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マサカ×ノ×マサカ

コップに水を入れて、葉っぱを浮かべる。そして、コップに手を向ける。

何も起こらない。水の量が増えなければ、味も変わらない。あっ、でも不純物が…洗い残しの茶葉だ。別に念を使いたいわけではない。なんとなくノリでやってみただけだ。それなのに「お前には才能がない」とか言うもんだから、僕もムキになって「お前もやってみろよ」と言うと、何も言わずどこかへ行ってしまった。

あれから3ヵ月。一度も会っていない。

大学に行けば必ず顔を合わせる。でも、今はコロナウィルスの影響で大学へは行っていない。あいつ何してるんだろうなー、と思いながらLINEニュースを見る。

『HUNTER×HUNTER来週より休載』

またか。とは思うけれど、それほど驚かない。もう慣れた。

昼食を買いにコンビニに行く。コンビニ入ると、窓側に並べられた雑誌の棚に向かう。ジャンプを手に取り、休載前最後のHUNTER×HUNTERを読む。脳裏に焼き付けるように1コマ1コマ、じっくりと目を通す。あまりにも夢中で、近寄ってくる気配に気づかなかった。

次の瞬間、肩が外れた。

そいつは、人を驚ろかすにはあまりにも強い力で肩を叩いた。そして、「久しぶり」などと、声をかけてくる。

あいつだ。3ヶ月ほど会っていなかった、あいつだ。

こっちの肩が外れていることなど露知らず、
「気づかなかった?」「クセになってんだ、音殺して動くの」
と、僕の気分を逆なでしてくる。

肩が外れた痛みで様子がおかしい僕を見て、さすがに異変に気づいたようだ。「どうした?」と心配そうな感じを見せずに聞いてくる。僕は微かな声で、肩が外れたと伝える。すると、あいつは僕の肩の辺りに手を当て、「少しだけ我慢して」と言うと、肩を叩いた以上の力で関節を戻した。

嘘のように痛みが消え、安心した。そして、すぐに怒りが湧いてきた。もちろん、あいつに対してだ。コンビニで関節を外す奴なんて聞いたことない。僕は後ろを振り返り、怒りをぶつけようとした。が、なんだか調子が悪そうだ。腰に手を当てている。「どうした?」と心配そうに聞く。

「腰の調子が悪いんだ」

たしか前にも、同じようなことがあった。理由を聞くと、ずっと座って作業しているからと。今回も同じ理由らしい。しかし、何をしているのかは教えてくれない。そんな姿を見たら、怒りをぶつける気もなくなった。

「HUNTER×HUNTERまた休載するらしいよ。まぁ、もう慣れたけど」と僕。

「作者にも色々あるんだろ」とあいつ。

その時、僕は思った。

HUNTER×HUNTERの作者って…

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