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「副作用」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記5

「ひやっ!」

ウォシュレットが「最強」になっていて、思わず腰を浮かした。
自分の不注意にハッとなる。今までこんなことなかった。どちらかというと慎重なタイプ。何度も石橋を叩いて渡らない男だ。ウォシュレットテロの被害にあったことなど一度もない。
なのに……。

気持ちの問題かそれとも……。ベッドサイドに置いてある薬袋を手に取る。今、飲んでいる薬一覧。

プレドニン(ステロイド・80mg)
プログラフ(免疫抑制剤・4錠)
ダイフェン配合錠(肺炎予防)
カルフィーナ(カルシウムを補う)
ケーサプライ錠(カリウムを補う)
ピタバスタチン(コレステロールを抑える)
ゼチーア錠(コレステロールを抑える)
クラリスロマイシン(副鼻腔炎治療)
カルボシステイン(副鼻腔炎治療)
ニザチジン(胃薬)

強いを飲むことで、壊される栄養素を補うを飲み、免疫を抑制するを飲むため、病気予防のを飲み、の量が多いので胃を飲む。
そら何かしら体に変化が起きても仕方ないよ。

変化と言えば、白髪染めができないので、もともと白髪傾向にあった髪はすっかり真っ白に。ストレスも重なってか、抜け毛も増えた。
一度、向かいのベッドの人がヒソヒソ話で、私のことを「60代位の人かなあ。孫が見舞いに来てたよ」と言っていた。すごく傷ついた。

一昨日あたりから、声が出なくなった。無理に出しても、かすれ声。膠原病内科とは別に、耳鼻咽喉科を受診。しかし原因は不明。逆に副鼻腔炎が見つかり、別途、治療を開始する。

「あーん」してたら虫歯も見つかり、菌の発生源は治療した方がいい、ということで口腔外科も受診。親知らずと合わせて上下5本の抜歯が決定。

さらに体重が激減。入院時より2週間で-10キロとなった。身長180cm、体重65kg。数値だけ見ればモデルさんだけど、筋肉が落ちているので見た目は非常に情けない。プレドニンの影響か、顔だけムーンフェイスなので、その姿はまるでマッチ棒。

自力歩行は出来ているが、いったんしゃがむと立ち上がるのが困難に。リハビリを開始したいが、CPKがまだ400代で、もう少し数値が落ち着いてからだという。

滅入ることばかり……そんな折に、先のウォシュレット事件なのだ。肛門科も受けさせる気かっ。

     *

「今が辛抱の時ですよ」

察したのか、主治医のルイス先生が来て優しい言葉をくれた。
(女医さんなので『ER』ファンの私は親愛をこめてそう呼んでいる)

「悪性腫瘍は合併していなかったし。あとは肺炎にだけ注意して」

ルイス先生は丁寧な方で、毎回、血液検査の結果を印刷してきてくれる。

「あと一つ。血小板の数値が低いので、戻ったら次のエンドキサンをしましょう」

「あ、あと一つ。LDLコレステロール値が高いので、食事をEC食に変更しますね」

「あー、あと一つ」
「先生。あと一つが多くないですか?」
「……あと一つだけ。血糖値も184だったので、食前に毎回、血糖測定をお願いします」
「痛いんですか?」
「注射より痛くないですよ」
「嫌だなあ。励ましにスマイルをください」
「お大事に」

言わなきゃよかった。調子にのってくだけすぎたか。明日からの往診が気まずいじゃないか。
……これも副作用だ。そう、思い込んだ。


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