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R.I.P. ツツ大主教:TuTu - Miles Davis / Chick Corea / Pat Martino

この12月26日にデズモンド・ツツ大主教 (*1) が亡くなった。90歳になったばかりだということだ。第一報を受け取ったのは、日本国内で報道が始まる前で早かった。facebook の Miles Davis のFan Page から「R.I.P.」 とコメントがついて、アルバム "TuTu" がシェアされてきたからだ。

80年代のマイルス・デイヴィスを支えたベースのマーカス・ミラーがプロデューサー、作曲、そしてギター、シンセサイザー、ドラムマシン・プログラミング、クラリネット、サックスなどの楽器も演奏している。また、石岡瑛子によるジャケットのデザインはスタイリッシュで美しい。石岡は日本人初のグラミー賞を受賞した。

さて、そういうわけで、最近気に入ってよく聴いているミュージシャンを集めたマガジン「Heavy Rotation」 2021年最後の24回目は番外編として「RIP」、今年に天国に召されたチック・コリアと、パット・マルティーノのことを書いておこう。チック・コリアと、前回に書いたハービーハンコック、そして、ツツ司教にもからむので、マイルス・デイヴィスについても少し書いておこうと思う。

チック・コリアが亡くなったというニュースが今年の2月12日(*2)に駆け巡り悲しい気持ちでいっぱいだった。2月13日にいろんなミュージシャンから流れてくる facebook 投稿に、何度 "Care", "Sad"ボタンを押したかわからない。

チック・コリアを知ったきっかけは35年以上前だったか、アル・ディ・メオラからだ。スタンリー・クラーク(b)、レニー・ホワイト(ds)との泣く子もだまる RTF: Return To Forever、「浪漫の騎士」もよかったし「第七銀河への帰還」もよかった。アル・ディ・メオラは、チック・コリアの曲をさまざまなアルバムで収録しているが、なかでも「ファントム」や「ノー・ミステリー」の演奏は大好きだ。

Chick Corea Elektric Band も衝撃的だった。当時まだ若手だったジョン・パティトゥッチ(b)、デイヴ・ウエックル(ds)、そして、その後ビリー・ジョエルのような変身をすることになるフランク・ギャンバレ(g)、みなそれぞれ大活躍で、今や大御所だ。チックコリアもマイルスと同様、良いミュージシャンを発掘する。目利きだと思う。Elektoric Band のデビュー作もよかったし、私のお気に入りは「アイ・オブ・ザ・ビホルダー」、その中の「エターナル・チャイルド」は最高だ。

この曲はバレリーナの曲だ。YouTubeで検索すると素敵なビデオがすぐに見つかる。バレエといえば、今年11月に、バレエを観に行った。


Elektric Band は最近でもよく聴いている。同じメンバーの Akoustic Band はElektricほど挑戦的ではないが、落ち着いていてよい。

もちろん、ソロもいい。そして、ゲイリー・バートンとのデュオはどれを聞いても美しく感動的だ。「クリスタル・サイレンス」は何度聴いてもよい。


ソロでは「マイ・スパニッシュ・ハート」というアルバムもよく聴いた。1曲目の「ラブ・キャッスル」がひたすら美しい。


RTFに戻ろう。アル・ディ・メオラの加わる前、名曲「スペイン」のはいった2枚目のアルバム「ライト・アズ・ア・フェザー」もよかった。そして、なんといっても通称「かもめ」、1972年リリースの1作目は、いつでも元気の出る一枚だ。中でも「フィエスタ」はよい。

「フィエスタ」、ゲイリー・バートンとのデュオでの演奏。

マイルス・バンドではあまりに有名な1970年の「ビッチェズ・ブリュー」にも参加している。私はその一年前にリリースされた「イン・ア・サイレント・ウエイ」が好きだ。チック・コリアはこの前の「キリマンジャロの娘」からマイルス・バンドに参加しているが、彼の色は薄いように思う。

しかし、私はそこからマイルスに入門し、ハービー・ハンコック(p)、トニー・ウイリアムス(ds)、ウエイン・ショーター(ts)、ロン・カーター(b) の黄金のクインテットに痺れ、スケッチ・オブ・スペイン "Sketches of Spain" から、ギル・エヴァンスを追いかけ、あるいは、ビッチェズブリューから、マハヴィシュヌ・オーケストラやウェザー・リポートへ辿るなど、マイルスを軸に、実に様々なミュージシャンの音楽を幅広く聴くようになったと言える。

マイルスは、1975年からの6年の沈黙の後、1981年の"The Man With the Horn"で復活を遂げる。ベースは当時22歳のマーカス・ミラーを抜擢、そして、このアルバムの一曲目 "Fat Time"でギターを弾くのが当時28歳のマイク・スターンだ。マイク・スターンのことは、2週間前にに少し書いた。

マイク・スターンは自身のリーダーアルバムをリリースする1980年代後半のころには、精悍な顔と体躯となっているが、このころは少し太り気味で長く伸ばした髪があか抜けない感じで、曲名はそこに由来しているのだそうだ。

この後にマイルス・バンドに参加したギタリストというと、ジョン・スコフィールドだ。ジョン・スコも私の大好きなギタリストで、アイバニーズのセミアコでグイグイ抉るような音と調子っぱずれの一歩手前のアウトのフレーズ連発で攻めてくるギタリストだ。


最近は見てくれが爺さんぽくなりすぎで、1980年後半から1990年前半に比べればだいぶん大人しい感じだ。弱々しく感じてしまうのは、あのころとのコントラストからかもしれない。

たとえば、2002年のライブの動画がYouTubeにあがっているので聴いてみよう。

パット・マルティーノのオルガントリオにゲスト参加しているジョン・スコは3分50秒くらいから3分間弱のソロをとる。パット・マルティーノが、出来のいい生徒を見守る先生のように、満足気に笑いながら頷いているのが印象的だ。

さて、パット・マルティーノのことを書こうと思う。

11月1日の朝、パット・マルティーノが亡くなったというニュースが入って、facebookのタイムラインにどんどん R.I.P. メッセージが投稿されてきて sad ボタンを何度押したかわからない、その日は一日、悲しみを押し殺すようにもくもくと仕事していた。

最近の若い人の繊細なスーパーテクニックのギターばかり聴いていたら、やっぱり、昔馴染みの骨太ギターが聴きたくなる、そんなときに聴くのが、この人、パット・マルティーノだ。太い音色で正確無比なピッキングの8分音符で途切れなく紡ぎ出すストイックな長い高速ソロはいつ聴いても圧巻だ。

1944年生まれ、1967年にデビューの後、1970年代に活躍し神と崇められるも、1976年に脳動脈瘤で倒れ、1980年に手術をし一時期記憶を失う。リハビリを乗り越え、1987年にライブ盤 "The Return” で復帰。私が本格的に知ったのはこのアルバムで、これは当時、本当によく聴いた。

しかし、その後ご両親を相次いで亡くした喪失感からしばらく活動停止していた。復帰のきっかけは、1992年フィラデルフィアの小さなクラブでのジム・リドルのピアノの演奏に感銘したからだという。

復帰した後の 1990年半ばのジム・リドルとの共演のライブ盤 "Nexus" は、私は知らなかったのだが、2015年にリリースされていたらしい。一昨日に初めて聞いたけれども、どの曲も本当にすばらしくなんとも感動的な演奏だ。

たぶん、パット・マルティーノはオルガントリオのライブが一番聞きごたえあるのではないかと思う。

何年もの闘病と悲しみを乗り越え、完全復帰といえる2001年のライブ盤、これもずっと愛聴盤だ。1曲目のオレオ、神がかりともいえる迫力ある演奏で、ジョーイ・デフランンチェスコのオルガンもビリー・ハートのドラムスも最高だ。

10年もの闘病生活とリハビリ、そして度重なる不幸を乗り越えて、復活してきたパット・マルティーノ。そして、長い差別に虐げられてきた南アフリカの黒人たち、長年にわたる反アパルトヘイト運動を続け、耐えいがたい苦痛を味わいながらも不屈の精神で制度の撤廃を勝ち取ったツツ司教をはじめとする活動家。

2年やそこら、私達に何かあったとして、それくらいでなんだ、というのだ。

R.I.P….


■ 注記

(*1) 特に注釈をつけるものでもないかもしれない。南アフリカの神学者・牧師であり、反アパルトヘイト・人権活動家、1984年にノーベル賞を受賞し、1992年のアパルトヘイト廃止に大きな役割を果たした。

Wikipedia - デズモンド・ムビロ・ツツ

コロナ禍の前、2019年11月に note に著作 "The Book of Forgiving" の感想として、次のような記事を投稿している。

大事なことは、過去と向き合い、客観的にとらえ、相手も自分と同じ人間であることを認め、相手のことも自分のことも許して、前を向いて一歩を踏み出すことである。過去は過去でつらい事実は変わらない。しかし、そのうえで、未来をどう生きるかは選択できるのである。
許すのは相手のためではない。また、決してあった出来事をなかったかのように過ごすということでもない。過去と相手と自分自身に縛られた自分を解放し、新たな自分自身を築いていくために必要なプロセスなのである。

未来への一歩を踏み出すための許しのプロセス:Archbishop Desmond Tutu and Rev Mpho Tutu, "The Book of Forgiving"・・・私自身の投稿

他に、ダライ・ラマとの対話を収めた本 "The Book of Joy" も2018年に読んだ。これもおすすめだ。


(*2) 亡くなったのは 2月9日ということだが、ニュースは、日本時間の2月12日に駆け巡っていたと思う。

Chick Corea, Jazz Keyboardist and Innovator, Dies at 79 - The New York Times (nytimes.com)


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