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桜の気配(和歌)

いそぐより 手にとるばかり にほふかな
枝にこもれる 花のおも影
(三条西実隆『雪玉集』巻一、春、377)

(意訳)
枝先に、今にもあふれんばかりに
花の気配がこもっている。
気持ちが先走って
桜の咲き誇る光景が、目に浮かぶようだ。



 歌会で、この歌が、たっぷりと間を持って詠唱されている場面を想像してみましょう。テーマは「花を待つ」です。

い そ ぐ よ り

て に と る ば か り

に ほ ふ か な

 ここまで聞いて、その場にいる人々は、キラキラと咲き誇る満開の桜を想像するはずです。

え だ に こ も れ る

は な の お も か げ

 そしてこの下の句が読まれると、想像の中の満開の桜が、まだ花のついていない現実の枝先に収斂されるのです。ひとたび一首の全体像を把握したならば、花の予感を内に湛え、今にも生命のエネルギーを放出しそうな新芽のイメージが、歌につきまとうでしょう。

 私にとって、この和歌とイメージを共にするのが、中学三年生の時に合唱コンクールで歌った「春に」です。

枝の先のふくらんだ
新芽が心をつつく
よろこびだ しかしかなしみでもある
いらだちだ しかもやすらぎがある
あこがれだ そしていかりが
かくれている
心のダムにせきとめられ
よどみ 渦まき せめぎあい
いま あふれようとする
(「春に」谷川俊太郎)


 暖かい日が続き、いろんなお花が、京都の街を彩り始めています。桜の季節まであともう少し!わくわく!

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