僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#7】
#7 牢屋からの脱出
ヒゲの男は、この建物の構造を知り尽くしていた。
看守を無力化するための方法は聞かなかったが(力技としか思えなかったから)、どこをどう曲がって、どの扉からどの順路を辿ればいいか。ほぼ迷う事なく進んでいった。
「よし、この通路の奥にある倉庫から出られる。」
「ヒゲのおじさん。何でこんなに知っているんですか。もしかして、あなたここの兵隊さんなんじゃ...。」
「いや、さっきも言ったが、俺はここに拘束されていたことがある。それだけだ。」
「一度抜け出したんですよね...?でも何でまたここに。」
「...それはな...。」
しまった。助けてくれたのに、失礼な事を聞いてしまったかもしれない。本当はここの兵隊さんで、気が変わったらどうしよう。
「ごめんなさい。初めて会って、助けてもらったのに、色々聞いちゃって。失礼しました。忘れてください。」
「いいんだよ。ここを出て、君たちが無事この星を出る事が出来れば、その時話そう。」
君たち??あれ?レイニーの事話したっけ?いや、変な詮索はよそう。それよりここから出る事が先決だ。
「よし、いけそうだな。ついて来い。」
「はい。ついて行きます!ヒゲ兄さん!」
「な!変なあだ名付けるな、小僧!」
僕たちは痕跡を残す事無く、監獄からの脱出に成功した。外は真夜中。足元もほとんど見えず、ヒゲの男について行く。
「ヒゲさん、どこに向かってるんですか?」
「ヒゲさんは酷くないか。今、俺の隠れ家に向かっている。もう直ぐだ。まず気付かれることは無い。」
数分歩き続けると、木々の間の大きな岩と岩の隙間の奥が、ほんのりと光っているのを見つけた。
「お邪魔します。」
「いや、誰もいない。俺だけだから。遠慮なく上がってくれ。」
岩と岩の玄関をくぐると、思った以上に広い空間が広がっていた。木で出来た机や椅子、ベッドやちょっとした食器棚のようなものまであった。
「うわぁ、広いですね。」
「そうだろ。これ俺一人で作ったんだ。」
「え!この部屋自分で作ったの!?」
「そうだ。その辺に転がってるものもほとんどそうだ。」
凄い。サバイバルというには豪華過ぎる。まさに”家”。
「コーヒーでも飲むか?」
「あー、ごめんなさい。コーヒー飲めなくって...。」
「なんだ、お子様だな。じゃあ、これ飲んどけ。」
オレンジジュースを出してくれた。完全にお子様扱いされている。しかし、コーヒー飲めない上に喉が渇いている。遠慮なく頂こう。
「う、うまい!!」
「そうだろ。この辺一体のみかん畑で今朝摘んだものだからな。」
「うわぁ、搾り立てって感じです!おいしい。」
ヒゲの男はわずかに微笑みながら、奥の部屋に消えて行った。
この星は資源豊かな星なのだろう。内戦が起きていても、周辺にはみかん畑があり収穫も出来ている。コーヒーを飲むだけの余裕もある。
どこかで道を間違ったのかもしれないミステリーツアーだが、不意の出会いと美味しいオレンジジュースを飲む事が出来ている。それはいい事だと思っておこう。
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(note内ページです) 】
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