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趣味のデータ分析079_弱男 vs 弱女⑪_弱者生息マップb

弱者男女についてこれまで所得や年齢別に、弱者男女間での格差がなくなってきていることなど、色々と分析してきた。そして前回は、弱者男女の地理的分布の状況について、前処理を行ってみた。そこでは、未婚率や未婚者の平均年齢について、西低東高が発生していることが確認できた。その絶対差はともかく、地理的な何らかの分布の傾向があることが窺われる。また平均所得については、東京は圧倒的で、都市地方というより、東京対その他、という感じだった。
今回は、これらの前処理を前提に、実際の弱者男女の分布状況を確認することとしたい。

<概要>
・弱者男性の所得は、都市部で比較的低いように見え、女性の場合は高い。
・弱者男女の未婚者のうちの構成比は、男女ともに都市部で低い
・弱者男女の所得中央値格差は、都市部で小さくなっている(というか逆転している)
・都会の弱者は670万人、地方は501万人で、都会のほうが弱者は多い。
・都市部の男性弱者は、都市部の未婚男性全体だけでなく、(一部)地方男性弱者や、都会の女性弱者より所得中央値が低い。

貧しい奴らのいるところ

全体的な所得中央値の分布

前回で所得の地理的分布等もざっくり分析しているので、早速都道府県別の所得中央値の分布を見てみよう。合わせて、全体の所得中央値(328万円)以下の各都道府県人口に占める割合も提示している。
ざっくり見ると、所得中央値は東京が圧倒的、その近辺も高く、ついで愛知、兵庫、広島等の都市圏が高い…が、福岡や北海道、宮城等、他の都市圏では(周辺よりはマシだが)そこまで高くない。そもそも東京圏が全体の所得中央値を引き上げまくっている。全体中央値より所得中央値のほうが高い都道府県は、2022年では、東京、埼玉、神奈川、千葉、愛知、兵庫の6都県のみで、「所得中央値以下の所得の人」が50%未満であるのも(当然だが)この6都県のみだ。「所得中央値」を弱者(のいち要素)とみなすこと自体、地理的分布からは結構ナンセンスかもしれない。

図1:都道府県別所得中央値及び全国中央値以下所得の人口構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

所得中央値を地図で見ると、図2のようになる。都市部周辺が若干「にじむ」以外は、地理的分布の特徴は見られない。

図2:各都道府県の所得中央値
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

またこの構造は、未婚者で絞った場合でも概ね変わらない(図3)。

図3:都道府県別所得中央値及び全国中央値以下所得の人口構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

未婚低所得男女の状況

それでは、本番の未婚低所得者男女について確認してみよう。未婚者の所得中央値は、図3の通り、東京周辺と一部都市のみ高くなっているが、このうち低所得者についても、都市部のほうが相対的に高い所得中央値になっているのだろうか?
結論的には、全く異なる状況となっている。

まず男性を見ると、低所得未婚男性全体の所得中央値は212万円だが、東京、大阪が205万円と、都市部の弱者男性の所得中央値は、むしろ全体値を下回っている。逆に中央値が高いのは、栃木、香川、山口など、いわゆる地方である。ただ、京都や奈良がダントツで低く、鹿児島も低いなど、そこまで強い傾向と言えるかは微妙なところである。
もう一つ興味深いのは、「未婚男性のうち、全体中央値(328万円)以下の所得の者の構成比」(赤丸)は、必ずしも未婚低所得男性の所得中央値(青丸)の高低と比例していない、ということだ。例えば東京は、上述の通り所得中央値は205万円しかないが、構成比も39%しかない。あくまでこの構成比は、「所得328万円以下の者」の割合なので、それ以下の水準の者の所得中央値とは相関はほぼなくて当然ではある。ただ、赤点が低い=全体の所得が高いなら、「一定値以下の所得中央値」も高くなりそうな気がするが、そんなに世の中は甘くないようだ。地図でこの点を確認してみても、都市部周辺が(相対的に)構成比は小さく、分布は直感に合うが、所得中央値は直感と異なる、という状況になっている。

図4:都道府県別未婚低所得男性の所得中央値及び構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図5:未婚低所得男性の所得中央値
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図6:未婚男性のうち低所得者の構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

他方、女性についてはまた傾向が異なる。女性の方が低所得者の割合が多いことはともかく、未婚女性は概ね、都市部のほうが所得中央値が高い傾向がある。図7の地図でも、都市部が青が濃い、または「少なくとも周辺地域よりは青寄り」の分布となっている。
また構成比(赤丸)についても、なんとなく所得と反比例、つまり、「低所得者でも比較的「稼いでいる」地域は、未婚者のうち低所得者の構成比も低い」ように見える(地図で言えば、黄色と青が反転しているように見える)。

図7:都道府県別未婚低所得女性の所得中央値及び構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図8:未婚低所得女性の所得中央値
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図9:未婚女性のうち低所得者の構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

整理すると、以下のとおりとなる。
・全体の所得中央値の高低と、低所得未婚男性の所得中央値の高低に相関はほぼ見られず、むしろ都市圏のほうが低い場合も散見される。
・全体の所得中央値の高低と、低所得女性男性の所得中央値は比較的相関が見られ、都市部のほうが相対的に所得が高い。
・男性の場合、「未婚者のうち低所得者の割合」は、所得の地理的分布とほぼ無関係だが、女性は若干の反比例関係が窺われる。

弱者男女格差の地理的分布

前半では、男女弱者で、所得中央値に係る分布や構成比に差異が見られた。この謎は一旦おいておいて、弱者男女間格差に目を向けよう。

先述の通り、弱者男女の分布については、男女で表れ方が異なる。よって、弱者男女格差の表れについても、結構不思議な感じになっている。まず所得中央値については、図10の通りになっている。なんと、東京、神奈川、大阪、京都、奈良、福岡の5都府県では、弱者女性の中央値のほうが、弱者男性より高い。男性より女性の方が稼いでいるのだ。都市部では男女格差が小さく、地方では格差が大きい傾向があるといえる。

図10:弱者男女の所得中央値と差分
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図11:未婚低所得男女の所得中央値差分
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

構成比の男女差はどうなっているだろうか。所得差分に関しては一部逆転が見られる一方、構成比差分については女性の方が全都道府県で高い。また、構成比の男女差分について、都市地方の差異はなさそうだ。
また、比較的東日本のほうが、西日本より所得中央値の差分が大きいように感じる。この西低東高構造自体は、前回見た平均所得と同じだが、具体的な都道府県とはまた異なっている点には留意が必要だろう。

図12:弱者男女の未婚中構成比と差分
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図13:未婚得男女の低所得者構成比の差分
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

まとめ

今回は、弱者=未婚低所得男女の、都道府県別所得中央値と構成比を分析した。弱者に注目する限り、いくつかの点で「都市と地方での違い」と指摘ができることがわかった。
・弱者男性の所得は、都市部で比較的低いように見える
・弱者男性の未婚男性のうちの構成比は、都市部で低い
・弱者女性の所得は、都市部で比較的高い
・弱者女性の未婚女性のうちの構成比は、都市部で低い
・弱者男女の所得中央値格差は、都市部で小さくなっている(というか逆転している)

前回確認したとおり、未婚率や未婚男女の所得平均値等では、都市と地方の違いはあまり明瞭でなかった(特に所得は、東京が圧倒的すぎた、という問題もある)し、それより西低東高の諸構造のほうが目立っていた。その意味で、弱者男女の構造は、都市地方での区分が比較的有効なようだ。

ただ、弱者男性の所得中央値が、地方より都市のほうが低く、しかも男女で逆転しているというのは謎である。
しかしこの謎は、所得別分布を見れば解決できた。図14~15は、東京と愛知という都市部と、宮崎、鹿児島、沖縄という地方部での、男女の所得分布である。都市部の男性は、所得分布の山が300~399万円――全体中央値(328万円)と同じかより高いところにあり、それ以前の分布は、階級ごとの差が小さい。つまり、都市部男性は、200~250万円水準の構成比が、それ以下とあまり違わない。他方、地方部の男性や女性は、250万円のところに山があり、結果、「328万円以下の中央値」が高く現れているのだ。弱者男性の所得中央値が、地方より都市のほうが低くなっているのは、むしろ全体の中央値が高いことからの逆説的現象だった。

図14:都道府県別未婚低所得男性の所得階層別構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)
図15:都道府県別未婚低所得男性の所得階層別構成比
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

ただこれは、更に興味深い現象を引き起こしている。先程、構成比については、基本的に男女ともに、都市のほうが地方より低いと述べた。しかし、人口の絶対数は地方より都市部のほうが多い。そのため、弱者男女の絶対数は、図16のとおり、圧倒的に都市部に偏っている。北海道、宮城、東京、埼玉、神奈川、新潟、愛知、大阪、広島、福岡の10都道府県を「都会」とした場合(この組分けに深い根拠はない)、都会の弱者は676万人、それ以外の地域では501万人の弱者がいる。都会のほうが弱者は多い。
都市部の、少数派ともいえる弱者男性は、しかし数としては多くを占め、しかも彼らの所得は、未婚男性内だけでなく、他地方の弱者男性や、弱者女性と比してすら低い場合もある。

図16:弱者男女の絶対数
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

以上は、あくまで統計量としての分析であり、一人ひとりの文脈を一切無視した物言いであり、個人のフラストレーションとは何も関係ないだろう。ただ、これまで性別での弱者の性質は近づいていると分析し、この傾向は年齢別でも変わりないと分析し、以て弱者男女の連帯の可能性を示してきたが、今回の都市と地方の分析で初めて、弱者間の分断というか、都市部弱者男性の「追い詰められている感」が、データ上にも出てきたように感じる。
もちろん弱者女性の方が数も多いし、彼女らの所得中央値の高さは、統計上の綾的な部分も多いのだが、都市部弱者男性が、諸々の比較対象の多くに所得の面で劣っているという事実は、彼らの悲哀と苦悩、そして苛立ちが存在するように感じる。

補足、データの作り方

出所は就業構造基本調査から。

文脈的に本文には入れなかったが、各指標間の相関係数は下記の通り。注目すべきは、未婚男性の所得中央値が、他の指標と総じてほぼ相関していない、ということだ。上記の通り、弱者男性の所得中央値は、328万円での切断での歪みが大きく、相関等も表れにくいのだろう。また、弱者所得の中央値の男女差分は、これまた男性の切断歪み問題もあるのだろうが、男女双方から影響を与えていることが窺われる。

図17:都道府県別の未婚男女の所得中央値等の相関
(2022年、所得データあり有業15~64歳)
(出所:就業構造基本調査)

最後に、今回のデータで無視しているのは、学生のデータである。都市部と地方部での大きな差異のひとつが、都市部では未婚男女の大学生が多く集まり、結果として学生アルバイトの密度に大きな差が出る。ただ当然学生バイトの所得は低いため、結果都市部は、比較的低所得(低所得の中でも低所得)の方に山ができがち、と考えられるのだ。
図14~15で見られる、50~99万円の小さい山は、この学生バイトである可能性がある。
ただ学生バイトの影響は、男女で差はないと考えられる一方、実際所得の分布は男女で違いがある。逆に言えば、学生バイトの都市地方差は、大宗には影響を与えていないといえる。学生データを除くデータも推計できなくはないが、歪みが増すデメリットが大きい。

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