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Ryder Carroll "The Bullet Journal Method"

今年の洋書 1 冊目は、軽いハウツー本でいこう、と兼ねてから気になっていた仕事術 "The Bullet Journal Method" を読んだ。タイトルからしてだいたい内容は想像がつくし、だいたいの方法論は知っていた。そのことは、以前にスケジューリングの方法論をあれこれ書いた際に、一つの方法として紹介しておいた。


スケジューリングや時間管理というと、将来の目標を設定してそこから逆算してやるべきことリストを作成し、それぞれに期限を切って実行していく、というのが多い。その場合、「記録」は管理手法として使われることとなる。スケジュールの遅延や成果物の品質未達や予算オーバーなど、計画からの逸脱がないように、管理項目と指標をはっきりさせて記録をしていくことになる。

しかし長い期間の間で、社会も自然も環境が変われば自分だって様々な経験をしていく中で変わっていく。今たてた将来の目標など、未来の自分にとってまったく違ったものに見えてくることもあるだろう。実行してみても思わぬ意外な結果ばかりとなって着手したとたんに後の計画はすべて絵にかいた餅、なんてこともあれば、不測の事態で着手さえもできなくなることだって往々にしてある。

そもそも、周囲の環境と無縁の実行というのはありえないので、変化が激しく未来を見通しにくい時代には実行してみないとどんな結末になるかわからない場合も多い。場合わけして様々なシナリオを考えて、望む方向になるように周囲に働きかけながら、不測の事態になるリスクに備えておくのが大事、と書けば簡単だが、なかなかそうは問屋が卸さない。いろいろ検討しているうちに計画が無効になってしまうこともある。

見通しが甘い、と言われればそれまでだが、多くの人はそれほどの千里眼ではないだろう。

なによりも注意力が散漫で興味が移ろいがち、かつ思い込んだら一本やりでよく考えずに行動してしまう、そういう人にとって、トップダウン型の方法はうまくいかない。

この The Bullet Journal Method は、そのような普通の人たち向きと思う。

一言でいえば、日記を箇条書き(Bullet)でつけましょう、ということだ。雑多なことも含めてなんでも記録すればよいのだが、なるべく簡潔に、しかし後から見て分かる程度に記録していくことが大事だ。これはもちろん日記をつける作業量を減らすこと、あとから見直しやすくするというこ効果もあるし、雑多な出来事であってもその中で記録しておくに値する大事な部分が何かを考えさせる効果もある。

箇条書きには、点や丸を頭につけるが、その記号をシステマティックに決めておく。たとえば、

□ やること
■ 実行したこと
× できなかったこと
◆ 起こったこと
※ 単なる情報

という具合にわかりやすくなる。ここで例として挙げた記号は、適切な文字がないために本書で提唱されている記号とは違うが、コンセプトはわかることだろう。

また、カテゴリーを3つ:Tasks、Events、Notes にわけ、時間軸では Daily、 Monthly、 Future とわけ、それぞれにページをわりあてる。

Tasks といえば、やろうとしていること、やったこと、できなかったこと、やらないと決めたことなど。Events といえば、例えばパートナーに贈り物を送ったとか食事をしたとか、こんなことをテキストした、とか、こんなことを言ったとか言われたとか、そのとき自分やパートナーがそれぞれどんな態度だったか、などなど。Notes なら、SNSで拾った情報や勉強になったことあるいは気になったことその他。

なるべく 5W1H 客観的に事実ベースで書くように努めるのがいいと私は思う。

毎日のログをとっていき、必要に応じて見出しの記号を書き換えたり、内容そのものを見直しながらアップデートしていく。月次で振り返り将来を考えながら、来月絶対にやろう、とりあえず延期しておこう、やっぱりやめにしとこう、などと振り分けて、毎月のログ、さらには毎年のログ、と記録していく。

そのためにはノートの最初の数ページに全体を俯瞰する Index を設け、項目ごとにページ番号をつけていき、トピックの経過を追えるようにしておくと便利だ。

また、プロジェクトのように始まりがあって終わりがある特別なことのためには Custom Collection という独立なセクションを設けるとよい。たとえば旅行など、計画・実行・振り返り・終結のようなイベントだ。

そして、The Bullet Journalでは、手書きで書くことが強調される。

手書きで書くのは手間がかかる。きちんと書かなければ後で読めなくなるし、自分でも読めない文字で書かれているページが増えてくると、嫌になって続けられなくなるだろう。だから、自然とちゃんと時間をとって落ち着いて記録する習慣ができてくる。しかも全てをダラダラと記述せずに、書くに値することだけがエッセンスを抽出されて記録されていく。そのようにして考えながら書くことで、自然と自分にとって大事なことが見えてきて、また、なぜそのことが自分にとって大事なのか、自然と考えるようになってくる。

また、常に携帯していつでも記入できるようにすることも可能になる。

肝心なのは定期的に振り返り見直すことと、徹底して続けることだと思う。上手く行ったこと行かなかったこと、振り返るごとに、概念軸と空間軸および時間軸によって関連づけを見直しノートをアップデートしていく。自分がやりやすいように続けられるように工夫しながらしていけばよい。そのことによって、自分の得意不得意がわかり、自分とって大事なことを見直しつつ、長期スパンでのゴールと短期的な様々なやるべきこととを見失わず、自分や周りを客観的に見ることができるようになり、自分自身を肯定し周囲への感謝も感じられることだろう。

記録して自分と周囲を見つめて認めていく、その中で見えてくることを大事に次の目標をたてて実行していく。そのサイクルを繰り返していく中で、いつの間にか自分に合った目的に沿って行動できるようになる、つまりは、自分に合った生き方ができるようになるはずだ。

と、こういう風に書いてみると、内容そのものはとてもオーソドックスではあるし、日記をつけるとよい、というのは日本人だとそれほど新規性はないに違いない。

トップダウンではなくボトムアップ、目指すところがわからなくてもいい。目指すところを外に探してそこに向かって生きるのではなく、自分を見つめて日々の生活の中で目指すところを見出しながら今を生きていく。

そんなことを "The Bullet Journal Method" を読んで考えさせられた。


計画を立てることが苦手な人、計画どおりに実行することが苦手な人、定型作業でなく不確実性の高い仕事を生業にしている人、そんな人にはお勧めの手法だ。



■注記

私は、PC やスマートフォンなどの端末で記録をつけていくほうが好みだし、クラウドベースのノート (Evernote や OneNote など)を愛用している。emailも記録媒体として悪くない。手書きの良さは十分に理解しているつもりだが、これはもう好みの問題だ。コンセプトを理解したうえで自分にあったやり方にカスタマイズして、よいところを取り入れればいいと思う。


■関連リンク

文章は平易、実践者の事例やインタビューなども多く読みやすい。本文で290ページ弱とそこそこのボリュームだが、読むのが速い人でまとまった時間をとれれば、すぐに読み終えることができると思う。

本を読むのは億劫だけど、もう少し詳しく知りたいというひとは、ひとまず次のサイトを見に行けば十分かもしれない。

YouTubeでも検索するとご本人による説明も視聴できる。


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