僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#14】
#14 森の小屋で
眼前に見える人物はぜったいにレイニーだった。
僕はまだびしょびしょに濡れた服を絞る事も忘れて、必死に小屋に向かって走り出した。溺れかけて尽きそうな体力を振り絞ってパタパタと小階段を登っていく。
入口には扉などなく、これだけ近くまで寄ると部屋の中までがハッキリと見えた。
しかし、小屋に駆け寄った時、今まで視界に入っていたものがいつの間にか消えている事に気付いた。
「レイニー!レイニー!どこいったの!」
つい一瞬前まで居たはずのレイニーが眼前から消えてしまった。
確かに階段を登り始めるまで、扉のない入口から見えていた。
錯覚?!いや、視力には自信があるから、細かい服の模様までハッキリ見えた…気がする。
必死に渡りきって小屋まで辿りついたのに。
それでも、目の錯覚だったかもしれないレイニーを求めて、小屋の中に入ってみることにした。
――――――
入ってみると小屋は奥行きも幅もそれほど広くなかった。
木製のテーブルや椅子、食器用と思われる棚が並んでいた。
今でも人が使っているような生活感を感じるが、見渡す限り今人はいない。
「ん…?これは…。」
小屋の入口で視線を落とすと、一部分だけが濡れていたのだが、そこにイヤリングが落ちていた。
そのイヤリングはレイニーと付き合い始める時に、記念にプレゼントしたものと同じ型のものだった。同じものがこの星にある可能性はかなり低いはずだ。
「ここに、、、レイニーがいたかもしれない。」
イヤリングを拾い上げ、念のため小屋の周りを一周した。小屋の裏には、薪割り場や樽がいくつか置いてあるだけで、他に手がかりになるものは見つからなかった。
再び小屋の中に入り直した。その時、一つの違和感に襲われた。
さっきまで無かった物がある。
それは、テーブルの上に置いてあった。
「鍵…さっき、テーブルには無かったよな…。」
テーブルには木皿やコップ、フォークやスプーンなど食卓に並ぶようなものしか置いていなかったはずだ。そこに銀色の鍵が置いていた。
これだけすぐに視界に飛び込んで来るという事は、記憶に間違いはなさそうだった。
そして、もう一つ有り得ない光景が広がっている事にも気がついた。
この小屋の壁面には窓が三つ存在するだけで、あとは木造の壁で囲まれていた。なのに、入口から正面の扉の右横に扉が現れたのだ。
小屋の周囲を一周した時に、小屋の外壁も確認はした。中から見たものと変わりなく窓があっただけ。
「あの扉、小屋を一周する間に現れたんじゃ…」
急に背中がゾクッとしてきた。
森の中にポツンとたたずむ小屋。
池の底にいたレイニーに見えた何者か。
小屋の中に突如現れた鍵と扉。
こんな状況を僕は映画やドラマの中で観たことがあった。
きっとこの鍵で扉を開けられるんじゃないだろうか。
そして、そこから異世界へ繋がっていて、僕は危険な目に遭うに違いない。
これだけわかっているなら、絶対に進むべきではない事はわかっている。
しかし、レイニーが今どこにいるかもわからなくなっている。
もしかしたら、レイニーが…。
そう考えると、取れる選択肢はそれほど多くない。
僕は決心して、その扉を開けて進むことを決意した。
「レイニー、無事でいてくれ。」
そして、鍵を手に扉の前に立った。
緊張をほぐすように、目を瞑って深呼吸してみた。
スー…ハー…スー…ハー…
この扉の向こうは想像が出来ない。
それでも、冷静に冷静に。よし行こうと決心し、扉のノブに手をかけた。
扉のノブはやけにピリピリと、冷たいのか温かいのかもわからない不思議な温度を保っている。
ー カチャ、キー… ー
ノブを捻り、元々そこにないはずの空間への扉を開いた。
「どこだ…ここは…。」
目の前に広がる光景は、明らかに狭く先の見えない洞窟だった。
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(note内ページです) 】
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