僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#10】
#10 宇宙船へ戻れ
時計店を後にし、地図を眺めつつ周囲に気を配る。
所々に戦闘の爪痕が残っている。しかし、それより兵士に見つかると何かとややこしい。それに脱走した事を周知していれば、再び捕まりかねないからだ。
「知ってるか。捕虜が脱走したらしいぞ。」
「知ってる知ってる。」
「変なヤツだったらしい。この星の者ではないとか何とか。武装はしてなかったらしいし、収容所の物を獲ったりしてないらしいから、危険は少ないけど、変なヤツ見かけたら要注意だぞ。」
建物の隙間に身を忍ばせ隠れていると、兵士たちの会話が少しだけ聞こえた。やはり脱走した事は知れ渡っているらしい。警戒されている以上、見つかれば怪しまれてしまう。見つからないように、警戒心を緩めぬまま街中をコソコソと進んで行った。
―――――――
「もうすぐだな。レイニー...居てくれよ。」
ここまでは何とか兵士と鉢合わせないように山道に入った。
山道は舗装されてはいないものの、道がしっかりと出来上がっている。この山道の先、山の中腹にある岩で囲まれた小さい広場の影に宇宙船を隠してある。
兵士には会わないものの、その代わりにとある人物と出会った。
「おい、お前は何者だ。」
道の外れの林から声を掛けてくる少年がいた。その少年は虎を連れていてかなり驚いて、僕はビックリしたような顔をしていたらしい。
「おい、何者だって言ってんだ。そのバカみたいな顔、やめろい。」
ビックリしているだけなのだが、バカみたいと言われてしまった。
「いや、びっくりしただけなんだけど…。」
「初めて見る顔だな。顔も格好もこの辺のヤツじゃないってわかる。どこから来た…?」
虎を連れた少年は、怪しい者を見る顔でこちらを見ていた。それより虎が殺気を放ってこちらを見ているので、緊張感が半端なものではない。
「いやー、あの...急いでて...。」
「じゃあ、食べ物もってないのか?」
虎を連れた少年は、ぶっきら棒に訪ねて来る。
「食べ物なんて…いや...。」
みかんがあるのを思い出した。少年にそれを差し出すと、キラキラした目でこちらを見てくる。
「いいのか?」
「まだあるから、いいよ。」
みかんを少年に渡し、それじゃあ、とその場を後にしようとした。すると、少年は僕にとってとても重要なことを口にした。
「なぁ、昨日、山のなかでお前くらいの年の女に会ったんだ。人探してたみたいだけど、もしかしてそれお前じゃないのか?」
「もしかして、レイニーって子じゃなかった?」
「名前までは聞いてない。けど、お前みたいな変な格好してた。」
間違いない。レイニーだ。レイニーはどこへ行ったのだろうか。
「その子、どこ行ったか知ってる?」
「行き先は聞いてない。この山を越えられるのか聞いてきたから、越えられるって答えただけだ。」
山を越えたのか?ってことは、かなり離れてしまったかもしれない。どうする。レイニーは放っておけない。
「この山越えたら、どうなってるんだ?街があるのかい?」
「街はしばらくないよ。この山越えるのは簡単だけど、山を下っても街道しかない。その街道は、国境沿いだからほとんど憲兵しかいないし、その先は森しかない。」
国境?森?まずい。もしかしたら、憲兵に捕まってるかもしれない。入れ違いで収容所に容れられているかも。
「山を越えて街道に出るまでどのくらいかかる?」
「街道は山を越えれば6時間くらいかな。険しい道はないけど時間はかかる。けど、今ここから西に下った道を通れば1時間かからないよ。ただし、憲兵がいるキャンプがある。」
「道は危険なのかい?」
「まぁ、捕まったらややこしい事になるよ。一応まだ内戦は終わってないから、最悪処刑...。」
「うわぁ、物騒だな…。」
「…なぁ、、、その女にどうしても会いたいか?」
「...会いたい。付き合ってるんだよ。初めての旅行でここに来たんだ...。なのにはぐれちゃって...。」
相手は初めて会った少年なのに、素直な気持ちを口にしてしまった。それだけ切実で、絶対に見つけなければいけない。
「そうか。そんなに好きなんだな...。お前の彼女に山を越えれるって言っちゃったのおいらだし...。手を貸してやるよ。憲兵の目を逸らすの手伝ってやる。」
「本当に...。ありがとう。」
ここがどこなのかわからない。この星の事も土地勘もない。年端も行かない少年だが、心強い見方が出来た。
「おいらの名前は、ヒューゴ。こいつの名前は、ピケ。可愛がってやってくれ。おいらに攻撃して来るヤツ以外には懐くから。」
ヒューゴの連れている虎が足にまとわりついて来てゴロゴロ言っている。
虎ってネコ科なんだなと感じた瞬間だった。
「ヒューゴ君、よろしくね。ピケも。」
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(note内ページです) 】
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