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石川樹脂工業_Plakiraゆらぎタンブラー誕生

これまで開発した製品の開発背景を振り返ってみるシリーズ。
今回は長く共に走ってきた石川樹脂工業と初めて開発したPlakiraゆらぎタンブラーの開発当時を振り返ってみようと思う。

・新素材トライタンを活かした製品開発の依頼を受けた
・製品開発の前にビジョンの共有からはじめた
・素材×技能×発想=新価値となる

・新素材トライタンを活かした製品開発の依頼を受けた
2016年7月石川樹脂工業(以下「石川樹脂」)とのお付き合いが始まってまず最初に相談を受けたお題は「“(新素材)トライタン”を活かしたプロダクトの開発」だった。
トライタンとは近年開発された新素材で、何も混ぜ物をしなければガラスと見間違える程の透明度を持ちながらも、車で踏んでも割れない靭性があり、温かい飲み物を入れても有害物質が溶出せず、さらにはリサイクルが可能なとても優秀で可能性の高い素材だ。
一言で“樹脂”といっても研究者の努力で進化を続けている。
この素材の可能性に一早く目をつけた石川樹脂は、既に大手外食企業に向けてお店で使用するコップ等のtoB向け商品を手がけていたが、顧客の要求を軸に製品開発をしてきたこともあり、自社で素材の良さを最大化する商品を企画し、toCに向けて発信していきたいという強い想いが芽生えていた。

さらに、この素材は買ってきて成形すれば誰でもできるものではなく、金型も特殊な上、成形条件も難しいことから国内でこの素材の特性を活かして製品化できるモールダーは今でも2社しかないとのこと。

石川樹脂_図解-03

依頼を受けてまず軸にしたいと考えたのは、この素材だから生み出せる価値を造形すること。高透明でガラスとも見間違える素材であるが故、ガラスの代替品を目指してしまいそうになるが、それはガラスを本物と捉えてそれに対するフェイクを生み出すことになりかねない。
ガラスは普遍的で魅力ある素材であるため、ガラスを否定するのではなく、トライタンだからこそ提供できる価値が生み出せれば、ガラスと共存する形でこれまで満たされていなかったニーズの空洞に対して新たな選択肢を創出することができるし、それが本質的な製品だと考えた。

・製品開発の前にビジョンの共有からはじめた
製品開発をするのあたって、「なぜ作るのか」という問いを石川樹脂と熱く議論した。近年樹脂素材は環境問題の大きな要因の一つだと認識され、一括りに樹脂素材全体が否定的な目で見られていた。
海洋に漂うマイクロプラスチックの問題の情報が一般に広まり、樹脂製ストローを紙製ストローに変えるなどの動きが世界的に広がったのは記憶に新しい。
確かにこうした問題は事実として解決していかなくてはいけない課題で、我々も取り組んでいるが、一方で人々の生活を支えている素材の多くは樹脂でできているのも事実だ。もっと目を向けるべきなのは捨てられる物を生み出したり、捨てるマナーに問題があるということも忘れてはならない。
紙製ストロー一つとっても生産するために多くのCO2を排出するため、紙=クリーンというわけでもない。最も環境負荷を減らすなら、何も作らないことだが、我々が生活をしていく上でそれは簡単なことではない。
必要な物を環境負荷を減らす努力をしながら最良の選択を続けながら生産していく必要がある。
そのために、断片的な情報だけで判断するのではなく、物が生み出される前後を丁寧に知っていくことが肝要なのだと思う。
石川樹脂とはこうした現状を踏まえ、樹脂素材だから得られる価値を紡ぎ届けることで、樹脂素材に対する世の中の理解を深めると同時に、素材の力で世界をより良くすることを目標に製品開発を進めていくことで同意した。
そこでまず着手したのが長く使える樹脂製品を目指したゆらぎタンブラーだった。

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・素材×技能×発想=新価値となる
トライタンは先述したように車で踏んでも割れない程靭性を持ち、有害成分が溶出しないことから哺乳瓶で使われるなど安心安全な素材であるため、それだけでも小さい子どものいる家庭で重宝される価値となる。
しかしこのこの割れない特性と石川樹脂の成形技術の高さを活かせばもっとできることがある。
1つ目に口元を可能な限り削ぎ落とし、底部に厚みを持たせることで安定性を確保したが、これは実は難しいチャレンジで、これまで広く使用されてきた他素材の樹脂製食器は肉厚を薄くすると簡単に割れてしまうため、厚くするしかなく、結果口当たりが悪くなりガラスと比較すると飲み物を美味しく飲めない劣った物として認識されてしまっていた。トライタンはそもそも割れない素材であるため、肉厚を薄くし口当たりを良くすることは比較的素直な解として導き出されたが、単に薄くしてしまうとタンブラー全体が軽すぎて安定性が著しく欠ける上に、使い捨てのような印象を与えてしまう。
そこで底の部分にかけて厚みを増し、口当たりの良さと安定性を両立させたのだが、一つの製品の中で厚みを著しく変えてしまうと、樹脂が冷え固まる速度にギャップが生まれ大きく歪んでしまったり素材が持つ特性が出なくなるのが常なのだ。そこで石川樹脂では幾度も成形条件を見直し、これを実現してみせた。
2つ目に口元に高低差を設けた。こうすることで、洗浄後布巾の上などに逆さに置いて乾燥する際に設置面が最小限になり、さらに空気がこもらず衛生を担保することができる。これが結果ゆらいだ形状となり名前の由来にもなった。
3つ目にタンブラーの内側の形状を緩やかな三角形状にし、外側は円形状にすることで、重ねて保管する際に隙間ができ、こちらも空気がこもらず衛生的でさらにタンブラー同士が引っ付かないように工夫した。
これらは金型で厳密な形状を再現できる利点を活かしたアイデアで、ガラスでは再現が難しいデザインともいえる。

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こうして生まれたPlakiraゆらぎタンブラーはありがたいことに初年度10万個売れ、発売から3年以上経った今でも売れ続けている。
ホテルに宿泊した際に客室にたまたま置いてある、といった景色もよく目にするようになり、少しずつ広がっているのを目にするのは素直に嬉しい。
私自身も気がつけばこのタンブラーを使わない日はない程生活に浸透している。このプロダクトを今後も長く愛していただけることを心より願っている。

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