フェーズ5.LGBT人材が複数になる(複数のLGBTがカミングアウトして、「LGBTもまた多様」という現実に皆が気づく)
さて、私が組織で初めてカミングアウトして、割と早い段階で気づいたことがあります。それは「あぁ、LGBTってもっと独特な人かと思ったら、普通の人で良かった」と言う人が多いこと。私が独特かそうでないかは分かりませんが、きっと当時2015年頃は、“ゲイ”と聞けば、テレビに出演して活躍している“オネエタレント”のような人を想像・想定する人が少なくなかったのではないかと思います。
■「普通のままのお前でいろよ」とアドバイスされた話
実は、所属していた会社の役員から、世の中の組織にダイバーシティ推進を提案することになった時に、言われていたことがありました。それは「今のまま、“普通”のままのお前でいろよ」ということでした。
私はもともと、あまりヘアスタイルにも、服装にもこだわりがないタイプ。なので、普段から、いたって普通の男性用スーツ、男性用シャツ、男性用を着用していました。
役員が言うには、「LGBTと聞いて、気構えて(緊張して)いる人に、渡辺が奇抜な恰好やファッションで会いに行ったら、“やっぱり、自分たちの組織にLGBTを迎え入れるのは難しい”と思われてしまう」「だからこそ、“なーんだ、普通の人じゃないか。安心した”と思わせた方が、ダイバーシティが推進されるし、世の中の多くのLGBTだって受け入れられやすくなるだろう」とのことでした。
確かにそういう意味では、ファッションやスタイルにこだわりのない私は、適任だったかもしれません。その後、色々なところで、「ゲイって聞いていたから、もっとオシャレで、イケてる人をイメージしていた」とか、「ゲイの割には普通の顔ですね」とか、失礼なことを言われるのですが(笑)、『すぐ隣にいそうな人』が、LGBT、性的マイノリティである可能性がある、という現実を知ってもらうには、ちょうど良い見た目・恰好をしていたのだろうと思います。
■ゲイは、男の気持ちも、女の気持ちも分かる!?
ちょっと前置きが長くなりましたが、もうひとつ気になっていたのは、「ゲイって、渡辺さんみたいな人のことを言うんですね」という言葉も増えていった、ということ。「うちの会社にはLGBTがいますが、彼はとても賢くて」とか、「ゲイであることを公表している渡辺さんは、資料制作のデザインセンスが良くて」とか、「ゲイだからか、後輩指導が上手くて」、「マイノリティだからか、面倒見が良くて」「繊細だから、営業力もあって」と、そんなくくられ方をされることに違和感を覚えました(ネガティブな意見としては、「ゲイだからか、ちょっと変わっていて」「少数派だからか、主張が尖っていて、たまに面倒くさくて」「マイノリティだからか、わがままで」なんていう評価もありました)。
よく「ゲイは、男の気持ちも、女の気持ちも分かる」といった誤解がありますが、私も、そう思われていたことがあります。理由は、おそらく、20代の中盤から女性を多くマネジメントしてきたから、と、女性の部下の色々な話を聞いていたから、と、学生時代に舞台をやっていて“役作り”をしてきたから、だと思うのですが、そういった努力や経験も知られずに、「ゲイだから」で済まされてしまうことに葛藤も覚えました。
■「LGBT=渡辺さんみたいな人」は大きな間違い
他にマイノリティの人がいないと、「渡辺さん=ゲイ」「LGBT=渡辺さん」と誤認されてしまうような気がして、その頃の私がよく言っていたのが、「他のLGBTの従業員がもっと増えないと、ダイバーシティ推進は難しい」ということでした。
「女性は」とひとくくりに言っても、A子さん、B子さん、C子さんと3人いれば、3人とも異なる性格、異なる考え方を持っているように、ゲイについても「ゲイは」とひとくくりにはできません。レズビアンも、バイセクシャルも、トランスジェンダーも、属性ではあるけれども、そのレッテルで、その当人(一人の人)を表現することはできない――。これをどう伝えたら良いのかを考えた時に、「組織内・職場内に複数のLGBTがいる方が、自然だな」ということでした。
結論から言えば、幸運なことに、私のいた会社にはその後、LGBTであることをカミングアウトして入社する人が続き、周囲の関係者も「あぁ、渡辺さんと〇〇さんは、同じ“ゲイ”だけど、全然違う人だ」という事実に気づいてもらうことができました。
ちなみに、当時、カミングアウトして入社したゲイをマネジメントしていた同僚からは、「歓迎会で、皆が酔っ払って、家族の話とか恋人の話とかをした時に、“パートナーはいるの?”と自然に訊けたのは、渡辺さんと恋愛の話をしたことがあったから」と打ち明けられたことがあります。「ありがとう」とお礼を言われ、「え? 何故お礼?」と戸惑いながらも、私以外のLGBTを受け入れる組織風土ができていたことに嬉しく思ったのでした。
■LGBTの当人が、何をどう感じているかは、本人に訊いてみないと分からない
今でもダイバーシティ関連の相談をいただく際に、「LGBTは組織に何を求めているのでしょうか」とか、「LGBTはこんな時、どう感じるのでしょうか」とか、様々な質問をいただきますが、私はいつもこう答えています。「それはそこにいる当人にしか分からないから、是非、訊いてみてください。私は“私だったら”と想像して答えることはできるけれども、それがすなわち、貴社の中にいるLGBTの気持ちと同じとは限らないので、やはり本人に率直に話を聞くのが誠実です」と。
…まぁ、それだと講師業として、ビジネスにならないので、「正しい訊き方」や、「多くのLGBTが感じること(一例)」として、考えを述べさせていただくことがありますが、「渡辺さんが言ったから」と鵜呑みにされないように、いつも注意しています。
■十人十色。それぞれに自分のカラーを出していけたら、それがいい
十人十色、という言葉がありますが、私は、この表現が好きです。男性も、女性も、LGBTも、十人いれば十の色があるはず。それを認め合って、支え合って、助け合って、協力し合うのがダイバーシティなら、それぞれがそれぞれの色を、周囲に臆することなく表現し体現できたらいいですよね。
ところどころ話がずれてしまいましたが、「複数のLGBTが現れると、LGBTもまた一人ひとり異なり、多様であることが分かる」というのが、LGBTが現れた組織が突き進むフェーズの5つ目の状況ではないでしょうか。
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