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脳卒中と自動車運転 

自動車運転は非常に身近なことです。
しかし、脳卒中などで脳が障害されるとさまざまな点で運転に影響が出てきたり、運転が困難になったりします。
脳卒中後における自動車運転再開、について話を進めていきますが、その前に基本的な部分をこの記事でお話しできたらと思っています。

脳卒中とは

脳卒中は、脳の血管が詰まるか破れることで脳組織に血流が行かなくなり、神経細胞が死ぬことにより生じます。具体的な病名としては、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が該当します。障害部位により多彩な症状を呈します。主に以下の部位が障害される可能性があります。

  • 大脳: 言語、思考、運動機能、感覚機能が影響を受ける。

  • 小脳: バランスと運動の調整に関わる。影響を受けると、アタクシア(運動失調)が生じる。

  • 脳幹: 呼吸や心拍数の調整に関わる。重要な機能が集まっており、障害が生じると生命に関わることがある。

脳血管障害の症状は、障害部位によって異なります。

  • 麻痺: 特定の体の部分が動かなくなる。

  • 言語障害: 話す、理解する能力が損なわれる。

  • 視覚障害: 視野欠損や二重視が生じる。

  • 記憶障害: 短期、長期の記憶に影響が出る。

  • 平衡感覚の障害: 立つ、歩く際にバランスを取るのが困難になる。

身体機能障害について


みること、体を動かすことなど体を実際に動かすことや知覚機能に関係する症状です。

視野欠損


脳血管疾患で多い視野欠損は脳の後ろ側の障害による同名半盲(同じ側の視野が見えなくなってしまっている状態)です。法的には視力が 0.7 以上あれば運転の許可は得られますが、同名半盲がある場合、運転への危険性から許可を出していない報告が多いです。
加えて、高齢者では緑内障による視野欠損も併存しうるため、視野検査(対座法)を実施し問題がある場合は、眼科受診を勧めています。

四肢の麻痺について

脳卒中の後遺症で最も一般的な症状です。体の運動機能を支配する脳の領域が障害を受けることによって腕や脚などが動かしにくくなります。
道路交通法の規定では、腰をかけることができ四肢を全廃していなければ運転補助装置などにより運転再開の可能性があります。
重度な右片麻痺の場合は左上肢でステアリンググリップを使用し,左側アクセルペダルの増設を行うことで、左下肢でペダル操作を行うことで運転可能となります。
両下肢ともにペダル操作が困難な時も、両上肢の操作性がよければ、手動運転装置の使用で運転可能と可能性はあります。
運動麻痺だけでなく感覚障害の把握は重要であり、医療機関での評価や判断が重要です。なぜなら、公安委員会や教習所では感覚障害の影響を適切に判断するのは困難であることが予想されるからです。具体的には位置覚の低下により、ペダルを踏み外す危険性、エンジンブレーキ操作等の困難さなどです。運転シミュレーターでハンドル操作、ペダルの踏み外し、過度の視覚代償などは確認可能であり、評価してくべき項目です。

高次脳機能障害


高次脳機能障害は、脳の特定の部位が損傷したときに生じる、言語、認識、計画などの複雑な認知機能の障害を指します。具体的な障害部位とそれに伴う症状について詳しく説明していきます。

注意障害

注意障害は、日常のタスクを遂行する上で、一貫した集中力を維持する能力が低下する状態を指します。注意は「持続・選択的注意」、「転換の注意」、そして「配分の注意」の3つの主要な側面に分類されることが多いようです。
持続・選択的注意とは、長期間、特定のタスクに対して注意を向け続ける能力です。また、不要な情報や刺激を排除して、特定の情報のみに焦点を合わせる能力も含まれます。
転換の注意とはあるタスクや情報から別のタスクや情報へと注意を切り替える能力です。
配分の注意とは2つ以上のタスクを同時に行う際に、それぞれのタスクに適切な注意を配分する能力です。

注意障害があると交差点での反応の遅れや見落とし,突発的な事象(急な割込みや飛び出し) への対応の遅れ・混乱、信号や標識の見落としなどを生じる可能性があります。
具体的な架空の事例としては下記のようなものが考えられます。Aさんは、脳梗塞後で、注意障害を持っており、運転中にしばしば気が散ってしまうことがありました。ある日、彼は高速道路を運転中に携帯電話の操作に夢中になり、前方の車両との距離を取るのを忘れてしまいました。この結果、前方の車両が急ブレーキをかけた際に追突事故を起こしてしまいました。


街並失認

知っているはずの街並(建物・風景)を見ても、何の建物か、どこの風景かわからない状況になる症状を言います。これらの症状から道をたどるうえで街並が目標にならないため道に迷います。街並失認の病巣は、海馬傍回後部、舌状回前半部とこれらに隣接する紡錘状回と言われており、病因は右後大脳動脈領域の脳梗塞が多いです。
街並失認を持つ人が自動車を運転する際、以下のような問題やリスクが考えられます。 迷子になる: 以前に訪れたことのある場所でもそれを認識できないため、迷子になるリスクが増大します。 過度な依存: GPSやナビゲーションシステムに過度に依存することが考えられます。 運転中の不安やストレス: 知っているはずの場所を認識できないことによる不安やストレスが運転の安全性を低下させる可能性があります。
具体的事例な架空の事例としては以下が考えられます。Aさんは、事故の影響で軽度の脳損傷を経験した後、自宅の近所でさえも道に迷うようになりました。特に、彼の家から数ブロック離れたスーパーマーケットへの道順を何度も忘れ、毎回GPSを頼りにしていました。これにより、Aさんは運転することが非常にストレスフルに感じられるようになり、最終的には自動車の運転を避けるようになりました。


道順障害

一度に見通せない広い範囲(地域)内において、自己や他の地点の空間的位置を定位することが困難な症状を言います。このことから、目の前の建物を基準とした時に自分の位置・自分の向いている方角、離れた目的地への方角や距離がわからず道に迷ってしまいます。脳梁膨大後域から頭頂葉内側部にかけての病変で生じると言われており、病変側は右側が多いが、左側病変例の場合もある。左側の同部位は、エピソード記憶の障害を中心とする、いわゆる見坊症候群の病巣として知られている。一側病変例では症状の持続は短く、数か月以内に改善する例が多い一方で、両側病変では持続性の症状をきたすことが多いです。病院としては上記部位の脳出血が多いです。
道順障害における自動車運転のリスクや具体的事例は街並失認と同じようなものです


言語記憶障害

言葉や文を理解したり、それらを生成・再生する能力に関連する記憶の障害を指します。言語の記憶や処理の問題は、左半球の損傷によってもたらされることが多いです。
言語記憶障害を持つ人が自動車を運転する場合、指示の理解困難がまず考えられます。言語記憶障害は、GPSやナビゲーションシステムの音声指示を理解するのが難しくなる可能性があります。これにより、方向を誤ったり、不要な運転操作を行うリスクが増加します。加えて、対話に関連する問題により、他の運転者や歩行者とのコミュニケーションが難しくなる可能性があります。これにより、緊急時の適切な対応が困難になることが考えられます。重度な場合、交通標識に記載されている文字や数字の理解ができない場合も起こり得ます。この場合は運転自体が困難です。
具体的事例な架空の事例としては以下が考えられます。Aさんは、脳損傷後に言語記憶障害を持つようになりました。ある日、彼は自動車を運転中、ナビゲーションシステムの指示を誤解し、予期しないルートを取ってしまいました。また、交差点で他の運転者からの手信号に基づく指示を誤解し、近くで小さな事故を起こしかけました。


半側空間無視

反対側(通常は左側)の空間の存在を認識しづらくなります。主に脳の右半球が損傷を受けたときに現れる神経学的症状です。空間無視を持つ人が自動車を運転する場合、以下のような問題が考えられます。視野の欠落により、患者は反対側(通常は左側)の視野の物体や情報を認識しづらくなるため、交通事故のリスクが高まります。加えて、方向感覚の喪失によって、道路上の標識やランドマークを正しく認識できないため、道路を間違えるリスクがあります。また。駐車の困難が生じることで、駐車時の空間的な判断が難しくなるため、障害物にぶつかる可能性があります。
具体的事例な架空の事例としては以下が考えられます。50代の男性が脳卒中を経験した後、空間無視の症状を示すようになりました。彼は、自動車を運転しているときに、特に左側の視野の物体や車、歩行者を認識するのが難しくなったと報告しました。ある日、彼は左側から接近する自転車を見落とし、接触事故を起こしてしまいました。この事故をきっかけに、彼は医師や家族の勧めに従い、運転を中止する決断を下しました。


遂行機能障害

遂行機能は、計画、開始、続行、そしてタスクの終了までの一連の行動を組織・調整する能力を指します。遂行機能障害は、これらの能力が損なわれた状態を指し、特に前頭葉に関連する障害として知られています。自動車運転は、高度な遂行機能を要するタスクであり、適切な反応のためには予測、計画、複数の情報を同時に処理する能力が必要です。遂行機能障害がある場合、以下のような問題が運転中に生じる可能性があります。反応の遅れ: 交通の流れや信号、他のドライバーの動きに適切に反応できなくなります。計画の困難: 適切なルートを計画したり、複雑な交通状況を予測するのが難しいことが増えます。多重タスクの困難: ナビゲーションや音楽の操作、運転と同時にのコミュニケーションなど、複数のことを同時にこなすのが困難です。
具体的事例な架空の事例としては以下が考えられます。60代の男性が遂行機能障害を患っていました。彼は過去に交通事故を何度か経験しており、その原因として彼の遂行機能障害が関連していると考えられました。彼は特に交差点での適切な判断が困難で、他の車との距離や速度の判断ができないために衝突事故を繰り返していました。

まとめ

脳卒中後における自動車運転再開、について話を進めていきました。この後、その後のことをさらにお話し進めたらと思います。

参考文献
病気が見える
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