文章の人格

久しぶりに文章を読みながら「うるせぇよ」と言いたくなる文章に出会った。

「20歳からの文章塾」

内容は文章を書くことに慣れていない人へ、文章を書ける人にするための考え方や問題点を提示してくれる本だ。就活生や社会人1~3年目の、文章を書き始めて躓いた人にはもってこい、である。

しかし作者の癖が強かった。命令形でタイトルを書いていると思えば、ちょっと後輩に向けて先輩風を吹かせてくる本文。「ま、~ですね」とか「僕だったらできるけど君たちにはできないよね、だってしたことないもんね、仕方ない」みたいな感じで綴られる内容たち。

この文を書いた人は頭はいいだろう、努力も怠ってこなかっただろうなと思う。なぜかと言うと、読みやすい。イラッとさせながらも、問題点を出して、答えではなく正解に導くための様々な考え方を書いてくれている。スキル集というよりマインドを高める、という趣旨なだけあって、考えるきっかけをくれる内容が多い。退屈な文章ではない。気づきが多い本は読むのが楽しい。

しかし、終始上から目線で書かれている。

「ええんやけど、素でやってるんやろな……」と思える文章である。
伝えるべきことをわかりやすく伝えてくれている。ただ悪い例に挙げる内容が、毎回読者を小ばかにしているような雰囲気だ。それでいて悪気が感じられない。

どうしてそんな言い方になってしまうのだろう。学生時代バイト中に、後輩に普通に教えているつもりで、傍から見るとめちゃくちゃ上から目線で話してしまっている京大生の同期がいた。そんな人を思い出してしまう語り口調である。

たとえば、

みなさんの自己PRや作文を見ていると、合格点を狙っているように映ります。60点から70点くらいのところです。学校だと、ま、がんばったね、と言われそうな。

絶対本人は言われたことないんだろうと感じ取れる、すさまじい他人事感。また、自己PR文は「自由に自分についてこうである、と宣言してよい」といった前置きを置いた後

問題は、「なぜ、そう言えるのですか」という問いに答えられるかどうか。そこが最大、かつ唯一のポイントです。

良い文章を書くために、一番最初に何を念頭に置いて内容を書く必要があるのか、教えてくれる。すごく有難い。しかしその直後

「目立つようなエピソードがありません。どうしたらいいでしょうか」。
一瞬、悲しくなります。君はこの20年あまりの人生で、なーんにもしてこなかったわけ? しかし、言葉にはせず、笑って答えます。これから、いい経験をすればいいよ、まだ間に合うよ。この手の質問は相当数あります。

筆者はどうしてその質問が来るのか、相手の心情がわかっていない。ただ考える力のない、可哀そうな学生、としか思えていない、ということが伝わってくるのだ。


質問に来る彼らは自信がないだけだ。誰しも、人それぞれ面白い経験をしているのに、人に話して伝える価値がないと思い、自信をなくしているからそのような質問が出てきてしまうのだ。
だから、個人的にはこの場合、笑ってこう答える。

「これまで、いい経験をきっとしてるはず、まだ掘り下げれば面白くなる話はきっとあるよ、自信をもって」

少々胡散臭さはあるかもしれないが、おそらく、まだこちらの方が相手の心情に寄り添い、考えるきっかけになるアドバイスだと私は思う。

たとえ開店前からパチンコ屋に並び、カチカチくんを携え、一日費やして儲けは一番いい日で2万、とかでも考え方によっては良い経験だと思うのだ。
(カチカチくんとは:スロットの台の目を数える機械。チェリー何個、鈴が何個……と数えるために使用)

考え方次第で物事の捉え方は変わる。

このパチンコ漬けの行為は儲けを出すために市場調査をおこない、数値化し、売り上げにつなげるという行為を一人でおこない実感しているとも言える。
別にインターンに行かずパチンコやスロットを打っていたからと言って、なにもしていないわけではないのだ。

それにパチンコをしたことのない人には興味のそそる話になるはずだ。
実際私はパチンコをしたことがないが上記の話を聞いて、そこまで嵌るものなのかと興味を持ち話を聞いた。今から6年くらい前にされた話を今でも覚えている。

話はかわるが、この本を執筆された方は、黒沢晃さん。東京大学国史学科卒業。博報堂入社。日経広告賞なども受賞し、博報堂クリエイターの人事、新卒・中途採用、教育も行った人である。

性格を想像し、友人に対する総評が如く書き連ねた後に、経歴を見た。やはり頭の良い人だった。そしてエリート。まったくをもって無知ゆえの怖いもの知らずで書いた。
しかし文章から人の雰囲気がわかるという体験ができたのは正直わくわくした。

そして、もし本人やこの人を慕っている人々がこの文章を見たら、かなり自分勝手にいろいろ書いているので、きっと「うるせぇよ」と言われているだろう。

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