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祝えなかった記念日
「先週、結婚式記念日だったね」
不意に妻に声をかける。
入籍ではなく「式」を挙げた日。
少し考えて意図を察したか、妻は「ああ」と言った。「忘れてた」
お互いさま。
というか、一度も意識したことはない。
たまたま四歳息子が部屋の片隅の写真立てを眺めてて、思いだした。
祝いたがりの我ら。
晩酌は特別に乾杯しようとなった。
妻の子守唄を聞くと私も寝落ちするので、別室で待機。
寝かしつけを終えた妻と合流する。
特別なグラスに氷を入れて、――何にする?
と、横を向くとそこに息子がいた。「……もう朝なの?」
いやいやごめんうるさくして、と一時撤退。
リビングの灯りも消して、再び寝かしつけに戻る妻。
暗がりに聞こえる子守唄、の声が怪しい。
語尾の音程がずれる、フェイドアウトする、違う歌が始まる、の繰り返し。
妻も限界だった様子。
やがて聞こえてきた二人の寝息に、私も寝る支度をした。
かちわりを入れて待ちしや江戸切子
(かちわりをいれてまちしやえどきりこ)
【季語(夏): かちわり、ぶっかき氷、夏氷】
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