僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#9】
#9 戦場の時計店
レイニーはどこに行ったのか。
レイニーとはぐれてしまったのが丸一日ほど前。僕が捕まってしまった時の状況は把握しているだろうから、少し離れた場所に行ってしまったかもしれない。
もしくは...。考えたくはないが、ここにはもういないかもしれない。一旦逃げていたりしたら、いつ戻って来るかわからないし。
何はともあれ、まずは街へ出てみることにした。兵隊さんに捕まらないように。それに内戦中だと聞いている。危険ならすぐに離れるつもりで、山を下っていった。
――――――
蛇行した山道はそこそこに急で、下るだけでもかなりの体力を使う。登るのはさぞ大変だろう。
命の恩人でありレイトの住んでいた場所はもうここから確認する事が出来なくなっている。位置さえ曖昧だ。何せ山道から外れているから、だれも見つけられないわけだ。
レイニーの事やこれからどう動くか考えながら下っていると、徐々に街が近づいてきた。
「こ、これは…。」
驚いた。街が見える所まで来て見たが、街には兵士以外の人がほとんどいないように見えた。
兵士はいずれも武装していて、ただ歩いているわけではにというような緊張感を漂わせていた。
ある者は、槍のような武器。ある者は、腰に洋刀を帯刀している。
「街に出るのはまずいかなぁ…。でも、宇宙船を置いてある場所の情報を聞けないか…。」
情報が集まるのは飲食店や宿と決まっている。街に出るのは危険だが、出ないと行けない。それにはやはり街に出る必要がある。
坂を下り終え、大きな通りに出ないように影に隠れながら開いていそうな店を探す。
道中、石畳の道は所々穴が開いていたり、建物にダメージがある場所も見受けられた。戦争の爪痕だろうか。この街が前線になった事の証明でもある。
街の人達がどんな暮らしをしているのかも気になる所ではあるが、まずは店か宿を探して話しを聞きたい。兵士に見つかりそうになりながらも、初めて開いていた店に入った。
「いらっしゃい。あら、兵隊さんじゃないのかい。珍しいね。」
「すいません。お邪魔します。」
入った店には、時計がたくさん並んでいた。店の奥に老婆が座っていて、入るとすぐに声を掛けて来てくれた。
「あんた、見かけない顔だ。着てる服も見たことないような…。」
「あぁ、いや、その…。この辺の者ではないんですよ。」
「そうかい。よく、ここまで来れたね。まぁ、いいよ。ところで何かご用事かな?」
「僕、ここの事全然知らなくて、道を聞きたいんですけどいいですか…?」
多分時計のお店なのに、失礼と承知で聞いた。
「どこに行きたいんだい?」
「地名や位置はぜんぜんわからないんですけど、多分山の中で、、、相方とはぐれてしまって。」
「山ねぇ。ここは海と山に囲まれてるから、何か目印はないの?」
「兵隊さんが見回りしているような所で、山中にとても広い場所がありました。」
「いくつかあるねぇ。他には?」
「その広場に岩で囲まれてました。いくつだったかなぁ。」
ちゃんと見てたわけじゃなかったから、思いついたのはそれだけだった。しかし、それだけでも意外な答えが返って来た。
「8つじゃなかったかい?そこならわかるよ。」
「ホントですか!?」
「あぁ、ここから少しあるけど、歩けない距離じゃないよ。ちょっと待ってて。地図書いてあげる。」
何て親切なおばあちゃんだ。急に入って来たどこの者かもわからぬ僕に、道を教えてくれた。内戦中で安全なわけでもないだろうに、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ほら、これでいいだろう。」
「おばあちゃん、ありがとう!」
「地図読めるかい?」
「読めるんですけど、、、方角がわかるかな。北はあっちですか?」
僕は入口扉を指差す。
「ちょっと待って。」
老婆は再び店の奥に消えたかと思うと、すぐに戻ってきた。
「これ持って行きなさい。これで方角がわかるだろう。古いものだが、単純な造りだからまだ使える。」
僕の手元に置かれたのは、方位磁針だった。
「いいんですか?」
「いいよ。元々、誰かの落し物だから。」
「ありがとうございます。大切に使いますね。」
方位磁針の盤面には『EARTH WIND』と書かれていた。”EARTH”か。地球と何か関係があるのだろうか。とにかく地図と方位磁針さえあれば、目印の場所に辿り着けそうだ。
「また、いつか、時計買いに来ます。」
「そうかい。楽しみにしてるよ。この戦争が終わったら、また来たらいいよ。」
「ありがとう!それじゃあ、行ってきます!」
そのまま古時計店を出た。僕はスマホを取り出し、写真を撮っておいた。
ー アンティーク時計店 Timeless ー
そして、僕は宇宙船へ向かって歩み出した。
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(note内ページです) 】
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