見出し画像

評価されない「弱者」ゆえの強みもある 僧侶が読み解く、映画『すみっコぐらし』

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

映画『すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』           まんきゅう監督 2019年日本作品

 「すみっコ」は「すみっこが好き」な共通点を持つキャラクターたち。控えめで、他からあまり評価されることはなく、それを自分でも納得しながら、地味に密やかに生きている者たちです。そのうちのひとり「とんかつ」は、その身のほとんどが脂のため、食べられることなくいつも残されてしまいます。

 同じような境遇だからか、すみっコたちは仲良し。ある日揃って喫茶店で和んでいました。そこに置かれていた一冊のとびだす絵本。すみっコたちは見入るうちに、物語世界の中に吸い込まれてしまいます。そこですみっコたちは、自分がどこから来たのかも、自分が誰かも分からない、一羽のひよこと出会います。自分たちと似たものを感じたすみっコたちは、ひよこの帰る場所と、自分たちの出口を探して、物語世界を彷徨うこととなります。

 「赤ずきん」の世界に迷い込んだとんかつは、狼が大手を広げて「いただきまーす」と襲ってくると、目を輝かせます。「えっ? 食べてくれるの?」。いつも皿に残されているとんかつにとって、食べてもらうことは何よりの願望だったのです。それを聞いた狼は……。

 認められない、自信を持てない、居場所がない。

 そんなすみっコたち。そんな彼らの「弱み」は、同じ弱みを持つ者たちへ共感することができる「強み」と表裏一体です。そして「すみっこ」は、部屋の中という限られた空間においては片隅かもしれません。しかし、もっとずっと広い世界の中で見れば、自分がどこに居ようと、そこがまさに世界の中心とも思えてきます。大きな心の中で生きていると首肯けることは、自分の生の肯定に直結するのです。


松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。