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最新の心理学研究3選:他人を助けるときの脳、音楽療法と認知症家族、精神疾患リスクと睡眠

他人を助けるとき、脳はどうはたらく?

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バーミンガム大学とオックスフォード大学の科学者は、他人を助けるために力を注ぐときに、前帯状皮質回(ACCg)という脳部位が活性化することを発見しました。

ACCgは社会的行動に関与することが知られていましたが、他人を助けるために努力することとの関連は指摘されていなかったようです。

またACCgは、自分の利益となるような努力を要する決断をするときには活性化しないことがわかりました。

この研究では、18歳から35歳の38人を対象にし、努力型意思決定タスクに参加させ、共感レベルを自己評価するためのアンケートに回答させました。

努力型意思決定タスクには握力の測定が使われ、リアルタイムで画面に表示される値に達するまで長く握力測定器を握り続けなければならないという課題が設定されました。

そして、このタスクについて、研究者たちは参加者に機能的MRIスキャナーに入ってもらい、「やる」か「やらないか」を意思決定させました。

そして、自分のためにタスクを「やる」のか、他人のためにタスクを「やる」のか、それぞれどう意思決定するのかも尋ねました。

その結果、ACCgが、誰かを助けるために努力をするときに活性化することがわかりました。
しかし、自分のためだけに努力をするときにはまったく活性化しませんでした。

興味深いことに、共感力が非常に高いと答えた人たちは、ACCgの活性化が最も強かったようです。
また、ACCgがより活性化していた人たちは、助けるために握力をより強く発揮することもわかりました。

ACCgは社会的行動に関わっていることから、努力型の利他的行動と関連しているというのは納得ですね。
しかし、共感性がACCgの活性化を強めるというのは興味深いです。

音楽療法と認知症とその家族

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Institute for Therapy through the Arts(ITA)は「Musical Bridges to Memory」と呼ばれる、認知症に対する介入法を開発し、それが患者と介護者に感情的なつながりを生じさせることがわかりました。

この介入法では、生演奏のアンサンブルが、ミュージカル「オクラホマ」や「サウンドオブミュージック」の曲など、患者の若い頃に流行った音楽を演奏します。

そして、歌や踊りや簡単な楽器の演奏を通じて、患者と介護者が感情的なつながりを生み出します

またこの介入法は、患者の社会的関与を高め患者と介護者の双方において、焦燥、不安、抑うつなどの精神神経症状を軽減しました。

これまで認知症の研究では、患者さんだけに焦点を当てたものが多かったので、介護者にも良い影響が与えられるのは興味深いですね。

認知症は発展すると言語的なコミュニケーションもとりづらくなるので、音楽がコミュニケーションの代わりになるのは、患者さんにとっても家族にとってもありがたいことかもしれません。

精神疾患のリスクのある人は、特定の睡眠パターンをもつ

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最新の研究で、精神疾患リスクをもつ人には特定の睡眠パターンがあることがわかりました。

この記事で挙げる精神疾患リスクとは22q11.2欠失症という遺伝子上のリスクであり、これは知的能力障害や自閉スペクトラム症、ADHD、てんかん発作のリスクを高めるものです。
特に、統合失調症の最大の生物学的危険因子の一つでもあるようです。

研究チームは、6~20歳の22q11.2欠失の28人とそうでない兄弟姉妹17人の睡眠脳波を一晩にわたって記録しました。

その結果、22q11.2欠失症の人は、ノンレム睡眠(最も深い睡眠)の時間が比較的に長く、やや浅い睡眠やレム睡眠(最も浅い睡眠)の時間が短いといった特徴があることがわかりました。

これについて、深く眠れているのならいいのではないかと思われますが、実は22q11.2欠失症の人は不眠や睡眠断片化といった症状をもっていることがわかっています。
つまり、22q11.2欠失症の人は睡眠時間が短い代わりに、深い眠りが長く、浅い眠りが短くなってしまっているのです。

レム睡眠には身体をリラックスさせてくれる役割もあるので、それが少なくなってしまえば、心身ともに負担をかけてしまうんですよね。

22q11.2欠失症が精神疾患のリスク因子というよりかは、22q11.2欠失症によって生じる睡眠障害が精神疾患のリスク因子なのかもしれません。


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この記事は厳密には論文の解説ではなく、論文を基にした考察です。
なかには間違いも含まれている可能性がありますので、そのような点にお気づきになった場合は遠慮なくご指摘ください。

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