見出し画像

安全を確保する意味(バーニングオーシャン)

 おはようございます.今回から,インスタグラムと連携させながら,noteを投稿していきたいと思います.

 さてさて,今回は,GWの間に映画を見ました.それが今回取り上げるテーマなのですが,
昨年度に投稿した新入生のオンライン部活動で取り扱った安全工学を再度取り上げていきます.つまり,メキシコ湾原油流出事故.特に,映画「バーニングオーシャン(Deepwoter Horizon)」のアウトプットを改めてしようかと思います.

 といっても,前回の内容よりも,かなり深い内容です.

最初に,この事故(メキシコ湾原油流出事故)の概要を説明し,映画の内容に入っていきます.まずは,予告編から見ていきましょう.

海底油田掘削

まず、海底油田掘削について、説明しましょう。石油掘削のイメージは、コカ・コーラの缶に、金属製のストローで突き刺すようなものです。そうすると、コカ・コーラが吹き出ます。このコカ・コーラが石油であり、ストローがパイプです。油田では,この石油(コカ・コーラ)の吹き出を調整しながら,石油を取り出しています.

さて、海底油田の掘削リグとは,このようなシステムです(日本海洋掘削JDC HPより)

この上部にあるものが石油掘削リグと呼ばれるものでです.さて,この深さは数100m程度もありますので,当然チェーンなどで固定されません.ダイナミックポジショニングシステム(DPS)を用いています.
 このDPSとは,海流や風力に合わせて能動的に静止するシステムです.例えば,東から西へ2m/sの海流が流れていたら,リグは東へ2m/sに動くことで,プラスマイナスゼロになるという寸法です.(Ipodのノイズキャンセリング機能に近いところです)

 さて,掘削のシステムを説明していきます.掘削は,木にドリルで穴をあけることとは少し異なります.掘削のように100m以上掘る場合,掘削のくず(切り子)や地圧が大きな問題になってきます.掘削のくずがビット(実際に掘る刃)の邪魔をしてしまう問題や,この屑を排出する問題,そして,掘削してできた壁面が地面の圧力に押されて,ビットの動きが悪くなり、最悪穴が崩壊する現象です.
 そこで,「泥水」という水を使います.この泥水は,ドリルピットの中心から掘削の屑を排出し,ふちを通って,内圧を加え、壁ができるまでの間、穴の崩壊を防ぎます。
この泥水の圧力を調整し、穴のパイプの状態のコントロールしているのは、暴噴防止装置(BOP)です。このBOPは、泥水の圧力などを計測する役割と、このパイプを緊急時には、強制的に閉じる役割を持ちます。逆に、この泥水、ひいては掘削時の石油が噴出する現象を暴噴といいます。

このメキシコ湾原油流失事故は、暴噴事故です。

さて、ここまで、掘削のことを説明してきました。次に、この掘削が終了し、油層(石油の埋まっている層)などに、掘り当てる状態、つまり油井ができると、仮廃坑します。この仮廃坑とは、掘削を行う掘削リグから、生産を行う生産ターミナルに移行するために、掘削リグで開けた穴を一旦セメントで塞ぐ工程です。この後、生産ターミナルで、再度穴を開け、生産に至るのです。

メキシコ湾原油流失事故の概要(映画の前段階)

この事故は、正確に言えば、仮廃坑(セメンチング)の失敗と、圧力テストの不手際による暴噴事故です。

 そこで,映画の物語の前の物語(2020年4月10日以前)の話をしていきます.前提として,この事故にかかわる会社は,主に3つ(BP(ブリティッシュ・ペリトリアム,油田の主要権利者),トランスオーシャン(掘削の受注),ハリバートン社(掘削時のセメントを受注))です.今回は,この3つの会社から考えていきます.
 さて,この事故を起こした掘削リグ(Deepwater Horizon)の工程は43日と大きく遅れていました.この遅れによる焦りが事故に大きく作用していきます.

 まず,ハリバートン社です.ハリバートン社は,セメンチングに用いる特殊なセメント(その油井に合わせて調合したセメント)を製造しましたが,納期に合わせるために,品質が悪いものを作りました.
 このセメントは,かたまり具合を確認し,穴の有無などを確認し,規定された長さ分が個体になっているかを調べています.その良し悪しを見て調合していきますが,セメントが均一に固まらず,上部がスカスカになっていました.当然,スカスカの上部はセメントとして蓋をする仕事はできません.しかし,それをBPやハリバートン社には報告していません.

 次にBP,工程の遅れによる焦りから,セメンチングのかたまり具合のテストを一部省略します(省略しなかった試験は本編にあります).また,もしセメントのきき具合が不十分でも、坑底に設置した逆止弁が機能することで,暴噴は防げると考えていませんでした.しかし,結果として十分に機能しませんでした.
 そして,セメンチングにおいても,セメントを適切に固まらせるために,位置決め装置(センタリング装置)を適切に設置する必要があります.イメージでは,ホールのケーキを買った箱にあるツメに近いでしょうか,位置を確定し,セメントを固まりやすくするものです.このセンタリング装置ですが,計算結果は21個必要なところ,6個しか使われていません.
なぜなら、手持ちの在庫が6個しかなく、納期の遅れを恐れたからです。実際メールでは、「まあ、大丈夫だろう」という趣旨が書かれ、暴噴のリスクは考えられませんでした。

 最後にトランスオーシャン社です.この会社のミスが大きく響いてきますが,それは本編のほうで話します.

 また,このセメントについては,ハリバートン社が「この現場では難しいのではないか」という提案をしましたが,一蹴されます.

事故当日(2010年4月10日)映画本編

 これから,映画の内容,事故当日の流れに入っていきます.

 まず,このセメンチング作業の進捗状況を聞くところから始まります.セメントが効いているかどうかは専門家が坑井内に機器を下して、その固まり具合をチェックします. しかし、実際は工期の遅れを取り戻すため、チェックを省略します。BP の担当者はもしも,セメントのきき具合が不十分でも、坑底に設置した逆止弁があるため、油の坑井への流入は防げると考えました(しかし,この逆止弁は事故時に機能しません).

 つぎに,このセメンチングのテストとして,ネガティブ型の圧力テストが行われます.これは,泥水の圧力を下げ,、油やガスが坑井内へ流入しているかをチェックするテストです.
 海水は泥水に比べ比重が低いため、坑底の圧力が油の層の圧力より下がり(ネガティブ)、油が坑井内に流れこみやすい状態になります.結果として,テスト用の管(ドリルパイプは本パイプとテスト用の2本ある)の圧力は0であり,海水の流入は検出されず,一応のテスト合格です.

 しかし,このとき本パイプの圧力は高いままでした.つまり,テストのデータの処理に問題がありました.おそらく,テスト菅の圧力センサーが正しくワークしていなかったのです.

 詳しく解説します.先ほども書いたように,ドリルパイプは2本の管から構成されます.ここで,飲み物の入ったコップにある二本のストローとして,ドリルパイプの2つの管を見立てましょう.この二本のストロー両方を口に加え,同時に圧力を下げる(つまり,飲み物を飲もうと吸い上げる)と,ジュースは同時に上がっていき,同時に口の中に入ります.つまり,2つの圧力は同じ訳です.

 2つのパイプの圧力が全く違った値を指しているとき,その圧力データは簡単に信用してよいデータではなくなります.しかし,明らかな異常値を指していたのです.このミスは,トランスオーシャン社の技術者と,BPの技術者によるミスだと,映画で演出されます.


 さて,ここで,セメンチングに失敗していた.つまり,セメントの蓋が機能していない時を考えましょう.このテストのために,泥水の圧力を下げたために,下からの圧力が勝り,だんだんとパイプの圧力と石油などが上がってきます.その圧力上昇も数時間にわたって続きますが,トランスオーシャン社の技術者は見逃します.

 最終的に、泥水もパイプを上昇し、リグに到達、噴出します。これが、一つ目の事故です。
泥水が噴出した後、石油ガスが出て来ま,リグに充満します。ここで、この掘削リグのDPSは、エンジンで電気を生み出し、その電気で動いています。このエンジンに天然ガスか到達、天然ガスが爆発します。
エンジンが停止します。DPSが機能を失います。さらに、ドリルパイプの逆止弁は機能せず,BOPのパイプ閉じ装置もバッテリーが上がっており,油井に蓋をすることは,できませんでした.

 そのうちに,リグ全体が火災に包まれ、技術者は脱出します。

これが、事故の全貌であり、映画の物語です。

(炎上する石油掘削リグ Deepwater Hrizon)

事故のあと、メキシコ湾原油流失事故へ

 このリグの火災の影響で,21世紀最大の人災とも言われる「メキシコ湾原油流出事故」になっていきます.

 まず,火災によって,DPS(位置保持機能)が停止しますと書きました.つまり,海流でリグは流され,坑口が破損,ついに,原油が漏れ出します.さらに,BOPが機能を停止し,もはや原油の流出は止められません.

 その後,78万kLもの原油が流出する大惨事になります.(だいたい,この石油備蓄基地の半分です,写真串木野国家石油備蓄基地)

この石油は,生態系および,メキシコ湾原油流出事故の漁業に大きな禍根を残すのです.(写真,AFPニュースより)

事故の事後処理については,どたこたしていますが,それは別の話にしたいと思います.

事故の私見

 僕は,この事故は,リアルタイムで覚えています.当時僕は10歳でしたから,かろうじて記憶があるころです.しかし,この映画(2015年)までは,そんなに強く印象づいているものではありません.ただ,この予告編が非常に怖いものだから覚えているのです.

 しかし,この原因は,どこにあるのでしょうか?.数々の安全装置や事故防止装置をくぐり抜けて事故は起きました.それは,安全に対する意識の希薄さと,事故のリスクを考えず,「今回も成功するだろう」と思っていたからです.実際,このDeepwaterHrizonは,無事故記録を更新しており,事故の当日には無事故の表彰式も行われていたのですから.その慢心が原因にあったのです.

 ここで,安全の原則を思い出します.

安全は確認して初めて,安全である
安全第一 品質第二 生産第三

 この原則が,組織やコストを気にするようになり,忘れられていたのでしょう.


 翻って,僕自身について、考えます。日々事故のリスクを考えながら暮らしているか、と聞かれれば、嘘になります。

「どうにかなるだろう」と考えて,やったことで,大失敗したり,予想外のことがあったりと,本当に失敗してばかりです.

 意識しなければと,改めて思いました.


 今回の事故は,設計の失敗や,オペレーション上の失敗と,メンタル的な焦りが生んだ事故です.ここまで,事故の原因を悪く書くような書き方をしてきました.しかし,事故とは,ここで書いたことだけではありません.技術者の思いや考え,メンタルヘルスなど,様々な要因が重なって,事故は起きた.それを簡単に誰が悪いなどと断定することは決してできません.

 しかし,事故に無関心でいることもいけません.事故の概要だけを見て,だから海洋開発は危険とかの思想は思考停止です.事故がなければ,DeepwaterHorizonのチームは,無事故で表彰を受けるだけの素晴らしい掘削チームです.しかし,チームには綻びがあったのも事実であり,慢心が事故を生んだ.私はそこを改めて考えています.

 映画では,この慢心による気の緩みのある技術者や,焦燥を覚える技術者が描かれます.でも少なくとも,事故がなければ,焦燥を覚える技術者は,早とちりです.

僕たちが映画を見るとき、事故が起きるという結果(未来)を知って、映画を観ます。ですが、日常の中にあったら、(いやそれが全ての事故なのだが)、と思うとゾッとします。


 安全とは何かを改めて考えるGWでした.そして、安全を大切にする技術者になりたいと再度思いました。
(安全というテーマで記事を書こうかな…)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?