狩猟のためのナイフ考 PART1
狩猟に必要なナイフとは
ハンターにとって、ナイフは最も大切な道具である。ナイフがなければ、獲物を手にしてもその肉を糧にすることはできない。
狩猟の場合、土地やハンターによって狙う獲物やスタイルが異なるため、ナイフに求められる要素も千差万別だ。例えば、北海道でエゾシカの流し猟をするなら、ある程度大型で重いナイフでも問題ないだろう。クルマでの移動であれば、ナイフはトランクやバッグに入れておけばよく、常に身に着けておく必要がないからだ。
一方、本州の険しい山で巻き猟をするなら、なるべく小型で軽量なナイフがのぞましい。ナイフに限らず、山歩きの装備は軽いに越したことはなく、あまりヘビーデューティーな物は避けたいところだ。 また、罠にかかった獲物を止め刺しするには、頑丈で長いナイフが必要になる。ナイフというより槍に近い物が理想であり、アウトドアで使う刃物としては最も特殊なジャンルかもしれない。
反対に、鳥猟の場合は対象となる獲物が小さいため、ナイフがあまり大げさでは困ってしまう。手のひらサイズでガットフック(腸抜き)が付いた、バードナイフのようなタイプが重宝する。
ハンティングナイフを選ぶうえで重要なのは、もちろんサイズや重さだけではない。いうまでもなく、切れ味についても吟味するべきだが、これもハン
ターの考え方によって理想型は変わってくる。単純によく切れることだけを優先させれば、高炭素鋼のナイフが最高だろう。高炭素鋼は研ぎやすいため、使用中に切れ味が落ちた場合でも、小型の砥石などがあればその場でタッチアップできる。だが、錆びやすいという特徴もあり、こまめなメンテナンスが必要だ。
反対にステンレス鋼は錆に強いが、素材に粘りがあるため、切れ味と研ぎやすさの点で多少の妥協は必要かもしれない。
価格の点でも、数千円の普及品から数十万円のカスタムナイフまでピンキリだが、刃物は値段が高ければよいという物ではない。たしかに高級品は耐久性が高く、一生モノにはなるはずだが、万が一、猟場で落としてしまったら目も当てられない。ならばナイフは消耗品と割り切って、安い物を使い潰す、というスタイルも間違いではないのだ。
この企画では、できる限り多くのナイフを集めてみた。それぞれのタイプに一長一短があり、結局のところ、究極のハンティングナイフなど存在しないというのがおわかりいただけると思う。まずは各自のスタイルに合った、理想のナイフを見つけてほしい。
※当記事は『狩猟生活』2017VOL.1「狩猟のためのナイフ考」の一部内容を修正・加筆して転載しています。
Profile
こぼり・だいすけ
27歳で散弾銃を所持し、その後、狩猟免許を取得。 第一種銃猟・わな猟・網猟と3種の狩猟免許を持つ。これまでに扱ったナイフは200本以上、所持した銃の合計は30丁と、豊富な知識と経験を活かし2013年からライターとして活動を開始。国内ではほぼ唯一の狩猟・銃・ナイフの専門ライターとして、狩猟専門誌などで執筆を続けている。現在、一般社団法人栃木県猟友会の事務局長を務める。趣味はオートバイ。共著に『狩猟用語事典』(山と溪谷社)がある