるので便利なんですよ。

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3. 客席数の確保と居心地のバランス
業種業態に合わせた席のタイプと動線に配慮した空間づくりができれば、最後は客席数と居心地の比重をどのくらいのバランスに調整するかといった経営者としての判断をしていくことになります。

適正な間隔さえ確保できるのであれば1席でも多く増やしたほうがお店の売上にとってメリットであることは間違いありません。その1席があるかないかで1組のお客を取り逃したり、満席になったときの死に席を減らすことができる場合もあるからです。

しかし、出入口のすぐそばトイレの近くにある席は避けたがる人も多いものです。居心地の悪い場所に人を詰め込むより、あえて客席を一つ減らしてでも季節の花や装飾品を飾るディスプレイスペースを作ったり、チェアを横幅の広いゆったりサイズのものにするなどして落ち着いた居心地の良さを高めるのも有効な戦略です。

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また、テーブルの広さカウンターの奥行き売上に大きく影響します。ある飲食店の販売実績調査ではテーブルの広さとオーダーされる料理の品数は比例するといったデータもあるそうです。テーブルが大きいたくさんの料理を注文したくなる心理が働くということらしいです。

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小さいテーブルだとグラスに肘があたって割ってしまったりといった物理的なトラブルも起こりやすいので一度の注文を少なめに控えたり、逆に広いテーブルに料理が少しだけだと貧相に見えるので、ついつい料理を追加注文してしまうなどといったことがあるのかもしれませんね。

居酒屋やレストランなど料理の注文数を重視する飲食店なら広め軽食とコーヒーがメインのカフェでは小さめにして席数や席間を確保するなど業種業態によって最適なテーブルの大きさにも気を配りましょう。

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ちなみにカウンター席の奥行き45㎝60㎝のどちらかが一般的な基準です。面積の狭い店舗や安価な店、注文品数の少ない店(ラーメン店、丼専門店、うどんそば屋など)は45㎝広い店舗や高級店、たくさんの注文を取るような店(ファミレス、フランス料理店、居酒屋など)では60㎝の奥行きがおすすめです。これも絶対的な正解はありませんので平面図上でしっかりシュミレーションした上で複合的に判断する必要があります。

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ホールのレイアウトこの程度までは自身で考えておき、プロの施工業者さんにイメージや希望を伝えた上で相談しながら作り上げていきましょう

なお、こんな細かいことまで難しくて考えてられない!という方はイメージに近い店の写真と要望だけを伝えて、あとはプロのデザイナーさんに丸ごと店舗デザインやレイアウトを依頼することも可能です。

もちろん、それなりの料金も請求されることになりますが、プロが考えた店舗デザインやレイアウトは素人の発想力をはるかに上回るものが多いため、結果として大きなメリットを享受できる場合も多々あります。

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ただ、この場合も必ず飲食店を専門としたデザイナーで、かつ多くの過去実績がある事務所に依頼するようにしましょう。

普段は異業種の店舗デザインばかりを担当しているデザイナーがたまに飲食店のデザインを担当したりすると現実的な営業機能を軽視し、見た目のカッコ良さばかりを追求したデザイナーの自己満足空間になりがちです。

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飲食店をつくるときに協力してもらうあらゆる業者は決してスタイリッシュではなくとも活きた飲食店づくりに精通している専門集団ばかりと手を組むことが長く続けていける強い店を完成させるための極意です。

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以下は僕が1号店の開業時にお世話になった飲食店専門の店舗設計施工会社さんです。施工技術店舗デザインのクオリティも高く、過去実績も豊富で自信をもっておすすめできる優良業者さんですので大阪京都界隈で飲食店の新規開業を考えられている方は是非ご参考にされてください。


④ 要点まとめ

・ 店のレイアウトが営業に及ぼす影響は大きい
・ 飲食店はキッチン、ホール、バックヤードの構成
・ まずは店の心臓部であるキッチンから考える
・ キッチン設備は縮小モデルを作成して慎重に検討
・ ホールレイアウトはキッチンとの連動で考える
・ 客、スタッフ、料理の動線を最重視する
・ 席間隔や居心地、席数やテーブルサイズにも配慮
・ 自分でできない方はプロの店舗設計士に依頼
・ 最終的には施工業者の意見を取り入れつつ決定
・ 店舗は飲食専門で実績のある業者とつくること

※内容にご意見ご質問等ございましたらお気軽にコメントくださいませ。

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