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キキは若手起業家


『魔女の宅急便』

金曜ロードショーの大定番で、日本国民全員が一度は観たことがあるのではないかと思います。
私も子供の頃から何度も何度も観てきたジブリ作品の一つです。

魔女の子は、13歳になると一人前の魔女になるために1年間の修行に出なければなりません。黒猫ジジを連れて父母のもとを旅立ち、海辺の町コリコを修行の場に選んだキキは、親切なパン屋のおかみ・おソノさんのすすめで、唯一使える魔法である、ホウキで空を飛ぶ能力を活かして“お届け屋さん"の仕事を始めます。日々の仕事に励む中で、女子画学生のウルスラや、空を飛ぶことを夢見る少年トンボと友達になり、少しずつ町での生活に慣れていくキキ。しかし、熱を出して仕事を休んだ翌日、キキは自分の空を飛ぶ能力が弱まっていることに気づきます。はたしてキキは“お届け屋さん"の仕事を続け、この町で暮らしていくことが出来るのでしょうか。

公式HP

1989年に公開されてから30年以上に渡り愛され続けている作品。このパッケージと商品紹介を見ると、つい観たくなってしまいます。
大人になってからも定期的に観たくなって金曜ロードショーのタイミングで観たり、わざわざDVDをレンタルして観ることもありました。
子供の頃はただただ楽しく観ていた作品ですが、ある時からこの作品が全く違う見え方をするようになったのです。

若手起業家キキの誕生

修行に出たキキは新しい街でなんとか家を見つけて生活をスタートします。そして次に取り組んだのが”仕事”です。
ただバイトを見つければ良いのではなく、あくまでこれは修行のための生活なので、魔女として何かしら仕事をする必要があります。
そこで、キキが思いついたのがほうきに乗って荷物を運ぶ”お届け物屋さん"でした。

大人になってからこのシーンを見て気づいたのが、これはれっきとした起業であることです。キキは13歳にして配送業を起業した若手起業家だったのです。

仕事を通じて感じる、喜びや葛藤

仕事をすることで得られる喜び

希望を胸に”魔女の宅急便”をスタートしたキキ。
パン屋の"おそのさん"のサポートもあり、配達の仕事は順調な滑り出しでスタート。猫のぬいぐるみを森に落としてしまうことでのドタバタもありましたが、これがきっかけで森に住む"ウルスラ"と出会います。
また、孫の誕生日にニシンのパイを届ける依頼をしたおばあさんとの出会いもほっこりするシーンです。

同年代との比較で感じる劣等感

忘れてはならないのは、キキはまだ13歳であるということです。仕事に奔走しているようですが、着ている黒い服に劣等感を感じていて、街中で赤いヒールの靴が気になったり、トンボはじめ同年代が自由な服を着て、楽しそうにしているのを羨ましそうにしているシーンもあります。

25歳から起業準備をしてきた私ですら、同年代が遊んでいるのを羨ましく思っていたので、13歳ならなおさらでしょう。13歳と言えば中学1年生です。むしろ、よく投げ出さずにやっていると思います。改めて、キキの起業のすごさを感じます。

"お客様"というフィルターを通して知るヒトの裏側

また、仕事をしていると嬉しい事ばかりではありません。仕事をしていればちょっとしたことで嫌味を言われたり、怒られたりすることもあります。
細かいシーンですが、キキが荷物を依頼してきたおじさんに「市内ですか?市外ですか?」と聞きます。おじさんは「箱に書いたんだけど」と答えます。これが嫌味とまでは言いませんが、聞かれたら市内か市外か答えたら良いところちょっと意地悪ではありませんでしょうか。現実でもありそうな場面がよく描写されています。

さらに、ニシンのパイを届けられた誕生日の孫も嫌な感じです。おばあさんとわざわざ窯を炊いて焼いたニシンのパイ。キキはきっと孫も喜ぶだろうと思って届けますが、孫は好きじゃないんだよねと呟きます。
これはキキに向けて言ったわけではなく独り言だったわけですが、この一言で心が折れて、誘われていたパーティーを諦めてしまいます。

おじさんや孫にとって、キキはただの配達員でしかありません。ただの配達員相手だからこそ、余計な一言や横柄な態度をぶつけられることになります。
昔はこんなことで凹まずにパーティー行ったらいいのに、くらいに思っていましたが、仕事を通じてヒトの裏側に触れることで、13歳の女の子がショックを受けるには十分すぎる体験だったんだなと思います。

自分の理由で飛ぶ

休業

この後、キキは風邪をひいて寝込んでしまいますが、回復してからトンボにパーティーに行かなかったことを謝りに行きます。これがきっかけで、不良だと思っていたトンボに徐々に心を開き仲良くなります。
しかし、飛行船を見に行った海辺で、不良グループとつるむトンボを見て、嫉妬からなのか不機嫌になり一人で帰ってきてしまいます。
ここで芽生えたトンボに対する気持ちは、友情とも恋愛感情とも考察されていますが、実際どちらかはわかりません。ただ、今までは奔放に生きてきたキキが思春期を迎え、周りとの関係に悩むことになります。
そして、キキは魔法が使えなくなってしまいます。ホウキで空も飛べなくなり、黒猫のジジとも会話ができなくなります。
お届け物屋さんは休業せざるをえなくなってしまいます。

不遇の時期を支えてくれる友の存在

今まで当たり前のように空を飛べていたのに飛べなくなってしまい、落ち込むキキ。そんな時に街に買い出しにきたウルスラがタイミングよくキキの前に現れます。
ウルスラは絵描きでキキと同じように若くして自分で生計を立てている、言わば経営者の先輩です。ウルスラは森にある自分の小屋に悩んでいるキキを連れ出してくれます。そこでウルスラにも絵が描けなくなった時があること、そんな時はとにかくジタバタしたり、逆に何も考えないんだよとアドバイスをしてくれます。よき理解者であり、よき相談相手になってくれます。
家を出て一人で修行をしているキキにとって味方ができることはとても大きな安心になったはずです。起業とは孤独なものですが、そんな時に同じ考えも持っている仲間がいることはとても心強いことです。

自分の理由で飛ぶ

私も仕事がうまくいかなかったり、嫌なことがあると、投げ出したくなったり、当たり前にやっていた仕事に身が入らなくなったり、悩むこともありました。そんな時、全てを投げ出してしまうのは簡単でしたが、それでは元に戻ってしまうだけだと思い、前を向いてきました。足が止まりかけた時こそ、ちゃんと自分と向き合うことで成長できるチャンスに変えられるのです。

仕事がうまくいかない時は、例えるなら今まで着ていた服が成長することできつくなったり、似合わなくなっているのと同じです。子供っぽい服から少し大人の服装に着替え、新たなステージに行けるチャンスにもなるのです。
自分が何のために働いているのか、何のために生きているのか、どこに向かっているのかを考えてみると、だんだん新たな自分で今の仕事に向き合えるはずです。

キキは、子供のころから当たり前だったホウキで空を飛ぶことが、成長する過程でわからなくなってしまします。しかし、飛行船から落ちそうになっている”トンボを助ける”という"目的"がはっきりした時に空を飛べました。

ただ目の前にある仕事をこなしたり、自分のためだけに仕事をしている方は、誰かのため、社会のためにと視野を広げてみるといいかもしれません。逆に家族のため、会社のためと働いてきた方の中には、自分のことを置き去りにしている方もいるかもしれません。
いずれにせよ"自分の理由で飛ぶ"ことが大事だと思います。

悩んだ時はぜひ、『魔女の宅急便』を観てみてください。13歳でチャレンジしているキキから勇気をもらったり、解決するヒントがあるかもしれません。

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