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僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#22】

#22 森の魔女

 目の前にいた紫色の女は魔女だった。
 最初は捕まっている弱弱しい女性だったはずが、今ではその雰囲気が全くない。

「じゃあ、もうここから出してくれよ。扉開けたんだから。」
「そうよ。早く地上に出たいから帰ろう。」

 二人は扉を出て廊下を再び戻ろうとした。

「…そのまま帰すと思ったのかい。」

 そう言いながら、廊下の向こうから魔女が現れた。
 どうやって移動したのか。つい2~3秒前まで扉の中にいたはずなのに。

「まだ、終わってないんだ。」

 そう言った瞬間、視界が切り替わったよう二人は扉の中に移動させられたようだった。

「ちょ、ちょっと、、、今、何したのよ。」
「帰ろうとしただろう。帰って来てもらったんだ。さぁ、その鍵を二人で一緒に蝋燭の火にかけるんだよ。」

 いつから灯っているのかわからない蝋燭の火。蝋燭は一向に減らないし垂れても来ない。本当に火を放ち続けているのか。その蝋燭の火にこの鍵をかざすという事か。
 もし、廊下を戻って行くとして、扉の向こうの部屋がなくなっていた。廊下を奥に向かうとして、そっちに抜け道があるとも思えない。あとはひたすら牢屋が続くだけの空間。
 森の魔女が何か細工をしたんだろうが、僕たちにそれを解決する手立てが今の所ひとつも思い浮かばない。
 何が起こるのか全くわからないが、指示に従うほかないのだろう。

「さぁ、やるんだよ。さぁ。」

 森の魔女は、じっと二人の同行を見つめていた。
 何が起こっても、マークとレイニーを外に出すつもりはない。

 魔女にとってこの機会はずっとずっと待っていた瞬間だった。
 魔女はずっと【蝋燭の火】を探し求めていた。
 そして、この星の伝承として語り継がれている【蝋燭の火】が、実際に目の前にあった。
 この【蝋燭の火】には不思議な力があると言われていた。
 【蝋燭の火】に【魔法の鍵】をかざすと【魔石】が現れるとされているのだ。

 しかし、魔女には欠点があった。
 すぐにでも鍵をかざし【魔石】を手に入れたいのだが、自らが鍵に拒絶されていて触るが出来ない。
 魔術を使って鍵を動かすことさえも出来ない。
 魔女の力が関わっている限り1ミリたりとも動かす事ができないのだった。

 魔女は、魔石の不思議な力に導かれて来る者たちにその代わりをさせようとして来た。
 しかし、今まで誰もそれを達成した者はいなかった。
 なのに、この星の者でない若者たちがその鍵を開けて見せた。
 そして、目の前には【蝋燭の火】が灯っていた。

「なんでですか。鍵が燃えちゃうんじゃないんですか。」
「いいんだよ。かざしてみればわかる。」

 マークは閉じ込められているに等しい今の状況をどう打開するか、思考をめぐらしていた。
 こっちには僕とレイニーの二人。あっちは魔女一人だ。
 力ずくで、とも考えたが、【魔女】と名乗る存在だ。何もしてこないはずはない。
 ここは魔女の言う事に従っておいた方がいいというのが答えだった。

 しかし、何かが起こるのだろう。ただ、こげたり燃えたりするだけなはずはない。それは分っていた。

「レイニー、ここは従っておこう。」
「ほんとにやるの…。」
「やろう。このままじゃ何も進まない。」
「助けてくれる保証ないでしょ。」
「わかってるさ。でも…。」
「でも?」
「何かが起こる気がするんだ。」

つづく

T-Akagi

つづきはこちら(note内ページです)


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