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コンセプトをどう磨き、届けるか。立ち上げ3か月のチョコレートブランドが渋谷パルコに選ばれた理由

前回のnoteで5つの手順と題して、ぼくが実践しているブランド開発の基本的な考え方を紹介しました。

その実践編ということで、今回は「Chocolate Library」という自社ブランドをどのように開発したかを紹介していきます。結果として、このチョコレートは着想から9か月、発表から3か月で渋谷パルコの2020年バレンタインのメイン企画に選ばれ、9日間のポップアップショップをオープン。そのほかにもBEAMS 六本木ヒルズや渋谷ヒカリエなど、ファッションと親和性の高い店舗で扱ってもらうことができました

なぜチョコレートの専門家ですらないぼくが、着想から1年足らずでここまでのことができたのか。その背景や考え方が、これからブランドをつくりたい人、あるいは既にあるブランドをより多くの人に届けたい人の参考になればうれしいです。

最初のコンセプト「Very Special Chocolate」

ぼくのメインの仕事は、クライアントが持つブランドや商品・サービスの立ち上げ・成長を支援することです。いわば“エージェンシー”なのですが、いつか自分のブランドをやりたいと考えていました。

でも、なぜチョコレートだったのか?
まずはそのことを紹介させてください。

きっかけになったのは、当時お店の立ち上げをお手伝いしていたレストラン「sio」のオーナーシェフである鳥羽周作さんとの出会いです。

鳥羽シェフやその周囲の人と知り合う中で、印象的な言葉がありました。

「料理は生産者ありき。レストランはそれを紹介する媒体。だから生産者のためにがんばりたい」

ちなみに、sioは開店から2年足らずでミシュラン1つ星に選ばれるほどのお店です。職人の厳しい世界で修業を重ね、自分の腕を磨き上げた人が、素材や生産者あってこその料理だと言うのです。

同じ頃、別の友人から鹿児島県にあるデコポン農園の「山上農園」を紹介してもらいました。

多くのシェフやレストラン業界の方々が頻繁に生産者に赴き、刺激を受けていたことを知っていたので、ぼくも、この機会に生産の現場に実際に足を運んでみました。するとその農園主の山上さんの土や日光などへの変態的と言ってもよいくらいのこだわり、そして我が子に対する愛のようなデコポンへの思いがあることに気づきました。

そうした“情報”を知ることで、デコポンがよりおいしく感じられ、ぼくは一瞬で山上農園のファンになりました。同時に、ブランドのプロデューサーとしての血が湧き立つのを感じました。

そこで、思いついたのがチョコレートとの組み合わせ。

最初に書いたとおり、ぼくは自分のブランド、中でもカルチャー色の強いブランドをやりたいと思っていました。カルチャーを前に出せるブランドの代表格としてアパレルなどもあると考えましたが、素人がやるには在庫という初期投資が大きい。また、ぼくはお酒を飲まないので日本酒やワインなども当事者としてつくることができません。そんなときにひらめいたのがもともと好きだったチョコレートです。

実は当時、会社を経営する中で、“ノベルティ”の在り方に疑問を持っていました。有名店のお菓子を持っていったところで特別な話の種になるわけでもなく、自社のロゴを入れた“何か”を渡しても、お客さんにしたら「捨てるに捨てられないもの」を増やしてしまうだけかもしれない。でもノベルティ以上のクオリティでしっかりと“ブランド”にまで昇華させたチョコレートだったら嫌いな人も少ないし、喜んでもらえるのではないかそしてチョコレートはお酒やファッションと同じようにカルチャーになるだろうと考えました

日ごろからお付き合いのある特別な人に贈る、特別なチョコレート。そうした発想から、最初は「Very Special Chocolate」というコンセプトでプロジェクトがスタートしました。

残すべきこと、変えるべきこと

このチョコレートブランド立ち上げは、メインの収益源とは違う、いわばサイドプロジェクトです。それはぼくにとっても、協力してくれた仲間たちにとっても同じでした。

だからこそスピードが重要だと考え、1か月目に企画と商品開発、2か月目には試食、その翌月にはローンチするという少々無茶な計画を描きました。理由は、サイドプロジェクトであればこのくらいのスピードがないとモチベーションが続かないと思ったからです。

仲間として声をかけたのは、多くの出版・WEBメディアで編集者として活躍する黄孟志さんと大手広告代理店でプランナーとして働きながら発明家としても活動している高橋鴻介さん。まずは彼らと、コンセプトを磨くことから始めました。

前回のnoteから引用すると、この段階でのポイントは次の通りです。

自分の中である程度「〇〇をやりたい」というふわっとした思いがある状態で、そこから先は仲間とコンセプトを考えるのが肝です。先ほどの「共犯者」になれるかなれないかは、ここでどれだけ仲間に自分ごと化してもらえるかにかかっています。

ぼくが「Very Special Chocolate」という話を彼らにしたところ、2人にとって、あるいはそれを買う人たちにとっても同じようにVery Special なものになるのか、既にある高級なチョコレートを贈るのと何が違うのか、そんな疑問が浮かびました。

新しいコンセプトを模索する中で、ふと会社に置いてあった菓子折りがヒントになりました。ある程度の値段を超えたお菓子には、だいたい説明書きが付いています。ただし、それを読む人は少ないと思います。

山上農園のデコポンではないですが、おいしさは情報によって生み出される側面が少なからずあります。同じデコポンやお菓子でも、情報で価値が変わる。それはチョコレートでも同じはず。

もともとカルチャー色の強いブランドを目指す中でチョコレートにたどり着いたこともあり、漠然としたイメージとして情報感度が高く、手にするモノへのこだわりが強い人を狙った流通戦略を考えていました。品質もさることながら、「情報としての価値を軸にしたチョコレートブランド」だったら、どんなことができるか。黄さん、高橋さんとのディスカッションを重ねる中で、もともとぼくが好きだった本(読むという行為)や、参考として見ていたパッケージデザインなどが徐々に混ざり合い、最終的に「#読むチョコレート」というコンセプトにたどり着きました。

チョコレートはWhosecacaoというカカオ開発のスタートアップに協力を打診。そして“情報”の肝である、その農園の想いを文章に綴る文学作品は、黄さんの紹介でアーティスト・起業家として活躍するharu.さんに筆を執ってもらうことにしました。

ぼく1人で構想を考えていた時は、素材自体の情報や品質を前面に押し出したチョコレートだったものが、仲間のクリエイティビティや視点が加わることで、まったく違うコンセプトへと昇華し、開発が進んでいきました。

世界観の表現に妥協しなかったからこそ、“一発勝負”で伝えられた価値

プロダクトができたあと、ぼくたちはそのPRのためにレセプションパーティーを行うことにしました。ターゲットを意識して、戦略的な集客をしました。通常、この手のパーティーでは友人などを招くことも多いですが、「#読むチョコレート」の発表会には面識ない方にもたくさんお越しいただきました。

簡単に言うと、その戦略は「情報感度が高い人が興味を持つ」ものにすること。そのためにしたのが、会場選びから当日の雰囲気作りなど、あらゆるところに妥協をしないことです。

会場は数ある候補の中から、「Sta.」という編集者やクリエイターが集う渋谷・神泉エリアのレストランを選びました。当初はプロダクトが本に関わることから、ブックカフェなども候補にありましたが、レセプションパーティーを開催する狙いを今一度整理して、一番“界隈”の人の心を掴めるであろう場所にしました

会場だけでなく、当日振る舞うオリジナルドリンクは、有名コーヒースタンドのマネージャーに依頼。BGMは、ジャンルを超えた音楽で世界基準として最注目のバンド「WONK」の長塚健斗氏を会場に呼び、DJをしてもらいました。こうしたフックをいたる所に用意し、会場を訪れた人たちにプロダクトの世界観を伝えようと考えました。

レセプションパーティーの戦略から当日のディレクションまで、PRエージェントの立場で協力してもらっていたフリーランスの近藤吉孝さんはじめ、「#読むチョコレート」にかかわる各方面の人の告知によって、多くの方に一夜でプロダクトを紹介できました。

そして、そのレセプションパーティーの会場に渋谷パルコの関係者もお越しいただいていました。翌年のバレンタインデーの企画展のことをちょうど考えていたタイミングで、このレセプションのことを知り、足を運んでくれたのです。そしてイベント後、すぐに渋谷パルコから打診の連絡がありました。

現在、「#読むチョコレート」は3つのフレーバーで展開しています。ですが、このレセプションの時点ではデコポン1種類しかありませんでした。それでも、届く人には届いた。前回のnoteで書いた教訓は、ここで得た実体験でもあります。

あくまでテストするのは「コンセプトが市場で通用するかどうか」です。細部にこだわっているうちに競合が出てきてお蔵入りになってしまうのが一番もったいないということを、チームの共通認識にしておくことが大事です。

世界観が完成したら、プロダクトと“出口”を改めて見直す

レセプションパーティーが行われたのは11月の終わり。世界観が評価されたとはいえ、さすがにフレーバー1種類だけで9日間にもわたって単独のポップアップショップを出すのは心もとない。そこで、残り2か月での追加フレーバー開発を急ピッチで進めました。

そして、もう一つ重要な観点がここであります。それが、収支や損益を考えることです。

もちろん開発段階から予算や事業計画をつくってはいましたが、渋谷パルコへの出展が決まった段階で改めてP/Lを見直しました。それを経て、普段エージェンシー業務をしているぼくが抱いた正直な気持は「これだけ売れたとしてもこれだけしか利益が出ない・・・」。(ある程度の大量発注をしない限り、製造進行の各タイミングで原価が大きく膨らんでしまうためです)

赤字ではブランドが存続しませんが、儲からないからやらない、というのも自分の気持とは少し違いました。これはぼくがやっているKokuhakuという会社でも大切にしているのですが、「カルチャーをつくる」ことがぼくにとっての仕事の醍醐味だからです。

そこで、「#読むチョコレート」のこの時点での“出口”を改めて考えました。このブランドをどのように位置づけるのか。たどり着いた答えは、「読むチョコレートを会社のショーケースにする」という方針です。本業であるクライアントのブランドプロデュース業に、間接的にプラスをもたらし、さらにプロダクト自体でも(多少の)収益が出る。そう考えると、「#読むチョコレート」をやる意義に自分なりの納得感が出ました。

実際、渋谷パルコのポップアップのあと、商品開発やマーケティングに関する相談が何件かありました。プロダクト単体ではなく、より広い視点で見れば、ビジネスとしてもこのブランドは成功したといえます。

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最後に、このプロダクトの近況報告を。

現在「#読むチョコレート」はさらなるバージョンアップの準備中です。渋谷パルコに続くリアルなお披露目の場も水面下では計画が進んでいましたが、まずは今冬にオンライン販売から再開していく予定です。

すでに一冊手にとったことがある方も、そうでない方も。ぜひ次の販売をお楽しみに。

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