たーくん。

小説、音楽、ゲームが好き。 色んなものを見て、聞いて、感じて、不思議な世界を作りたい。…

たーくん。

小説、音楽、ゲームが好き。 色んなものを見て、聞いて、感じて、不思議な世界を作りたい。 ショートショートガーデン、エブリスタでも活動してます。

最近の記事

山のポ

毎日降り続ける止まない雨に、村人達は困っていた。 「長老、なんとかならないんですか」 不安が限界に達し、私に訴えてくる村人達。 こうなったら、あれをするしかない。 「この雨は我々人間に対する神の怒りだ。怒りを沈めるために山頂でポをするしかない」 「ポ?なんですかそれは?」 「ポとは文字ではなく、記号だ」 「はい?」 紙にポと書き、村人達に見せて説明する。 「ポの下の部分が焚き火、上が空に向けて腕を縛られている人。○部分が頭だ」 「そう言われると……見えますね」 私の説明で村人

    • 海のピ

      応募者の中から、俺が海のピに選ばれた。 これで水着ギャル達とキャッキャウフフ出来る。 雲一つない土曜日、ピの仕事をする為に海に来た。 浜辺に居たのは水着ギャル達ではなく、爺さん一人。 「あれ?水着ギャル達は?」 「何を言っとるんじゃ。ここの海をPRする為に来たんじゃろ」 「ピってプロデューサーの意味じゃ……」 「違う違う。PRのピじゃ。若者言葉でよく一文字で表現するじゃろ?あれを真似たのじゃよ」 「マ?」 思わず若者言葉が出た。 スマホで求人情報を確認すると、海を背景に水着ギ

      • 織姫妖怪

        七夕という行事は無くなった。 天の川は崩壊し、地上に星々が落ちて甚大な被害をもたらしたらしい。 彦星は天の川の崩壊を防ごうとしたが、星々と一緒に流されて行方不明になったと聞く。 二百年経った現在、彦星はまだ発見されていない。 こうなった原因は織姫だ。 織姫は天帝を倒すために数百年掛けて魔力を蓄えていた。 彦星と一年に一度だけでなく、ずっと一緒に居るために。 魔力で妖怪に化けた織姫は天帝を倒すことが出来たが、魔力をコントロール出来ず、自我が無くなり天界を暴れ回ったという。 これ

        • 彦星誘拐

          七夕当日、天帝は彦星を更にいじめるために誘拐した。 突然誘拐された彦星は天帝に訴える。 「天帝様!なぜ僕を誘拐したのですか!」 「そう怒るな彦星。お前に頼みたいことがあるのだ」 天帝が彦星を連れていった場所は、天界の農場。 雲の芝生と数え切れない程の牛で埋め尽くされている。 「ここの牛の世話を彦星一人でやってもらいたい」 「今日は織姫と会うのに……でも、やらせてください!」 「さすがドMの彦星だ。頼んだぞ」 天帝は彦星を置いて去っていった。 彦星は牛の世話をするが、夜になって

          一方通行風呂

          一方通行と温泉マークが合体した標識。 道は途中で途切れ、湯気を出した長い川が果てしなく続いている。 「マスターの体臭レベルは9です。ここで洗い流すことを推奨します」 「……入ってくるからここで待ってろ」 口うるさいバイクから降り、川へ向かう途中でロボットに声をかけられる。 「おや、人間じゃないですか」 「この川は温泉なのか?」 「はい、数十年前の大地震で出来た温泉です。とはいっても客はいませんけどね。どうぞ入っていって下さい」 「そうさせてもらう」 服を脱ぎ、川に入る。 数週

          一方通行風呂

          天ぷら不眠 その2

          衣が変わってから、眠れなくなってしまった。 てか、なんだこのビチャビチャの衣は。 「親父みたいに上手く揚げれないな……」 天ぷらを揚げていたのは店主ではなく、若造だった。 店主はどこにいるんだ? 「死んだ親父の為にも頑張らないと……」 最近店主を見ないと思ったらそういうことか。 店はいつも大勢の客がいたが、今では俺だけ。 まぁ、こんな天ぷらじゃ当然か。 ポケットから紙を取り出し、若造に渡す。 「若造。これ見て作れ」 「えっ、なんですかこれは」 「揚げ方の極意だ」 そう言って俺

          天ぷら不眠 その2

          天ぷら不眠 その1

          フリマの天ぷらはビトビト油の衣に、ティッシュを噛んでいるような食感だ。 やはり天ぷらは揚げたての黄金の衣に、サクサクの食感じゃないと。 フリマで買ったのは間違いだった。 世間は今、天ぷらが大ブーム。 おかげでスーパーや店では全く買えない。 天ぷらは普段あまり食べないが、テレビで天ぷら特集を見てから毎日食べるようになった。 なんというか、天ぷらに魅了されたというか……。 今思えば、この日から天ぷらブームが始まったと思う。 今日も天ぷら買えなかったし、寝る前に天ぷらASMRを聞い

          天ぷら不眠 その1

          復習Tシャツ

          好きでもない勉強や習い事をやらされて、友達と遊ばせてくれないし毎日が楽しくない。 「竹内の名に恥じぬよう、これを着て沢山勉強しなさい」 お父さんからTシャツを貰った。 勉強嫌いのぼくのために作った物らしい。 「高い金を払って作らせたんだ。必ず着るんだぞ」 そう言ってお父さんは部屋から出ていった。 Tシャツを着て勉強や習い事をしていると、嫌でも頭の中に残る。 学校のテストでは全教科百点、習い事のコンテストで沢山の賞を取った。 だけど、お父さんとお母さんは誉めてくれない。 この成

          復習Tシャツ

          友情の総重量

          大好きな子とお揃いの服で、外に出るのは気持ちいい。 土曜日ということもあって、遊園地は大勢の人で賑わっていた。 「藍!あれに乗ってみようよ!」 朋子が指を指した先には、友情量りと書かれた大きい台。 係員の説明によると、友達と台に乗れば友情を量ることが出来るらしい。 「面白そうだね。乗ってみよっ」 朋子の手を握り、乗ろうとした瞬間、朋子の手にぎゅっと力が入る。 「藍、私達、親友だよね?」 朋子が不安そうな顔をしながら聞いてきた。 「どうしたの朋子?もちろんだよっ」 「だ、だよね

          友情の総重量

          てるてる坊主のラブレター

          てるてる坊主の頭部分には、丸めたラブレターが入っている。 家庭科の裁縫で余った糸を使い、てるてる坊主を窓際に吊るす。 これで天の神様が想いを届けてくれるらしい……本当かなぁ? 窓を開けて空を見ると、分厚い雲が流れてきて、青空が消えていく。 空からぽつぽつと雨粒が落ち、やがて本降りに。 「今日は晴れじゃなかったのかよー!」 空に文句を言いながら、家の前を小走りで通り過ぎる男の子。 想いを届けようとした相手、佐藤君だった。 これは天の神様が与えてくれたチャンスかもしれない。 急い

          てるてる坊主のラブレター

          祈願上手

          仕事の合間に、新しく出来た神社に来た。 賽銭箱の前で手を合わせて祈る一人の男。 彼は天界から選ばれた、この神社の神候補。 私は今修行中の彼の様子を見に来たのだ。 彼は祈り終わって去った後、しばらくするとまたやって来て、祈って去っていく。 それを何回も繰り返していた。 熱心のようだが、なにかおかしい。 彼のあとをついていき、何をしているのか見てみよう。 彼が町を歩いていると、よく声をかけられていた。 彼に五万円を渡し、代わりに祈願してきてほしいと頼んでいる。 その理由は、彼が祈

          文学トリマー

          応募締切一週間前、ようやく一通り書き終えた。 長時間文字を打っていたので、目がショボショボだ。 今回は小説コンテストのミステリー部門と恋愛部門に応募する。 文字数の上限は五万字~七万字。 書き終わった小説の文字数を確認すると、どちらも十万字越えている。 ここから約三万字削らないといけないが、あと一週間で終わらせる自信がない。 そこでだ、最近登場した文学トリマーというAIツールを使ってみる。 名前の通り、不要な文字を削り、綺麗に整えてくれるのだ。 本当はツールに頼ってはいけない

          文学トリマー

          二億斉藤

          俺は人類最後の斉藤として、オークションに出品された。 斉藤という平凡な苗字が、こんな貴重になるとは……。 てか、あっさりと絶滅するなよ俺以外の斉藤達よ。 考えている間に俺の値段が上がっていく。 「二億で落札です!おめでとうございます!」 どうやら俺は二億の値段がついたらしい。 無価値だった俺が、希少価値になるなんて思わなかった。 落札したのは、金のネックレスを首に沢山かけているザマス婦人。 俺は目隠しされ、どこかへ連れていかれる。 「今日からここがあなたの部屋ザマス」 ようや

          記憶冷凍 その2

          地球から遠く離れた宇宙に、科学技術が発展している惑星がある。 そこに住む宇宙人はある日、道中で金属の箱を拾う。 箱の中には氷が入っていた。 宇宙人が氷を舐めると、宇宙人の頭の中に記憶が流れ込む。 世界中の人々から見送られ、地球から宇宙へ旅立った宇宙探索隊。 目的は、地球に似た惑星を探すこと。 数ヶ月後、惑星を発見し、地球へ帰還途中で宇宙船に異常が発生。 修理しても直らず、燃料が尽きて宇宙をさ迷い続ける。 もう助からないと考えた探索隊は、自分達の記憶を1つの氷にまとめることにし

          記憶冷凍 その2

          記憶冷凍

          久しぶりに会った前カノの凜は、俺のことを覚えていなかった。 ……凜も記憶冷凍したのか。 忘れたい記憶だけを固めて、思い出さないようにする最先端技術。 病院で記憶科が出来るほど流行っている。 俺は凜と、もう一度やり直したかった。 喧嘩別れして、後悔と未練があったからだ。 医師が言うには、強い刺激を与えないと解凍出来ないらしい。 どうしようか悩んだ結果、俺は凜との関係を1からやり直すことにした。 まずは凜と友達になるところから始め、友達になってから1年後、俺達は再び恋人になること

          放課後ランプ

          部室で着替えて外に出ると、薄暗くなっていた。 夕日が沈んでいき、その後を追うように月が姿を現す。 友達と一緒に帰るために部室棟の前で待ち合わせしているが、いない。 お互い違う部活だから当然か。 さっきまで部活に励む声があちこちから聞こえていたのに、今は静かだ。 無数の屋外ランプが学校の敷地内を照らす。 見た目は小さいランプだが、力強く光っている。 放課後の時間帯になると自然に明かりが灯るらしい。 地面には伸びた自分の影。 影を見ていると、父から言われた言葉を思い出す。 “人生

          放課後ランプ