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「ぴよログ」から学ぶコミュニケーションデザイン

こんにちは。
GMOペパボ株式会社のハンドメイドマーケットサービス「minne」でデザイナーをしております、sziaoreoです。
息子の出産を経て、最近職場復帰しました。

こちらの記事では、息子が生まれてから使ってみて「これはすごいぞ」と思った「ぴよログ」のアプリから得られたコミュニケーションデザインの学びをまとめています。




「ぴよログ」とは、赤ちゃんの生活の様子や育児日記を記録することができるアプリです。ママパパであればご存知の方も多いと思います。

そもそもなぜ記録するのか?
食事、睡眠、排泄、体温、お散歩に吐き戻しなど、それらの回数や様子がすべて赤ちゃんの健康管理の目安や成長の指標になります。そのため何時何分にミルクをあげたか、おしっこをしたかなど、赤ちゃんの生活イベントがいつどんな様子で何回あったかをすぐに確認できるようにしておく必要があるのです。

それではここからぴよログから学んだことを4つのポイントに分けて紹介していきたいと思います。

1. ユーザーの多様性に寄り添う

ボタンのカスタム

ピヨログでは赤ちゃんの生活を記録するボタンの順番と表示/非表示のカスタムが可能です。
どのボタンをよく使うかは赤ちゃんの個性・成長によって異なるので、このカスタムによって多様な育児に対応できるようになっています。

例えば我が家の場合、母乳&粉ミルク→粉ミルクに移行してからは「母乳」「搾母乳」のボタンは非表示に。また生後半年までうんちは4-5日に1回だったので「おしっこ&うんち」の機能ボタンは順番を後ろに下げたり(おしっことうんちがセットでリリースされることが少ないので)、離乳食が始まってからは「離乳食」ボタンを前に持ってくるなどしていました。

機能のカスタム

ボタンのカスタムに似ますが、設定で一部の使わない機能を引っ込めることもできます。
例えば授乳タイマー(母乳で授乳する際に何分間飲ませたかを図るタイマー)は、ミルク授乳で使わない場合は非表示にするなど。

「表示はそのままで、授乳タイマー使わない人は使わないでいいんじゃないの?」と思われがちですが、「授乳タイマーを非表示にできる」ということは、成長に合わせたカスタムであるだけでなく、「粉ミルクのみの育児も想定している」ということでもあります。

特に「母乳か粉ミルクか」問題はセンシティブで、悩むお母さんも多いようです。(「母乳をあげたいけど出ない」「粉ミルクを選びたいけど周囲からの母乳育児の圧が強い」など)
記録ボタンのカスタムに加え、この授乳タイマー機能を表示するか否かの選択の提供は「母乳育児だけを前提にしていない」という点で、粉ミルク育児派のお母さん達に心理的安全性を与えていると感じました。

その他のカスタム

他にもテーマカラーやアイコンを自分好みのデザインにしたり、兄弟ごとに設定を変えて誤入力を防ぐことができます。
また数値記録の入力形式、記録まとめの表示など、かなり細かく設定でカスタマイズできます。

需要に合った選択肢を用意することで、ユーザーに心地よい居場所を提供することができますが、小さな画面の中ではどうしても限りがあります。
しかしカスタムを充実させることで利便性・効率性を向上させるだけでなく、方法によっては画面の情報量を増やさずにより多くのユーザーにフィットする居場所を用意することができます。
その結果、ぴよログの場合はそれぞれの育児のあり方を肯定するコミュニケーションができていると感じました。

2. ユーザーの行動を鈍化させない

広告コンテンツの適切な配置

育児中はとにかくさまざまな作業が連続します。「片手でミルクをあげながら片手で記録を入力」のような状態で、広告動画が流れ終わるのを都度待つような余裕はなかなか生まれません。
ぴよログでは広告は記録リストの下部にバナーで表示されます。視認はされますが操作の邪魔にはならず、程よい存在感になっています。
このように広告の設置はその場所やタイミング次第でユーザーのストレスを大きく軽減できるポイントになると感じました。

エラー表示の適切な温度感

睡眠は「寝る」→「起きる」の順番で記録をつけると、その期間を自動で計算して睡眠時間を表示する仕組みです。
一般的には「寝る」や「起きる」が連続して重複すると、「『寝る』記録が連続しています」などのアラートが出たり、注意書きを表示して入力できない場合が多いですね。しかしぴよログの場合は一旦そのまま入力を受け入れ、記録リストで(!)を出して重複を教えてくれるようになっています。

ぴよログを使っている時=育児中はてんてこまいで操作していることが多いので、「エラーで入力を弾かれる」ということ自体をとてもストレスに感じてしまいがちです。「あとで直しとくよ!」「今止めるほど重要じゃないでしょ!」という気持ちになってしまう。
なので入力したその場で「間違ってますよ〜!」とお知らせを出されるより、余裕を持って記録を見返している時に「ここ重複してますよ」とさりげなく教えてくれる温度感がとてもありがたく感じます。

逆に全記録データの削除ボタンに関しては5回タップの上でアラートでの確認を取るなど、かなり慎重なステップを踏ませています。
大量のデータ保存・削除など、ユーザーにとって重要であると判断したものに関しては強い温度感でのアラートやエラー表示が不可欠な時もありますが、そうでないものはユーザーの行動を必要以上に止めてしまう場合があります。

ユーザーの行動を鈍化させないためには、情報を提供する際のタイミングや温度感を内容に合わせて適切にコントロールすること、それを視覚的に表現することが大切だと感じました。
それには「アプリのユーザーとして」だけではなく、「子を育てる親として」という考え方で「画面の向こうの人は今どういう状況にあるか」を具体的に想像することが求められます。
ぴよログの場合は「育児中」というハードな状況でアプリを使っていてもストレスを感じさせにくいコミュニケーションができています。

3. ユーザーの行動をさらに円滑にする

「育児」という作業の傾向を掴んだ記録方法

❶ 記録メモにおいてのタブ選択
記録には日時数値のほか、一緒にメモを添えることができます。一般的にはテキスト入力のみのケースが多いメモ機能ですが、ぴよログでは過去に入力したテキストがタブになり、そこから選択して入力することもできます。
育児は同じ作業の繰り返しやルーティンがとにかく多いため、メモへの同じテキストの入力も多くなります。1日3回のお食事メニュー、ほぼ毎日のお散歩で行った場所、朝晩のお薬の内容など、ある程度の選択肢の中から繰り返し入力する際に、タブ選択は手間が省けてとても便利です。

❷ 画像での記録
全ての記録に対して一緒に写真を登録できるようになっています。
「食事やお散歩の写真はまだしも排泄の写真まで?」と思われるかもしれませんが、赤ちゃんの健康を把握する上では吐き戻したものやうんちの色も重要な判断材料になります。(実際に母子手帳にはうんちカラーチャートのページがあります)そのため育児においては画像で記録するという作業も重要な位置付けに当たります。

❸ アレクサやアップルウォッチとの連携
アレクサとアプリを連携することで音声で記録をしたり、アップルウォッチで授乳時間のお知らせを受け取ったりなどができるようになります。育児中は常に赤ちゃんを抱えて手が塞がっていることが多いので、音声入力に対する需要が高いためと考えられます。

このようにアプリで扱うテーマや目的の周辺で起きる作業の傾向を捉えられていることが、よりユーザーに寄り添った機能の開発を可能にしているのではないでしょうか。

効率的な判断や行動を促す情報の表示

❶ 離乳食の食材リスト
メニューから食材リストを選択すると、どの食材をどの月齢で食べさせて大丈夫かなどを一覧で表示してくれます。離乳食スケジュールの組み立てやアレルギーの確認などに役立ちます。

❷ 「ぴよログ 予防接種」と自動で連携
ぴよログの予防接種管理アプリを入れることで自動で連携し、予防接種がどこまで済んでいるのか、済んでいない場合はどのタイミングで受けるべきなどを一覧で教えてくれます。

❸ 発熱の記録に対するお知らせ
生後3ヶ月未満で38℃以上の熱の記録を入れると、医療機関の受診を勧めるテキストが表示されます。
また「なぜこれを表示しているのか」という基準も一緒に提示することでユーザーに余計な疑問や不安を与えないようになっています。

❹ 前回の記録がどれくらい前だったかの表示
これはとても細やかなポイントですが、「何時何分にミルク」という記録に「それは何時間何分前だった」という情報が表示されます。
育児中は「今の月齢では授乳間隔は何時間」「午前のお昼寝の目安は何十分」という考え方をするので、今の時間と前回時間を都度引き算するよりも「前回から何時間経ってるよ」と教えてくれるのがとても助かるのです。

上記のようにユーザーの目的達成に向けた判断や行動を効率化する情報を提供できていることも体験の向上につながっていると感じます。

ユーザーの行動を加速させるためには、機能やUIの改善はもちろん、ユーザーが迅速に判断できるようにすることが大切です。そしてユーザーが迅速に判断するためには不安や迷いを払拭するための情報が必要です。
ぴよログの場合、育児の現実的な流れを掴んだ機能やUIに加えて、目的に向かって今の状況や次の動きを判断できる情報を充実させることでユーザーの行動を加速するコミュニケーションができています。

4. ユーザーの中に価値変換を起こす

「記録」を「思い出」にする

個人的に一番感動したのは、記録を1年ごとに1冊の本に製本することができることです。ただアプリの中に残しておくだけではなく、アナログ化できるというところに「いつか成長した子供とこの記録を一緒に眺めたい」と親心がくすぐられますね。
このサービスの提案によって、「育児の記録」として積み重ねてきたものが「かけがえのない思い出」になるという大きな「価値変換」が起こります。そしてこの「価値変換」こそがコミュニケーションデザインの一番の醍醐味であり、腕の見せどころです。

そこに価値を見出すからこそ人はモチベーションを保ち行動できます。
ぴよログの場合、育児記録というユーザーの機能的なニーズを満たすだけでなく新しい価値を提案し、価値の変換を起こすコミュニケーションを用意できているところにとても学びがありました。

5. おまけ

授乳時間のお知らせ音

ぴよログでは設定した授乳時間のアラーム音に「ピヨピヨ」というひよこの鳴き声が設定されています。
最初は「まぁ『ぴよ』ログだしな」と思っていたのですが、よくよく考えるとサービス名にリンクしていることのほかに、聞いた時の音としてのストレスがとても少ないこと、ひよこの鳴き声が「子が何かを求めている」というイメージを想起させることなどから「めちゃくちゃ良い音選び…!」と、ここにも小さく感動しました。


学びまとめ

  1. 選択肢を用意することは、その選択を肯定すること。
    カスタムの充実性は利便性・効率性を向上させるだけでなく、方法次第で画面の情報量を増やさずにユーザーの多様性に寄り添うことができる。

  2. 「画面の向こうの人は今どういう状況にあるか」を具体的に想像する。
    情報を提供するタイミングや温度感を適切にコントロールしたり、それを視覚的に表現できれば、ユーザーの行動の鈍化を防げる。

  3. ユーザーが判断するためには不安や迷いを払拭するための情報が必要。
    目的に向かう行動や作業の傾向を掴み、今の状況や次の動きを判断できる情報を充実させることでユーザーの行動を加速できる。

  4. そこに価値を感じてこそ人はモチベーションを保って動ける。
    ユーザーの機能的なニーズを満たすだけでなく、新しい価値を提案、または価値の変換を起こすコミュニケーションを用意する。

おわりに

ぴよログの開発者の方にインタビューしたわけではないので、私が学んだ内容が意図的なものかはわかりません。しかし「育児の周辺で起きる作業の内容や流れ、そこから生まれるニーズををよく調査している」ということを強く感じました。

よく「ユーザー目線で」という言葉を耳にしますが、ユーザーはいつもその目線や意識を100%アプリに向けているわけではありません。
その前後にはやりたいこと、やらねばいけないことが山積みになっていて、生活のうちのほんの少しの時間を割いてアプリを使っていることがほとんどです。
つまり大体の場合、ユーザーには別の大きな目的があって、アプリを使うこと自体が目的ではありません。アプリは目的に向けた数あるタッチポイントのうちの一つでしかないのです。

今回の学びを経て「使いやすいアプリを作る」という考え方ももちろん大切ですが、「ユーザーの目的を達成するためにアプリというタッチポイントでは何ができるか」というもう一段階俯瞰した視点を忘れずにコミュニケーションデザインを考えていきたいと思いました。

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