Ballet: Why ballet helps create a positive self-image
私がバレエだなんて笑われるのを承知で、バレエには入れ込んでいる。ちょうど、カントの三批判書を読んで、神が作ったわけでもない、自然が作ったものでもない、すなわち、人間が作ったものでなおかつ人間の理性が意図して作ったものではない「美しいもの」を、美しいと感じる力について改めて認識したところでバレエに出会ったのであった (関連 note 記事参照)。
そういえば、何年も前にマネジメント関連のセミナーで知り合った方がバレエを趣味にされていて、その方は、紆余曲折を経た後に、今、バレエを仕事にされている。一回お会いしただけではあるが、そのときのご縁でSNSでつながっていることもあって密かに応援しているので、それ以前よりバレエについては、知らないわけではなかった。そんな下地もあったから、一昨年の年末にすっと入ってきたのかもしれない。
ほんとに人と人との縁が結ぶ知識の縁というのは不思議なものである。
さて、笑われても仕方ないほど頭でっかちで身体はまったく動かないしリズム音痴で、あらゆる意味でダンスの経験はないし、習っているわけでもなければ習おうとしているわけでもないので、バレエという芸術に対する理解は自ずと限界があることは仕方ないとしても、頭でっかちなりにできることはしておこうと思えば本を読むこと、そう思って手にとった "Ballet: Why ballet helps create a positive self-image" を2022年の大晦日の晩に読み終えた(*1)。
この本の著者はどうやら女性のバレエの先生らしい。らしい、というのは、著者略歴どころか、著者の名前もどこにも書いていないことに、今、気づいたのだ。アメリカのルイジアナで Lelia Haller に師事したということなのでだいぶんお歳を召した方ではないかと思う。ちょっとネットで調べると、Lelia Haller Ballet Classique というバレエスクールがあり、創始者のLelia Hallerによって1928年に創立されたとある。
本書の構成は以下のようになっていて、introduction の冒頭の一文で、 "Ballet Helps Everything! Ten Reasons Why." とあり、1章から10章にかけてそれぞれを論じている。
また、Introductionでは、"Three Keys to Support Ten Reasons"として、 Balance, Posture and Body Alignment の 3点を挙げている。3点は独立した要素ではなく密接にからんでいる。バランスが大事というのは言うまでもないだろう。ポーズは姿勢、あるいは型とでもいうべきか、身のこなしや立居振舞いといった動きも含むようだ。Body Alignment あるいは Body Arrangement というのは、日本語にしにくいが、Postureに密接に関係し、各身体のパーツが正しい位置関係にあること、ということのようだ。
このあたりの是非については論じることはできないが、なるほどと思うこととして、普段からこの観点でダンサーの動きをよく注意して見て、自分の普段の立ち居振る舞いで気を付けていきたいところだ。
そういう意味では、chap 1 の spatial awareness - 空間認識能力とでもいったらいいか、これは興味深かった。バレエでは複数の人が同時に踊る場面も多いし、また主役一人が踊っているときでも舞台に他の出演者がいることも多い。そして躍動する手や足の動きは複雑だし、跳躍や回転もあれば、舞台の端から端まで高速に移動する。だから、バレエを練習することで、自分の身体や人の身体の作る空間や動きを適切に把握し、お互いに衝突せずに自然に動けるようになる、というわけなのだ。しかも優雅に。
chap 3. 強さ・スタミナは、あれだけのジャンプや回転をこなさなければならないのだから、超一流のアスリートでなければならないだろう。そして、それに関連する chap 5. Dynamic Energy というのは、なるほど、と思った。
各動きは、より速く、より遅く、よりキレがよく、しかも優雅に。
初めてバレエを通しで見たときに気付いたのだが、どの踊り手も1時間とか2時間、ずっと跳躍したり回転するなど激しく踊っているわけではない。しかし、一つの演目で数分ずつ何回かそんな場面がある。だから、2-3時間のマラソンを走っている途中で、100m走ー停止-100m走ー停止・・x n 回というような運動を間欠的に何セットか繰り返す、そんなダイナミックなエネルギーの使い方ができなければならない。
chap 2 は柔軟性、chap.4 Coordination は身体全体が調和した動きができること、chap. 7 Body Articulation は身体の各関節の構造と動きを意識して無理なく綺麗に身体を操ること、ということだ。
柔軟性といえば、筋肉や腱、関節の可動域、くらいしか頭になかったが、たとえば関節の可動域が広いだけではスムースで美しい動きを作ることはできない。また、身体の各部分の動きがバラバラで理にかなっていなければ怪我もしやすい。
なるほど、ニュートンの3つの法則や運動量保存の法則や角運動量の保存の法則など、力学を身体で理解していることが大事だろう。また、身体が関節を軸にして動くわけだし、関節と関節の間は骨の形で形が決まってしまうのだから、骨格および関節の構造をよくわかっていることも大事だろう。
このようなことが全部、一流のレベルに到達するためには、たゆまぬ努力、集中力と規律が求められる、というわけだ。
以上のような要素が高いレベルで身につくので、バレエを習うことで、サッカーや野球やバスケットボールなど、他のどんなスポーツだってできるはずだ、と書かれていて、確かにそうかもしれないと思うようになった。
すべては1500年ごろのイタリアのルネッサンスのころからの時間をかけて作られてきたわけで、自然と無駄なく無理なく、より速く、より遅く、そして優雅で美しい、そんな姿と動きになったのだと納得できる気がした。
さて、実践がまったく伴わずこんなことばかり言っていても仕方ないことは上に書いたとおりだし理解も稚拙だとは思う。とはいえ、今の私には少し視野が広がり、十分に楽しむことはできた。
ところで、この本で、何人かの有名バレーダンサーの名前があがってくるので、 YouTube で動画を検索してみるといくつか感動ものの動画があり、合わせて楽しませてもらったので、いくらかリンクを貼っておこう。
まずは、男性のミハエル・バリシニコフ。
そして、セルゲイ・ポルニン。
20世紀最高のバレリーナと言われるという、マイヤ・プリセツカヤ。
芸術であっても学問であっても、あるいは技術であっても、対象について知識が深まり目や耳が肥えてくると、それまで区別がつかなかったものが区別つくようになるし、それまでまったく見えなかったものが見えてくるし、聞こえなかったものが聞こえてくる。同じものを同じように体験しているはずなのに、認識される形や音も変容する。そして美しいものがより深く認識できるようになる。
それは、自然にできたものではなく、理性の要請で作られたものでもなく、人間が作り、人間がたくまずして作った、そんな「美しいもの」に共通のことのように思われる。不思議なことではないだろうか。
今年も6月くらいに一回、新国立劇場あたりにバレエを鑑賞しに行く予定にしている。そして、今年末には、私が認識するダンスの見え方も大きく変わっているに違いない。
いろいろ楽しみだ。
■関連 note 記事
■注記
(*1)2022年10冊目の洋書である。辛うじて年間2桁冊数をキープすることができた。とはいえ、購入したのは2022年の夏だ。
75ページほどの小冊子だが、動詞も普通名詞・固有名詞も馴染みのない単語がキーワードとなるし、カジュアルな文体もあいまって、なかなか苦戦して結局 50% 読んだところでギブアップした。
その後、半年たち年末の休暇に入ったところで再開し、なんとか読了できたのだった。当該知識領域の方々にはいかに初歩的で簡単なことであっても、門外漢にとってはすっと頭に入ってこない。新しい知識・新しい概念を獲得するのは時間もかかるし難しいことだ。
自分の得意の領域で、人に対して「なんで、こんなことがわからないんだ」と絶対に言わないようにしようと改めて思った。
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