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「宗教離れ」と言われる時代に、20代、30代の僧侶たちが感じる不安と展望  築地本願寺で働く僧侶対談③

お坊さんって日々何しているの?」「どんなことを考えているの?

そんなみなさまの疑問にお答えするため、築地本願寺で働く中堅僧侶二人による、対談を実施。登場したのは、庶務・経理担当の上田暁成さん(34歳)と、法要行事部の北本一樹さん(28歳)です。築地本願寺がめざす「開かれたお寺」の在り方や、それぞれの施策についてどう思っているのかを、ざっくばらんに語ってもらう全3回の本対談。第1回目第2回目に引き続き、今回は第3回目。働く僧侶が考える「築地本願寺の特徴」をお送りいたします!

僧侶が顔出し名前だしで、表に出るということ


北本 オンライン法要やYouTube配信や、このnoteの対談など、築地本願寺では一人ひとりの僧侶が前に出る機会が増えていますよね。それについては、上田さんはどう思っていますか?
 
上田 とてもいいことだと思っています。「なんだか楽しそうにやっているな」と思ってもらうことで、築地本願寺に興味を持ってくださる方もいると思うので。僧侶といえども、自分の顔を知ってもらうことは大切ですよね。
 
北本 それは僕も思いますね。たとえば、以前、お葬儀に行ったんです。そのときにご遺族の方に気に入っていただけたのか、次に四十九日のご法要を行うとき、「僧侶は、あのときの葬儀に来てくれた北本さんでお願いします」とお声がけをいただいて。

「築地本願寺という大きなお寺の中にいる一人」ではなくて「北本一樹」と認識してくださっているのは、とてもありがたいと感じます。ただ、上田さんは僕よりも指名をもらう回数が多い人気僧侶ですから、前に出る重要性は僕以上によくわかってると思うのですが……(笑)。
 
上田 ……なんですか、突然。恥ずかしいんで、やめてください(笑)。
 
北本 上田さんは法話が、とてもお上手ですからね。上田さんが朝の法話を担当する日は、すごくたくさんの方が来てくださるんです。最初の一言は、だいたい「覚悟はしておったんです……」という始まるという。
 

 
上田 ……恥ずかしいから、やめて! 
 
北本 いまは、YouTubeで朝の法話も流しているので、ぜひ遠方の方でも見てみてほしいです。
 

ネットに発信するからは「評価されたい」という欲と戦う日々


上田 一方、北本さんの写真は、フリー素材なみにいろんな媒体で使われていますが、それについてはどう思っていますか?
 
北本 いやぁ、公式ホームページには、本当に僕の写真がたくさん使われているんですよ……。ただ、それはどれも2、3年前のすごくヤセてた時の写真なんです。いまちょっと太ってしまって、外見も変わってきたので、「そろそろ誰か別の人の写真に切り替えてもらえないかなぁ」とひそかに思っているのですが(笑)。
 
上田 自分も含めた築地本願寺の人々が、どんどん表に出るのはいいことだなと思う反面、悩みもあるんですよ。みなさんに見てもらえるだけですごくうれしいことですが、「やるからには評価されたい」という欲も出てしまう。かといって、背伸びするのは好きではないので、自制するんです。このギャップをどう埋めたらいいのかは、悩みますね。
 
北本 なるほど。それは発信する側だからこその、付きまとう悩みかもしれませんね。
 
上田 この「評価されたい」という欲望は、僧侶でなくても、誰でも抱くことだと思うんです。たとえば、この記事にしても、せっかく出すんだから、評価されたいし、良いコメントをもらえたらうれしいなと思ってしまう。でも、そればかりを求めてしまうのは、よくない。この欲とどう向き合っていくかが、今の課題かもしれません。

左 コンタクトセンター担当の北本一樹さん(28歳)右 庶務・経理担当の上田暁成さん(34歳)

「お寺は、待っているだけじゃダメなんだ」と気が付いた 


北本 オンライン法要から僧侶相談まで、築地本願寺に来て、いろんな体験をさせていただいていますよね。ここで学んだことを、自坊を含めたほかのお寺にも応用できないかな……と思う機会が増えていますね。
 
かつてはお寺といえば、ご門徒の方だけ法事や法話会などでたまにいらして、何かあれば葬儀などを依頼されていくイメージでしたよね。でも、築地本願寺に来て、「お寺は人が来るのを待っているだけじゃダメなんだ」とわかりました。築地本願寺みたいに法事以外でも、人々との接点をいろいろと広げていくことが、これからのお寺に必要なことなのかなと思います。
 
上田 もし、北本さんが自分のお寺に戻ったとき、どんなことをやりたいですか?
 
北本 オンライン法要や合同墓はやってみたいですね。あと、現在築地本願寺では築地本願寺倶楽部という会員制度を作っていますが、これもすごく新鮮でした。従来のお寺では、お寺を支える門徒さんが集まったご門徒講みたいな会がありましたが、一般の方には少し抵抗感があると思います。でも、築地本願寺倶楽部は、割引やポイント制度などのサービスを盛り込んでいて、参加のハードルがもっと低い気がします。
 
上田 築地本願寺では、ご門徒の方以外の人もフランクにお寺と付き合える関係性ができていますよね。築地本願寺がやっているように、「お越しいただいた方々に、どれだけいい体験をしてもらえるのか」を考えることが、未来のお寺の在り方なのかもしれませんね。

東京と地方で差を感じた「宗教との距離感」


北本 あと、築地本願寺に来てとても衝撃的だったのは、お寺や仏教、宗教に関わらない人がすごく増えていることを実感したこと。

僕は和歌山県の田舎の出なので、地元でお寺と地域の人々がつながっている姿を目の当たりにしていたので、仏教はまだまだ多くの人にとって身近な存在だと思っていたんです。でも、東京だと「宗教は関係ない」という方が思ったよりもずっと多い。正直、「今後、仏教はどうなってしまうのか」という強い危機感を持ったのも、築地で働くようになってからです。
 
上田 その感覚はすごくわかります。私は大阪府茨木市の出身ですが、お寺はすごく小さいお寺なので、法事だけでは生活できないんですよ。自分のお寺だけの世界で生きていたら、多分すごく狭い世界しか見ていなかったと思うのですが、築地本願寺でいろんなことに気が付けたのは本当に良かったです。
 
北本 一応、僕の実家のお寺は、いまは法事だけでギリギリ運営できているけれども、明らかにご門徒さんは高齢だし、そのお子さんやお孫さんは仕事を探して和歌山を出られる方も増えていくはず。そういう方々とのつながりは、今後、どんどん薄れていくんだろうなと思います。 


地方のお寺に必要なのは、情報発信すること

 
上田 なかでも、地方の多くのお寺にとって大きな課題となるのが、情報発信ですね。
 
北本 そうですよね。実はうちの実家の寺も、まだ公式ホームページがないんですよ……。
 
上田 うちもないんです! これを読んだ方は、「え、お寺って、そんなに遅れているの?」と思われるかもしれませんが、SNSで発信したり、自坊のホームページを作るお寺は、まだまだ少ないですよね。今後、私が自分の寺に戻った後は、まずは広報に力を入れたいと思っています。
 
北本 うちも、お寺の名前を検索すれば住所くらいはわかりますが、その寺で何をやって、どういう行事をやって、誰が住職で……という基本情報は全然ないんですよ。築地本願寺に来るまでは、それが当たり前だと思ってたんですけど、築地本願寺に来てからは「あ、それは全然当たり前じゃないんだ!」って気が付きました。
 
上田 衝撃を受けましたね……。
 
北本 ただ、いきなりお寺のSNS運用から始めるのは難しいので、まずは個人アカウントからスタートしていきたいですよね。
 
上田 いきなりハードル上がりますね……! 頑張ります(笑)。
 
北本 いやいや、SNSでの発信だけに限らず、もっと多くの人に興味を持ってもらえるように、奇抜なことをやっていきましょうよ。
 
上田 私は一度やってみたいのは、僧侶同士で本音を言い合うコーナーですね。組織の愚痴ではなくて、「僧侶だって、こんなことを考えているんだ!」という葛藤を語り合いたいです。それこそ、役職なども関係なく、恨みっこなしで! それで、良い意味で「お坊さんも人間なのね……」と思ってもらえたら、一番いいですね。
 
北本 お坊さん版のしゃべり場ですね(笑)。ぜひ、次回の僧侶対談で実現させましょう!
 

1回目、2回目の対談はこちらからどうぞ