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『喧嘩の記憶にあたたまる』

父子で湯舟に浸かっていると無言の間があった。
「……ねえパパ」
シンがいつになく神妙な声を出す。
「お友達と喧嘩したことある?」
(何かあったのかな?)

湯を掬いながら記憶をたどる。
口論はあれ喧嘩までした友達は――
あっ、と一人だけ顔が浮かんだ。

ヤス。小学四年、転校先で出会った級友。
団地が同じで仲良しになった。
放課後、「キン肉マン」を真似てプロレス漫画を一緒に描いたっけ。必殺技を開発中、実際にやってみようとなり……嘘っこが本気の殴り合いに発展。

「それでどうなったの?」
シンが身を乗り出して聞いていた。
「パパが負けたんだ。殴られて鼻血が出て」
「ヤスとはどうなったの?」
「ん? ……次の日には仲直りしてたと思うよ」
次に浮かんだのは、私がまた二年で転校する際、ヤスが泣き顔を見せまいとニット帽で顔全体を隠しながら手を振っていた光景。

思い出に浸っていると「じゃあ先、出るね」とシン。
結局、質問の本意は分からず。
……大丈夫かな?


親友と殴り合った日冬帽子

(しんゆうとなぐりあったひふゆぼうし)

季語(三冬): 冬帽子、冬帽



※日記を小説風に表現しています__🖋
ヤス、元気にしてるかなあ。


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