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20代と30代の僧侶が語る、お坊さんになってうれしいこと・大変なこと 築地本願寺で働く僧侶対談①

 「お坊さんって毎日何をしているの?」「どんなことを考えているの?」

そんなみなさまの疑問にお答えするため、築地本願寺で働く中堅僧侶二人による対談を実施。登場したのは、庶務・経理担当の上田暁成さん(34歳)と、コンタクトセンター担当の北本一樹さん(28歳)です。彼らがお坊さんになった理由や、お坊さんとして日々生きるなかで感じることを、ざっくばらんに語り合ってもらいました。

美大に進むも、お寺の道を志した理由とは

――まずは、お二人ともご実家がお寺だったとのことですが、どういう経緯でお坊さんになったのでしょうか? 

上田 みなさん、「お寺の子どもはお坊さんになる」というイメージがあると思うのですが、私の両親は、「自分の好きなことをやったらええ」と言って、特に強要することもありませんでした。

北本 じゃあ、お父様は、上田さんに「お寺を継いでほしい」とは言わなかったんですね。

上田 言われたことはないです。私自身も、大学までは普通の学校に進みました。

北本 大学では何を勉強されたんですか?

上田 美大に進んで、伝統工芸の金工技術を勉強していました。ただ、大学在学中に、「工芸の方は趣味でもやっていけるんじゃないか。僧侶という生き方がいずれ作品にも活きてくるんかないか」と思ったため、僧侶という選択肢を第一に考えるようになりました。

北本 美術の世界から、仏教の道に進むとは……。結構思い切りましたね。 

庶務・経理担当の上田暁成さん(34歳)

 小さいときから「お坊さんになる」と決めていた

 北本 上田さんはいろいろ考えた末に、お寺という選択肢を選ばれたのですね。僕の場合は、お寺に生まれて、小さいときから何の疑いもなく「将来はお坊さんになるものだ」と考えていました。だから、学校にしても、高校は浄土真宗本願寺派の宗門校である平安高校に通いましたし、大学も同じく宗門校である龍谷大学に通うという、いわば浄土真宗の僧侶なら一番定番のコースを歩んできたんですよ。

上田 宗門校には一度も通ったことがないからわからないけど、普通の学校とは違うんですか?

 北本 基本は変わらないのですが、仏教関係の学校ならではの特別な行事がいくつかありますよ。たとえば、平安高校の場合、毎週水曜日に仏参という行事があります。これは、手を合わせてお経をあげた後に、先生がちょっとした、ためになる話をする。あと、仏教を学びたい人は「仏教コース」を別途受けることができます。

それと、宗門校には自分と同じようにお寺生まれの生徒がたくさんいるんですよ。みなさんある程度お寺のことを理解しているので、上田さんが周囲の方に言われたような「将来はお寺にすぐ就職できるから楽だよな」みたいな言葉は全然言われたことがないですね。

上田 なるほど。そういう環境の違いがあるんですね。

コンタクトセンター担当の北本一樹さん(28歳)

日常生活のすべてが仕事につながるのが、僧侶という仕事

北本 僧侶になってみて、「楽しい」と感じるとき、「苦しい」と感じるときは、どんな部分ですか?

上田 僧侶という生き方の中で、やりがいでもあり、苦しさでもあるのは、私生活と仕事との境目がなくなることですね。ほかの仕事ならば、仕事は仕事、プライベートはプライベートと切り替えられるケースも多いと思うのですが、僧侶は、ある意味人生そのものと向き合う仕事なので、日々のすべてがつながってくる。だから、私は家でも職場でも、気持ちやモードが切り替わらないです。お坊さんでも私生活を切り分けられる人はたくさんいると思いますが、私はなかなか分けられなくて。

北本 じゃあ、家に帰ったときも、お坊さんっぽいことをしてるんですか? 

上田 一人暮らしなので、自宅で法話の練習をしていますね。

北本 えらいですね! ただ、上田さんのいう「すべてが仕事につながる」という言葉の意味は、すごくわかります。たとえば、お坊さんの仕事って、法律には全く関係ないように見えますが、実は遺品整理や相続もからんでくるので、関連する法律も知っておかなければいけない。どんな知識も仕事につながるし、知識があればあるほどに広く人とつながれる気がしています。築地本願寺に来てから、ますます「いろんなことを知っておかなくちゃ」という気持ちは強くなりました。

上田 築地本願寺は、スキルアップ研修が充実しているので、仏教以外のことを勉強できる機会は多いですよね。以前私が経理担当だったときは、簿記の勉強もさせてもらいました。

北本 お寺で働いている僧侶が、スキルアップ研修が受けられるというのは、なかなか新鮮ですよね。


頼ってもらえるうれしさと、それに応えられないもどかしさがある

上田 北本さんにとって、僧侶の仕事の楽しいところ、大変なところはどこですか? 

北本 僕は、いろんな方に、ご自分の話をオープンに語っていただき、頼っていただく。それが、僧侶をやる上でのやりがいですね。反面で苦しいのは、深刻に悩まれている方から相談を受けて、一緒に悩むときです。「どうしたらいいんだろう」「答えはあるんだろうか」と思いながら、責任をもって相談者の方と一緒に考えなくちゃいけないのが大変だなと感じます。

上田 たしかに、勉強すればするほど、何も言えないなと思うことも増えていますね。私も、相談者さんやご門徒の方に教義を言うときもあるんです。でも、「じゃあ、自分はそんな立派な人生を歩んできたのか?」「こんな若輩者が何を言えるのか?」と思うと、もう何も言えなくなってしまいます。

北本 考えが深まるほど、生きることは大変だなと思いますよね……。

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