自分の軸を持とう:Robert B. Cialdini "Influence"
12年ぶりか、新たにKindle版を購入して読み返して予定の11月末よりも1週間早めに読み終えた。改めて考えることも多く、とてもよかったと思う。
Amazonの記録によれば、Paperback 版のこの本を私が購入したのは 2007年、15年選手となったくらいだろうか、そのころにさんざん言われた言葉の中で、いまだにたびたび思い出しては振り返る言葉として、「自分の軸を持て」というのがある。一見、簡単な言葉だが、言動と結びつけることは難しく、なかなか含蓄が深い言葉だと、最近になってもなお、考えさせられる。
ここにリンクした前の投稿で紹介したが、Cialdini (チャルディーニ) によれば、人の判断に影響を与える要素として、「返報性」「コミットメントと一貫性」「社会の承認」「好意」「権威」「希少性」の6つがあるとした。また、その中で、これらの要素は、人を動かすためのツールと考えるよりも、自分自身や自分の属する組織の意思決定や、意思決定できない理由を分析するのに役立つはず、と指摘した。
「返報性」「コミットメントと一貫性」「社会の承認」「好意」これらは非常に大きな影響を与えていて、しかも複雑にからまっている。なかでも、一貫性は非常に大事で、自分の影響力を保とうと思ったり、組織の安定性や求心力を保つためには必要と思える場面も多い。
深い霧の中で、雪の山道をさまよう中で、ついさっきまで「そのまま前進」と言っていたのに、急に「地図をよく見たら右だと思った、右折しよう」、「左のほうに光が見えた気がするから左折しよう」などと、たびたび方向がかわると、「この人にはついていけない」と思われることになろう。しまいに、一人一人が自分の思う方向をてんでばらばらに進むことになる。
むしろ何があっても「前進あるのみ。私について来い。」という人についていきたいと思うだろう。
さて、一般にプロジェクトマネージャは、人事権を持たず、予算配分に関しても権限を持たないので、メンバーに対してさえも権威をもてない。そんなときに、「返報性」を使い、影響力を駆使してさまざまな人を動かすこととなる。
このとき、メンバーや関係者との信頼性を構築するうえで、上に述べたように、本人の言動に一貫性があることが重要となる。
- Aさんへの評価:「あの人は、言うことは間違っているかもしれないが、軸がぶれないのがすごい。」
- Bさんへの評価:「あの人は、いつも正しいことを言うが、一貫性がない。」
"Influence" に指摘されているように、このような場合、Aさんのほうが圧倒的に高く評価され、強い信頼関係を構築でき、より多くの人に好かれるので、効果的に影響力を発揮でき、多くの人を引っ張ることができる。
では、次のCさんDさんの場合はどうであろうか。
- Cさんへの評価:「あの人は、言うことはころころ変わるが、状況の変化に応じて迅速にしなやかに対応して、最終的には成功に持ち込む。」
- Dさんへの評価:「あの人は、言うことはぶれないが、周囲の状況が見えていない。失敗に突き進んでいても目をつむって対処もしない。」
この二人を比べると、プロジェクトマネージャとして優秀なのはCさんであることは多くの人が同意するだろう。
実は、Cさんのほうが言動に一貫性があるとも言える。表面的には一貫性がないように思えても、「プロジェクトが成功するように考えて発言し行動する」ということが「軸」だと考えると、Cさんは一貫性があり、Dさんは一貫性がない、ということになる。
※ここでは、「プロジェクトの成功」の要件は関係者内で共通の理解に達していると単純に考えておく。
Aさんのように周囲に見てもらおうと思うと、言動をとりつくろったり、状況判断を自分の都合のよいように解釈したり、など、Dさんのような行動に結果としてなっている場合が多い。
また、今の次元で軸がぶれているように見えようが、もうひとつ上の次元で軸がぶれていない、と自分で理解して納得づくであった判断であったとしても、人から見ると視点を変えて自分をごまかして正当化しているだけだ、とも受け取られるだろう。
もっとも、実際、プロジェクトに巻き込まれているメンバーにしてみたら、「あなたの中の一貫性や納得性などどうでもいいから、状況が変わって判断が変わったのなら早く言ってよ」というのが正直なところかもしれない。
案外、「どうせ、今やってることが無駄になるだろう、と思って仕事してましたし、大丈夫です。」なんてサバサバと言われるかもしれない。
いや、自分の胸に手をあてて振り返ってみれば、私自身、そんなことを思いながら、割り切って日々の業務をこなしていることもあるのではないだろうか。
また、自分の軸はぶれずに考え行動していても、関係者の中で、とりわけ影響力の大きい重要人物の軸がぶれて、振り回されることも往々にしてある。別次元を含んだ軸を持った人と一緒に仕事をすれば、白いものも黒く、黒いものも白くなる、そんなことは日常茶飯事である。また、最近痛感したのだが、ステークホルダマネジメントの四象限を自身のときどきの関心事によって自在に動き回る人は、扱いが難しい。こういう人は、軸が完全に異なる次元にあるのだ。
この構造は階層に際限がなく、同じ階層の中でも複数の軸が考えられる。プロジェクトの成功という軸もあれば、組織軸もあれば、会社としての損得という軸もあるし、組織が社会に与えるインパクトという軸もある。個人としての会社の中での生き残りという軸もあれば、家族の幸せといった軸もあるし、町内会のようなコミュニティの軸もある。それらの軸のうち、どれを重視するか、という、もう一つ上の次元の軸もある。また、時間軸という視点も見逃せない。
あのころから、「朝令暮改なんか当たり前」、「60%の確信度があれば、まずは走り出せ、走りながら考えろ、常に検証し、間違いが見つかればすぐに修正すればよい」、「今必要のないものは捨てて一点集中だ、将来必要になったらそれを買えばよい、今はなんでも買える時代だし、変化の速い現代だ、将来必要なものなどはわからない。」、「修行なんて意味はない、修行しているうちに時代は代わってしまう。」などと言われるようになった。軸など持つな、こだわるな、と言わんばかりである。
しかし、同時に「自分の軸はしっかり持って王道をどーんと行け」とも言われた。ずっと不思議な感覚を持っていた。
自分の軸を持ち、そこに一貫性を持つように生きることは、存外、難しいのだ。
「自分の軸を持て」
自分の軸をどこにおくいて判断するのか。軸を保つことや一貫性を気にしすぎて判断を誤っていないか。まだまだ、これからも迷うことも多いだろう。動きの早い世の中だからこそ、判断に影響を及ぼすほかの要素も含め、常々、振り返って、いったん立ち止まって考えることが、大事なのだ。その際に、自分の軸と次元と視点をしっかりと意識し、関わりあう人の軸と次元と視点を意識しながらものごとを進めることが大事なのだろう、と改めて考えた。
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