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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#13】

#13 森の中

 森を歩いて幾分か時間が経った。30分くらいだろうか。
 ヒューゴ少年に言われた通り、森の道はほとんど一直線になっていた。どこかで右に曲がれる道に枝分かれしているはずだが、まだ見つからない。

「まだ歩かなくちゃいけないのかなぁ…。不安だぁ…。」

 こんなに歩いてまだ先が見えてこない。
 でも、まだ空も見えるし明るい。左見ると海も見えて来た。

「ちょっと休憩しよっか。」

 海の方を眺めながら、少しの時間休憩をする事にした。

 森の中から海が見えるというのは、なかなか珍しい光景だ。到着したこの星は水も森も多く、何気なく歩いていて綺麗な景色が多くある事に気付く。

「ゆっくり旅したかったなぁ…。」

 そんな独り言は誰にも届かない。声の先は海、あと森の木々だけ。
 本当は今頃ミステリーツアーを楽しんでいるはずだった。
 そんな事をぼんやりと考えていると、どこからか声が聴こえて来た。

ー こっちよ。 ー

 声はどの方向からか聴こえているわけではなく、頭の中で響いているかのように鮮明に聴こえた。

「…え?誰?」

ー こっちに来て… ー

 声は確かに僕を誘っている。森のもっと奥だろうか。
 自然に声のする気がする方向へ誘われていた。

――――――

 気付いた時には、森のより深い所まで来ていた。

「…ここってどこだ…」

 声の主は一考に現れない。それどころかどの方向から来たのかも分らなくなっている。
 フラフラとした足取りで辿りついたのは、森に囲まれるように存在する池のほとり。
 そして、その池の向こう側には木造の小屋がポツンと佇んでいた。

 木造の小屋は大木と一体になっていて、いかにも怪しい雰囲気を放ち、こちらに手招きして誘っているかのようだった。

「あれに誘われたのか…。」

 声の主はまだ現れない。目の前の小屋にいるのだろうか。

「…あれ?渡れない…。」

 池ぎりぎりまで近づいてわかった。
 森の中の小屋は、池に囲まれるように存在していた。回り込んでも地続きにはなっておらず、池を突っ切るしかないことがわかった。

「泳いで渡れって事か…。」

 薄暗い森の中の小屋だ。無理して池を進む必要はない。
 それなのに、無性にその小屋を訪ねないといけない気持ちが沸いて来る。

 迷いはあったが小屋の様子を見ずに立ち去る事ができそうにない。
 その場で荷物を降ろし、池に足を浸ける。意外と深さがある。
 しかし、15mほどの距離だ。直ぐに渡って帰っても来られるだろう、と高を括っていた。

 そのままバシャバシャと泳ぎ始めた。
 そして、もうすぐで向こう岸という時だった。

(うわっ!!なんだ!)

 足を誰かに掴まれた。息継ぎが出来ない。足をバタつかせるも、徐々に水深へ引っ張られていく。

(なんてことだ!誰なんだ!)

 抵抗し続ける中で、下にいる何者かを必死に確認しようと試みた。

 そこにはよく見た女性がいた。僕の足首を掴み、引っ張り込もうとしていた。

 その女性とは、この星に来てから引き離されてしまった恋人・レイニーだった!
 無表情でこちらを見上げ、僕を池の奥まで引きずり込もうとしていた。

(なぜ、レイニーが!なぜ、僕を引っ張ってるんだ!?)

 訳がわからないが、とにかく水面へ上がらなければ、このままでは息が続かない。
 そんな事を考えている今にも、意識が飛んで行きそうだ。

 ジタバタと足をバタつかせ、足首を掴む者の手をもう片方の足で蹴り込む。
 動けば動くほど体力は底を尽き始めているのがわかった。
 命がけでもがき続け、ついに池の底にいる者の手を振り解いた!

 すぐに浮上し、岸に体を投げ出しスーハーと空気を取り込む。

 落ち着く間もなく、池の中で見たことを思い出した。

「レイニー!!」

 沈みかけた池の中を覗き込む。しかし、池の中はモヤが掛かっていて見えない。もし、池の中で見た者がレイニーなら助けないと。

 ついさっき溺れかけた池に、無謀にも再び飛び込もうとした瞬間、またあの声が聴こえた。

ー こっち。こっち。たすけて。 ー

 振り返ると目標としていた小屋があった。

 そして、その小屋にレイニーが寝そべっているのが見えた!

「レイニー!!!!」

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】


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