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バルセロナから繋がった「第一歩」

今夢中になっているもの。
その一つにダンスがある。

「死ぬまでにやりたい10のこと」にも
「海外ダンスフェスティバルでゾーンに入って、世界中の人達と踊り明かす」
という項目も含まれているほど、今、私はダンスが大好きだ。

人生は、いつ終わるか分からない。
コロナや戦争という予想不可能な出来事が立て続けに起こり、私は真面目に、人生でやりたい10のことを出来るだけ早く実行しようと思い立った。

「今やってる、タンゴ(アルゼンチンのペアダンス)、キゾンバ(アフリカ発祥、パリで展開して大ブレイクのペアダンス)、ズーク(ブラジルのペアダンス)が全部できる所がいいなぁ。でも、休みもそんなに長く取れないし……」

目を皿のようにしてI Padと睨めっこしていたら、ついに、バルセロナにて、2週間で3つのダンス全てが踊れるタイミングがあることを発見した。

「9月……仕事がまた忙しくなるのは10月からだから……ギリギリ行ける!」
そう分かった途端、フェスティバルの申し込みや、航空券の申し込みをする手は途端に早くなった。

久しぶりの海外、そしてヨーロッパ。
嬉しさからか、久しぶりの緊張感からか、クリックする手は時々震えもしたほどだ。

私のこの夢を応援してくれていた趣味友達は、結構多かった。
タンゴのミロンガ(パーティー)に行った時、執筆という趣味でも繋がっているJさんがいた。
Jさんも海外のダンスパーティーに既に行っていたこともあり、私の海外ダンス旅行の実現を応援してくれていた。

「タンツちゃん、久しぶりだね!夏のヨーロッパ行き、実現しそう?」
「行けそうです!予定していたフランスとドイツはお預けになったけど、スペインに行きます」
「これまた、だいぶ方向転換したね。場所はどこ?」
「バルセロナです」
「バルセロナ?!ダンス以外でも、いい場所選んだね。バルセロナが舞台のいい小説があるよ。貸し出しできるし、行くまでに、読んでく?」
「Jさんお勧めの小説、今回も面白そうですね!ぜひ読ませて下さい」

小説のセレクトも素晴らしいJさんが、こうしてバルセロナが舞台の小説を貸してくれた。

「サフォン……?初めて聞くなぁ。『風の影』なんて、意味深なタイトル」
「これは、大作だよ。シリーズになってるから、第2弾の『天使のゲーム』も貸しておくわ」
「きゃっ!いつ読み終えられるかな」
「もう一回は読みたいから、いつかは返してね」

寛大な心を持つJさんから受け取った、『風の影』。
「上下あるんだ。学生時代と違って今は多忙だから、バルセロナから帰って来ても読み終えてないかも……」
その厚い2冊小説を手にした時は、そう思った。
だが、その予想は大いに反した。

ここは日本の湿った夏であっても、その小説は私を、カラッとしたバルセロナに瞬時に連れて行ってくれた。
その感覚がたまらなく、小説はついこの前バルセロナ渡航前に、終わりのページまで到達したのだった。

この小説は、私の学生時代の思い出をも、思い出させてくれた。
学生時代に一度行ったことのある、バルセロナ。
隣にはいつも守ってくれる人がいて、バルセロナは彼と隅々まで、既に行き着くし、感じ尽くした気になっていた。

読み始めの頃は、そんな彼と散策した旧市街の散歩や会話を思い出して、懐かしさで胸がいっぱいになっていた。
しかし、いつの間にかサフォンワールドそのものに、じわじわと引き込まれて行った。
読み進めると、そこにはスペイン内戦や第一次世界大戦前の出来事もあり、私の知らないバルセロナに魅了され、そして胸を打たれた。

「もう知り尽くしたつもりになってたはずのバルセロナ、こんなに知らないことがあったなんて…」
あの時隣にいた彼はもうスペインにいないが、それでもフェスティバルの合間を縫って、私はバルセロナを、この『風の影』の登場人物のダニエル、フリアン、それにヌリアのように歩いてみたいと思った。

それと同時に、また書きたいと思った。
文章を。

一年ほど、一文も書けない状況が続いていた。
コロナが落ち着いて来て、日常が戻って来たこと。
過去やインスピレーションと対峙することが、困難になって来たこと。
理由は、色々あった。
でも、4月にJさんがミラン・クンデラの小説を貸してくれた所から、私はまた、文を書きたい気持ちがじわじわと湧き上がっていた。

なかなか一文は、出てこなかった。
びっくりする程、再び踏み出す「第一歩」は動かなかった。
でもその一歩は、このサフォンの『風の影』と、大都市で出会ったMさんの嬉しい一言により、ついに踏み出せた。
Mさんとのことは長くなるから後日、書いてみたいと思う。

これから行くスペインのダンスフェスティバル、パーティー、そして2度目になるバルセロナの町。
それらはこの私の人生に、どのように絡んで来るのか……。
楽しみでならない。
久しぶりに踏んだ第一歩を感じながら、私の心は弾んでいる。

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