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社会学って何ですか? 第1回『社会学史』① ―「社会学」が生まれるまで

◆はじめに

 私は、ある大学の社会学部にこれまで2年(も!)所属してきた。しかし、未だに友人からの「『社会学』って何勉強するの?」という問いに答えられない。非常に悔しい。しかし、一口に社会学といっても、切り口は多様で、深く、常に難解だ。そこで、この「社会学って何ですか」シリーズでは、社会学とは何か、を把握するための私の個人的なチャレンジの記録をつけていこうと思う。
 初回は、社会学の発展についておさらいし、今後の探究の指針にできればと、大澤真幸先生の『社会学史』を読む。

◆『社会学史』の目次

 『社会学史』本文は、3章から構成される。
Ⅰ社会学の誕生―近代の自己意識として
Ⅱ社会の発見
Ⅲ システムと意味
 社会学の歴史を、およそ年代順にたどりながら、各時代の共通項、時代間の関係、発展について大澤先生の視点を交えながら紐解いた本。講談社での講義をベースにしているので、初学者に優しい語り口だ。入門書としての評価も高い。
 各章の中では、様々な思想家・社会学者などを参照し、そのエッセンスについて解説されている。ここからは、スライドなどを用いて、その構成や各思想家の理論のエッセンスについて掴んでいく。
※なお、ここからの記述は私の個人的な解釈・意見なので、ご留意いただきたい。

◆社会学以前の思想家(Ⅰ-1・2が対応)

スライド2

 『社会学史』Ⅰ-1、Ⅰ-2では、図のような思想家に言及しながら、およそフランス革命以前、「社会学」誕生以前の歴史について、

古代ーアリストテレス(①)
自然法に関する論争―グロティウスvsパスカル(②)
社会契約説周辺の思想家―ホッブズ、ロック、ルソー(③)

 という流れで構成される。
 以下、各思想家のポイント。

◆①古代―アリストテレス

アリストテレス
キーワード:「人間は政治的動物だ」
著作:『倫理学』『政治学』
ポイント:
・アリストテレスの「人間は政治的動物だ」という言葉には、彼の時代から政治や社会といった概念が存在していたことを象徴する。
・アリストテレスの理論は非常に目的論的な構造をとる。主著『倫理学』では、(完全な)友愛関係を、『政治学』では都市国家を究極形態として想定した。

◆②自然法に関する論争―グロティウスvsパスカル

グロティウス
キーワード:自然法
著作:『戦争と平和の法』
ポイント:
・グロティウスは自己保存の権利と他人の生命や財産を侵害しないこと、を二大原理とし、これらは神が存在せずとも成立するとした。

パスカル
キーワード:「パスカルの賭け」
ポイント:
・パスカルは、「パスカルの賭け」で神の存在に関する思考実験を行い、グロティウスを神への冒涜として批判したが、実は両者とも神の存在を前提としている。

◆③社会契約説周辺の思想家―ホッブズ、ロック、ルソー

ホッブズ
キーワード:自然権、「万人の万人に対する闘争」、リヴァイアサン
著作:『リヴァイアサン』
ポイント:
・ホッブズは、現実の階層社会を見据えつつ、本来平等に自然権を付与された人間が社会を構成するという立場をとった。
・ホッブズは、自己保存の権利を人々が行使すれば「万人の万人に対する闘争」という帰結は避けられないから、リヴァイアサン=国家という権力装置の下での自然権の放棄が必須だと主張した。
・パーソンズは、ホッブズの立つ功利主義的人間観だけでは社会を説明できないとする「ホッブズ問題」を提唱した

ロック
キーワード:所有権、抵抗権
著作:『統治二論』
ポイント:
・ロックは、自然状態でも完全な無秩序には陥らないと考えており、人々は所有権を概ね尊重していると考えた。そのうえで、所有権(自然法)を尊重しない者による紛争に対処するために、人々は集合したうえでそのうちの少数に裁判権と執行権を信託する、とした。
・ロックは、抵抗権を主張したが、これは神の存在を前提とし、政府の振舞いに対して神へのアカウンタビリティを問う、というロジックだ。

ルソー
キーワード:社会契約説、一般意思
著作:『人間不平等起源論』『社会契約論』『告白』
ポイント:
・ルソーは、コミュニケーションの透明性・直接性(>>『告白』)を理想とし、人々の間の完全な透明性が「一般意思」を形成するとした。
・ルソーは、国家は全員一致の社会契約で成立し、国家の決定は人々が一般意思を表明すれば、多数決の結果が一般意思を反映する、とした。

◆アリストテレスからルソーまでの流れ

スライド3

 次に、ここまでの流れを自分なりに解釈してみることにする。
 まず、アリストテレスが、政治的動物という言葉で、人間が集合した際に何らかの秩序、つまり社会や政治といった概念、が成立するという根本的な前提を示した。
 そのうえで、中世以降、「がいなくても」「階層が存在しなくても」といった、それ以前までは自明とされていた存在をカッコに入れる思想が生まれてきた。
 だが同時に、「万人の万人に対する闘争」をホッブズが危惧した通り、平等な人々の新たな秩序の規準になるものは何か、を見定める必要が出てきた。そこで、「所有権(自然権)」「抵抗権」「社会契約」といった新しい概念を提唱する思想家が登場した。
 しかし、大澤先生も仰っていることだが、アリストテレスからルソーに至るまで、彼らはあくまで「思想家」で、「社会のあるべき姿」から逆算して社会を捉えようとしている。それゆえに、抵抗権では神を参照する(←)し、社会契約は全体主義的(本文中では「ルソー問題」として紹介されていた。)になり得るなど、微妙にニュアンスが異なっている。
 近代あるいはフランス革命に向かって、人々は徐々に神、階層といった従来の普遍的な規範を乗り越えようとしている(→・➡)が、まだその方向性を完全に説明可能な理論は登場していない。大澤先生はこれを「ホッブズ問題」として挙げていた。ホッブズ問題は、『社会学史』において以降も頻繁に登場する。頭に入れておこう。

◆次回は社会学の誕生を扱う。

参考文献:
大澤真幸 (2019) 『社会学史』 講談社





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