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「院内コンサート」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記7

某月某日。

月替わり。今朝も採血からスタート。週2回の血液検査ももう慣れた。サッと皮膚を撫でられたかと思ったらもう終わりました、みたいな神レベルの看護師さんがいる一方、今日の看護学生? は「見えづらいよー」と言って左右ともに失敗し、手の甲から採血していった。逆に難しくないかい?

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同室患者の咳き込みに敏感になる。こっちは肺炎にはなれない身。必要以上に風邪には注意しなければならない。ベッドの上でもマスクをして過ごす。

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抜歯の跡が痛く、鎮痛剤を頻繁に所望。カロナール(アセトアミノフェン)とロキソニンって併用できるんだね、へー。

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関わっていたレギュラー番組が終了したとの報。終わるときはあっけない。

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見舞いに来てくれた妻と子供のことについて話す。乳児湿疹だと思ってたものがアトピーだったらしい。複数の皮膚科を受診し、塗り薬にステロイドを使った方がいいか使わない方がいいか、悩んでいるという。

ネットで調べるも意見は二分。自分は納得して服用しているけど、3ヶ月の赤ん坊にとっては……? どう判断していいのか分からない。正解はあるのだろうか? 結局はその子に合うか合わないか、とは思うけれど。だからこそ決断が難しい。

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血小板の数値が低く、3回目のエンドキサンパルスは延期となった。焦りが募る。できないと入院が長引く。先が見えない。

……仕事減っちゃうな。不安が胸を押しつぶす。今後、アルバイトを探すにしても、難病患者の40男が出来るものってあるのか? 

また感情の起伏が激しくなる。イライラが出たと思ったら、次の瞬間には落ち込んでいる。朝、心機一転楽しく過ごそうと決意するも、夜には眠れず泣いている。

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隣りのダンディ紳士が奥さんと口論を始めた。
「俺を病人扱いするんじゃないよっ」
「病人でしょう? 熱も40℃あるのよ」
紳士の気概なのか、ロビーで面会を待ってる部下たちに、きちんとした服装に着替えて会いに行きたいというのだ。

皆、病気以外にも、いろんな感情と闘っている。

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夕方、病院のロビーで行われる「院内コンサート」を観にいく。医師や看護師など病院関係者で音楽を趣味としている人たちが集ってオーケストラを披露してくれるというもの。チラシを見た時から楽しみで、足を引きずりながらも出かけた。

楽曲はポピュラーなもので、子供向けにアニメの主題歌などもある。演奏を聴いて笑顔になっている患者たちを見ているうちに、
「羨ましいな」
と思った。そして、
「自分もあっち側にいたい」
って、痛切に。

普段、医療仕事で大変な彼らが、更に音楽で僕らを癒してくれている。
プロとか素人とか関係ない。エンタテイメントの根底にあるのはその心意気。誰かが誰かのために自分のできることをする。楽しませること、喜ばせること、笑わせること。

退院して、何かが変わってしまっても、仕事ではなくなってしまっても、この気持ちは常に忘れずにいたいな。

不意に琴線に触れる曲があって、調べたら荒井由実さんの「ひこうき雲」だった。

” 空に 憧れて 空を かけてゆく
 あの子の命は ひこうき雲 ”

そうだよ。病気でね、体が不自由でもね。精神は自由。気持ちはいつだって空高く飛んでいけるんだよ!

「負けないぞ。いつかまた絶対、あっち側にいく」と、心に誓う。

今日ここに来れてよかった。救われました。ありがとう。

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コンサートが終わって妻に電話。掠れ声で「ステロイド治療をやってみよう」と伝える。


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