たーくん。

小説、音楽、ゲームが好き。 色んなものを見て、聞いて、感じて、不思議な世界を作りたい。…

たーくん。

小説、音楽、ゲームが好き。 色んなものを見て、聞いて、感じて、不思議な世界を作りたい。 ショートショートガーデン、エブリスタでも活動してます。

最近の記事

友情の総重量

大好きな子とお揃いの服で、外に出るのは気持ちいい。 土曜日ということもあって、遊園地は大勢の人で賑わっていた。 「藍!あれに乗ってみようよ!」 朋子が指を指した先には、友情量りと書かれた大きい台。 係員の説明によると、友達と台に乗れば友情を量ることが出来るらしい。 「面白そうだね。乗ってみよっ」 朋子の手を握り、乗ろうとした瞬間、朋子の手にぎゅっと力が入る。 「藍、私達、親友だよね?」 朋子が不安そうな顔をしながら聞いてきた。 「どうしたの朋子?もちろんだよっ」 「だ、だよね

    • てるてる坊主のラブレター

      てるてる坊主の頭部分には、丸めたラブレターが入っている。 家庭科の裁縫で余った糸を使い、てるてる坊主を窓際に吊るす。 これで天の神様が想いを届けてくれるらしい……本当かなぁ? 窓を開けて空を見ると、分厚い雲が流れてきて、青空が消えていく。 空からぽつぽつと雨粒が落ち、やがて本降りに。 「今日は晴れじゃなかったのかよー!」 空に文句を言いながら、家の前を小走りで通り過ぎる男の子。 想いを届けようとした相手、佐藤君だった。 これは天の神様が与えてくれたチャンスかもしれない。 急い

      • 祈願上手

        仕事の合間に、新しく出来た神社に来た。 賽銭箱の前で手を合わせて祈る一人の男。 彼は天界から選ばれた、この神社の神候補。 私は今修行中の彼の様子を見に来たのだ。 彼は祈り終わって去った後、しばらくするとまたやって来て、祈って去っていく。 それを何回も繰り返していた。 熱心のようだが、なにかおかしい。 彼のあとをついていき、何をしているのか見てみよう。 彼が町を歩いていると、よく声をかけられていた。 彼に五万円を渡し、代わりに祈願してきてほしいと頼んでいる。 その理由は、彼が祈

        • 文学トリマー

          応募締切一週間前、ようやく一通り書き終えた。 長時間文字を打っていたので、目がショボショボだ。 今回は小説コンテストのミステリー部門と恋愛部門に応募する。 文字数の上限は五万字~七万字。 書き終わった小説の文字数を確認すると、どちらも十万字越えている。 ここから約三万字削らないといけないが、あと一週間で終わらせる自信がない。 そこでだ、最近登場した文学トリマーというAIツールを使ってみる。 名前の通り、不要な文字を削り、綺麗に整えてくれるのだ。 本当はツールに頼ってはいけない

        友情の総重量

          二億斉藤

          俺は人類最後の斉藤として、オークションに出品された。 斉藤という平凡な苗字が、こんな貴重になるとは……。 てか、あっさりと絶滅するなよ俺以外の斉藤達よ。 考えている間に俺の値段が上がっていく。 「二億で落札です!おめでとうございます!」 どうやら俺は二億の値段がついたらしい。 無価値だった俺が、希少価値になるなんて思わなかった。 落札したのは、金のネックレスを首に沢山かけているザマス婦人。 俺は目隠しされ、どこかへ連れていかれる。 「今日からここがあなたの部屋ザマス」 ようや

          記憶冷凍 その2

          地球から遠く離れた宇宙に、科学技術が発展している惑星がある。 そこに住む宇宙人はある日、道中で金属の箱を拾う。 箱の中には氷が入っていた。 宇宙人が氷を舐めると、宇宙人の頭の中に記憶が流れ込む。 世界中の人々から見送られ、地球から宇宙へ旅立った宇宙探索隊。 目的は、地球に似た惑星を探すこと。 数ヶ月後、惑星を発見し、地球へ帰還途中で宇宙船に異常が発生。 修理しても直らず、燃料が尽きて宇宙をさ迷い続ける。 もう助からないと考えた探索隊は、自分達の記憶を1つの氷にまとめることにし

          記憶冷凍 その2

          記憶冷凍

          久しぶりに会った前カノの凜は、俺のことを覚えていなかった。 ……凜も記憶冷凍したのか。 忘れたい記憶だけを固めて、思い出さないようにする最先端技術。 病院で記憶科が出来るほど流行っている。 俺は凜と、もう一度やり直したかった。 喧嘩別れして、後悔と未練があったからだ。 医師が言うには、強い刺激を与えないと解凍出来ないらしい。 どうしようか悩んだ結果、俺は凜との関係を1からやり直すことにした。 まずは凜と友達になるところから始め、友達になってから1年後、俺達は再び恋人になること

          放課後ランプ

          部室で着替えて外に出ると、薄暗くなっていた。 夕日が沈んでいき、その後を追うように月が姿を現す。 友達と一緒に帰るために部室棟の前で待ち合わせしているが、いない。 お互い違う部活だから当然か。 さっきまで部活に励む声があちこちから聞こえていたのに、今は静かだ。 無数の屋外ランプが学校の敷地内を照らす。 見た目は小さいランプだが、力強く光っている。 放課後の時間帯になると自然に明かりが灯るらしい。 地面には伸びた自分の影。 影を見ていると、父から言われた言葉を思い出す。 “人生

          放課後ランプ

          トラネキサム酸笑顔

          私は笑うと顔にヒビが入り、出血するという難病を持っている。 こんな病は見たことがないと医師から言われた。 治す方法はないらしいが、トラネキサム酸錠を飲めば出血を抑えることが出来るらしい。 でも、そこまでして笑いたくない。 だから私は、ずっと無表情で生きてきた。 皆が笑っていても、私は無表情のまま。 小学校でも、中学校でも、高校生になった今でも。 もう二度と私が笑うことはないだろう。 ある日、母が急に倒れ、病院に運ばれる。 重い心臓病で余命二ヶ月と宣告された。 突然のことで頭が

          トラネキサム酸笑顔

          春ギター

          家で日向ぼっこしていると、少し開いた窓から風が入ってきた。 暖かくて、春の匂いがする。 この風は、どこから来ているのだろう? すごく気になって、窓から外へ出た。 風がふいている方向に向かって歩く。 まるで風に誘われているみたいだ。 着いた先は、公園。 間違いない。ここから春の匂いがする。 公園内を歩いていると、遊具で遊んでいる子供達から注目を浴びる。 歩くたびに鳴る鈴の音で目立っているのだろう。 更に奥へ進み、木が沢山ある所に来た。 木にはピンクの花が付いていて、すごく綺麗だ

          オバケレインコート

          今日は霊能者の仕事で夜のトンネルに来た。 歩行者と自転車専用だが結構広い。 半分を過ぎた所に、身長が低い子供の幽霊が居た。 白いレインコートを着ていて、フードを被っている。 俺は幽霊に近づき、話しかけた。 「君の弟から伝言を頼まれた」 60年前、このトンネルで事故があった。 当時の天気は雨で、レインコートを着た兄弟が自転車で走っていると、前から走ってきたバイクと正面衝突。 両者共吹き飛ばされ、壁に激突。 弟は助かったが、兄とバイクの運転手は頭を強く打ち死亡した。 「ここはつま

          オバケレインコート

          深煎り入学式

          体育館に入る前、新入生全員に真っ白のコーヒーカップを渡された。 持ったまま入学式が始まり、新入生達は困惑している。 カップの中身はブラックコーヒー。 白い湯気が立ち上っていて、熱そうだ。 新入生達が並ぶ前で、校長が挨拶を始めた。 「新入生の皆さん。入学おめでとう。今手に持っているコーヒーカップが気になっていますよね。そろそろ飲みやすい温度になっているので飲んで下さい」 新入生達はコーヒーを一口飲む。 眉間にシワを寄せ、苦い顔をしている。 「皆さんが飲んでいるのは、深煎りコーヒ

          深煎り入学式

          命乞いする蜘蛛

          俺の部屋には蚊取り名人がいる。 部屋の隅を縄張りにしている小さい蜘蛛だ。 本当は蜘蛛の巣を除去したいが、蜘蛛のおかげで蚊は一匹もいない。 「その調子で蚊を食べ続けてくれ。さもなければ……」 蜘蛛に殺虫スプレーを見せる。 スプレーを見た蜘蛛は、目を大きく見開きながらウンウンと頷く。 駆除しない代わりに蚊を食べるよう蜘蛛と契約を交わした。 ある日、蜘蛛の巣を見ると、蜘蛛と蚊が楽しそうに話している。 「今日中にその蚊を食べろ。さもなければ……」 蜘蛛に殺虫スプレーを見せる。 蜘蛛は

          命乞いする蜘蛛

          桜回線

          全国の桜の木は、回線で繋がっている。 連絡し合って、開花はいつにするかを決めているらしい。 決まった日に一斉開花するので、花見の計画が立てやすくて便利だ。 桜の木が回線を使っているのは、開花の相談ぐらいという。 もっと色んなことに使えばいいのに。 例えば……。 コンコンと、桜の木にノックする。 返事は返ってこない。 別の桜の木から、何か反応が返ってくるとか。 もう一度、桜の木にノックする。 遠く離れた桜の木にいる人と話せるとか。 ここ数日、俺は桜の木にノックしたり、話しかけた

          三日月ファストパス

          かぐやは月バスに乗って月へ帰る為、お爺さんとお婆さんに最後の挨拶をしていた。 「ファストパスのおかげで月へ帰れます。二人共ありがとう」 月バスで誰でも月へ行けるようになったが、大人気で入手が難しい。 お爺さんとお婆さんは、長蛇の列に並んでようやく入手したのだ。 「かぐや、そもそもお前が悪いのだ。月の者が迎えに来たのに、都で遊んでおったから」 お爺さんは苦笑いしながら言った。 「求婚してきた者達と博打をしていて忘れてましたの」 賭けの結果はかぐやが全勝。 求婚者達は、かぐやを手

          三日月ファストパス

          お返し断捨離

          俺と彼女は、お互い未練があってなかなか前の恋人から貰った物を捨てられない。 彼女は前に俺の部屋にあった物を処分してくれたので、今度は俺が処分してあげるよと提案すると、彼女は快く了解してくれた。 よし、うまくいったぞ。 彼女を部屋の外に出して、目的の物を探す。 一ヶ月前に設置したから、データ容量は一杯になっているはずだ。 ……ない、ないぞ!床に設置したはずなのに。 「探し物はこれかしら?」 部屋に入ってきた彼女の手に持っていたのは、小型カメラ。 「私の部屋を盗撮してたなんて最低

          お返し断捨離