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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#12】

#12 衛兵小屋裏で

 ヒューゴ少年は相変わらずスタスタと歩みを進めている。虎のピケの咆哮は効果てき面で数ある関門を軽くスルーする事が出来た。

「おい、ここが最後だ。ただ、今までみたいに簡単じゃないんだ。」
「ここって…。」

 目の前には、今までのように櫓(やぐら)が建っているのだが、他に石造りの壁がこの道を寸断していた。

「そうだ。ただの関門じゃなくて、国境なんだ。」

 石壁を唯一突破出来そうな場所は、大きめの両開き扉だけだ。
 石壁の上には兵士が二人、扉の両脇にも槍を持った兵士もいた。
 脇には少し大きめの小屋があり、そこにも兵士が居そうな気がする。

「ここ、兵士がいっぱいいる…通れるの...?」
「なんとかな。ただ、手伝ってくれよ。」
「わかった。どうすればいい?」
「おいらはピケでまず揺動するから、その間に石壁の上に登るんだ。梯子はあっちにある。」

 ヒューゴ少年は、小屋の方を指さした。

「え?あの小屋...?」
「ここからは見えないけど、小屋の裏にある。おいらが騒いでる間に急いで登れば気づかれない。」

 説明を終えると同時に、虎のピケに馬乗りになったヒューゴ少年。

「石壁自体はそんなに高くないから、伸びり切ったらあいつらに気づかれる前に飛び越えるんだ。向こうはすぐに森だけど、真っすぐ道が続いてる。一つだけ分かれ道があるけど右選んだらいいから。」
「ありがとう。ヒューゴ君は行かない…?」
「おいらは、ここまで。」

 どうやら、ヒューゴ少年は森までは行かないみたいだ。ここまで案内してくれるだけでなく、関門をいくつも超える事が出来た。頭があがらない。

「ヒューゴ君、ありがとう。」
「いいんだよ。こうやって、誰かと一緒にどっか行くの久しぶりだったから......楽しかった。」

 さっきまでとは打って変わって、少し照れ隠ししているようにも見える。強気に見えて、中身はまだ子供なんだろうか、とか考えてしまった。

「じゃあな。えーっと...」
「僕の名前はマーク。」

 そういえば、まだ名乗っていなかった。

「マーク、気をつけてな。」
「うん。ヒューゴ君もピケも、元気で!」

 またここに戻って来る事はあるだろうか。少し名残惜しい気もする。

「よし、ピケ。行こう!」

 ガオオォォォオという咆哮と共に、ヒューゴ少年を乗せたピケが走り出した。

 櫓や扉の横にいる兵士がビックリして飛び上がっている。ヒューゴ少年とピケが注目を集めてくれているようだ。

「さぁ、行くぞ。」

 姿勢を低くし、草むらや岩の陰に隠れながら、小屋を目指した。

 小屋からも寝起きのようなまったりとした兵士が、何人か飛び出して来たのが見えた。走り回る兵士たちを横目に、小走りで進んだ。

「...誰かいる…?」

 小屋の裏に回ろうかという時、何と小屋の裏に誰かいるのに気が付いた。

「ホント何なんだよぉ...今日はついてない…。1日に3回も虎に襲われるなんて...もういやだ...。」

 小屋の裏にいたのは、さっき関門で監視をしていた兵士だった。どうやら、小屋で休んでいた所に、この騒ぎの中で裏に隠れているらしい。
 このまま小屋の裏に飛び出したら、この兵士に見つかってしまう。どうしようか迷っていたその時だった。

ー カタン、バタッ... ー

 足元に立てかけてあった薪を倒してしまった。
 やばい、さすがに気づかれたかもしれない。

「...おい、、、誰かいるのか?」

 息を押し殺して、なるべく気配を消そうとするが、スタスタとこちらに歩いて来るのがわかる。

「誰だって言ってんだ。おい。」

 逃げる暇もなく、小屋裏から現れた兵士と目が合ってしまった。

「お前...誰だ。」
「いや、、、僕...ここの者じゃなくって…。」
「なぜでここにいる?」
「僕...宇宙から来たんだ…帰りたいんだけど…仲間が森の方に行ってしまって...。」
「そいつを探してここに...?関所を越えて行く気か?」
「...うん。」

 もう言い訳も出来そうにない。素直に答えた。

「本当か…?何か証拠を...」

 僕はとっさにタブレット端末を取り出し、レイニーとの思い出の写真を映し出した。

 その写真は、僕たちの母星をバックに彼女と撮った写真。

「これ...空の上か…?」
「そうだよ。学校行事で宇宙の旅をしてた時に撮ったんだ。」
「学校...?宇宙...?」

 この国に学校はないのだろうか。宇宙開発が進んでいなければ、宇宙空間に行った人がまだいないのかもしれない。
 そうであれば、この星に着いてからの話にも辻褄が合う。やはり、この星に辿り着いたのは何かの間違いなのか。

 目の前にいる兵士は、怪しんでこちらを見ていた。

「おーい!ベニー!加勢しろー!どこ行ったー!?」

 石壁の方から声がする。石壁の上にいた兵士が降りて来たのだろう。

 こっちを見ていた兵士は、何か少し考えているのかと思ったら、

「わかったー!すまん!お腹痛くて!」

 そう叫びながら、ヒューゴ少年と虎のピケが大暴れしている方向へ、走り去って行った。

「ありがとう。」

 どうやら兵士は見逃してくれたらしい。

 小屋の裏を覗き込むと、梯子で降りて来たと思われる兵士が二人走り去っていった。

「いまだ!」

 石壁の梯子に向かって、全力で走った!

「はあっはあっはあっ」

 梯子に辿り着いて躊躇なく駆け上がる。
 途中、振り返るとピケとヒューゴ少年が、兵士たちを困らせている様子が見えた。少年と動物とはいえ、捕まればただじゃ済まないはずだ。

 そして、上まで駆け上がった瞬間だった。

「マーク!行けー!」

 声を振り絞って、背中を押してくれた。

「またねー!」

 僕は少しだけ手を振って、石壁の向こう側に飛び出した。

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】


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