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cafe calm Ep.0「オープン」《連載短編小説》
いらっしゃいませ。
小さい頃から、絵を描いたり、物を作ったり創作することが好きだった。お金のかからない趣味ばかりで、自然と貯金が溜まっていくような人間だった。
20代も中盤に差し掛かり、この歳にしてはお金も溜まっていた私は、子供の頃から夢見ていた『自分のお店』をオープンさせるべく準備を進めていた。
都心部にあるものの、小さな路地の真ん中辺り。小規模の店がいくつか並んでいる。その隙間に、まだお店には出来ないような倉庫のような物件を紹介してもらった。
冬場から徐々に準備し始めたが、元から余裕を持って3ヶ月ほどの準備期間を見ていたお陰で、特に急かされることもなくお店の形は出来上がっていった。先日、水周りの工事も終わり、一度きれいに掃除をしたら、色々なものを運び込んだり買い揃えたり。完成が一歩先まで近づいている。
私の夢は、『自分らしいお店に集う大好きなお客さんと楽しく過ごすこと』
儲けを優先するような、お店では意味がない。温かみのあるお店にしていきたいと思っている。
お店のオープン日が近づいて来た。間に合わないほど余裕がないわけではないけれど、テンションの高さからか、朝まで残って準備を進めていた。
「んー。この辺バランスがなぁ…。もう一回かな...。」
メニュー表が完成せずにまた書き直し。うまく行かない、というよりは、納得いかないって感じだ。未完成のメニュー表が10枚くらい積まれている。ひとつひとつは途中まで綺麗に書けてるのだが、お店のオープンを納得した形で迎えたいという気持ちが、細部までを拘らせてしまうのだろう。
「どうしよう。んー。また、明日にしょっかなぁ。」
天井からぶら下がる裸電球を見上げる。眩しい。ここまで直視すると、目が眩む。
「あ、そうだ。コーヒー飲も。」
ペンを置いて、カウンターの中にあるポットでお湯を沸かす。フラスコとアルコールランプもセット。所謂、『サイフォン式コーヒー』というやつだ。
サイフォン式コーヒーは、アルコールランプ等で温めて発生する蒸気圧っを利用して、コーヒー抽出する方法だ。
短時間で簡単の淹れられるドリップ式が主流なのに、何故、道具もいろいろと必要で、時間も手間もかかるサイフォン式で淹れるのか。
それはサイフォン式でしか味わえない風味と、淹れている間の優雅な時間があるからだ。お店で出すコーヒーも、サイフォン式にすると決めていた。
このコーヒーを味わう為にお客さんが来てくれると思うと、今からワクワクしてしまう。立て続けに注文が入っても対応出来るように、二台設置する予定だ。
数分の時間が生まれる。この時間で何かしらの作業をする事もあれば、じっとコーヒーが沸き上がっていく様子を眺める事もある。
沸騰したお湯が上がって行き、コポコポと沸き上がり、コーヒー粉と混ざり合って行く。徐々に濃くなっていくコーヒーと共に、少しずつ思考が埋まっていく。
不思議なのだが、完全なコーヒー色になる事には、煮詰まった思考がすっきりと整頓されていた。
「そうだなー。そうしよう。ふふっ」
少し、笑ってしまった。さっきまで迷ってた事が、コーヒーが沸くまでに答えが出てしまったのだ。
出来上がったコーヒーを淹れて、メニュー表の書き込みを再開。あっという間に書き終えたメニュー表を見ながら、コーヒーカップを口元まで運んだ。
「やっぱり美味しいな。」
コーヒーは美味しい。淹れ立てなら、更に美味しい。
今、私が笑みを零したように、お店に来るお客さんがコーヒーを飲みながら笑顔になる日が、もうすぐそばまで来ている。
私の人生初めてのお店が、もうすぐオープンします。
著 T-Akagi
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