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趣味のデータ分析030_単発小ネタ③_日銀は物価をどう見ているのか?

結構前だが、10月28日に日銀は金融政策決定会合(MPM)で、2024年までの物価見通しを公表した。

今回は、日銀がMPMで公表したデータを元に、日銀様の今後の物価見通しを深掘りしてみたいと思う。

日銀の物価予想分析・なにを予測しているのか?

日銀は、定期的に物価等の予測をしており、「展望レポート」というかたちで結果も公表されている。まあその予測に基づいて政策決定されているかは胡散臭いところもあるのだけど、その予測が結構面白いので、見てみよう。最新予測(2022年10月時点)のソースはここ。下記は抜粋。

図1:日銀の物価予想(2022年10月)
(出所:展望レポート)

日銀の予測は2022年度~2024年度の、基本は「除く生鮮食品」の物価指数を予測している(上記等で触れている「総合」は生鮮食品等も含んでいる)。〇〇年度、というのがなにを予測しているのか――年度内平均なのか、翌年3月末なのか――ハッキリしないので、まずはこれを確認しよう。
例えば2021年度、という予想は、なんと2022年4月、つまり○年度が終わって確定した段階でも(なんでか)確認できる。ここで公表されているのは当然予想値ではなく何らかの確定値なので、何と合致しているか、逆算的に調べることで、この○年度、という予測値がなにを予測しているのかも確認できる。

前置きが長くなったが、何を予測している(いた)かの数字は下記だ。

図2:展望レポートと物価上昇率実績値の比較
(出所:日銀、消費者物価指数)

青が年度末、赤が年度平均、緑がレポートでの予想値で、わかりにくいが緑と赤がほぼ重なっていることから、レポートの予想値は年度内平均であることがわかる。紫バンドは1月時点での予想レンジ。大体はあたってる。

日銀の物価予想分析・予想の成立条件

さて、展望レポートの予想について、年度内平均であることがわかった。これを前提に、直近の物価上昇率と予想を図示してみよう。

図3:展望レポートと物価指数、上昇率の推移
(出所:日銀、消費者物価指数)

左半分は2021年度で参考。右側が2022年度で、青が物価上昇率の実績値、緑が予想(上下バンド、本来は積上面グラフで表現しようと思ったが、ちょっときれいに出せなかったので緑折れ線にしている)である。オレンジの指数は、物価上昇率のもととなる物価指数である。これは後で言及する。
予想の話に戻そう。この緑自体、実は4月以降順調に上方修正されまくってており、すでに日銀先生は予想を外しまくっている状況なのだが、とりあえず4~7月は緑を下回っており、ここから今からうまく下降曲線を描けば、実際の平均値も緑に収束するかもしれない。
さて、では今後、2022年度物価上昇率の平均が緑に収束するためには、今後物価上昇率がどのようなパスを辿ればいいのか。直感的だが、以下の①~③のパスを仮定する。

①2022年10月の物価水準(指数)をピークに、そこから年度末まで緩やかに低下(月▲0.3ポイント程度)
②2022年10月の物価水準(指数)が、2023年3月まで続く
③2022年4月から10月までの物価水準(指数)の上昇トレンドが、2023年3月まで続く

では、物価指数と物価上昇率、そしてその平均が、①~③のそれぞれでどうなっているかを確認しよう。

図4:展望レポートと物価指数、上昇率シナリオの比較・2022年度
(出所:日銀、消費者物価指数)

点線が物価指数、実線が物価上昇率である。物価指数だが、現在使用しているのは2020年1年間の平均価格を100とした指数である(図3のオレンジ)。①~③のシナリオも、この物価指数の推移を基準に定めている。これを元に物価上昇率を計算し、さらに①~③それぞれの平均上昇率を推計した。
これを見ると、日銀の物価予想は要するに②「2022年10月の物価水準(指数)が、2023年3月まで続く」という予想である(緑と黒の点線が概ね重なっている)。言い換えれば、「11月以降これ以上の物価上昇は起きない/上がる一方下がる商品もある」という予想である。…正気か?12月にも来年2~3月にも値上げが予想されており、現状の値上げラッシュが簡単に収まる感じはしないんだが。。。。

円安は12月に入り少し弱まったもの(12月3日時点で1ドル134円)の、年初来20円、年度初から見てもまた10円円安である。③「2022年4月から10月までの物価水準(指数)の上昇トレンドが、2023年3月まで続く」が正しいというつもりはないが、②はちょっと楽観的すぎないか日銀先生。①は論外。

最後に、もう一歩踏み込んで、2023年度の物価予想についても検証していこう。①シナリオは流石にアレなので、②、③の2つをベースにしつつ、更に下記の2023年度シナリオを検討する。

A. 2023年3月の物価水準(指数)がその後6ヶ月続き、そこから年度末まで緩やかに低下(月▲0.3ポイント程度)
B. 2023年3月の物価水準(指数)がその後12ヶ月続く

2023年度がどうなるかはよく分からんので、一旦現状維持+低下か、通年で現状維持の二つのシナリオを考えてみた。2023年度に更に物価が上昇する、というのは際限がなくなるので一旦検討除外。シナリオは、合わせて②A、②B、③A、③Bの4種類である。ちょっと見にくいのだが、まずはシナリオごとの物価指数と物価上昇率は下記の通り。

図5:物価指数、上昇率シナリオの比較・2023年度
(出所:日銀、消費者物価指数)

紫色がシナリオ③B、2022年度末まで物価が上昇し、そこから2023年度中物価水準は貼り付いたまま、という場合、物価指数高止まりシナリオである。ただその場合でも、「物価上昇率」は緩やかに下り続ける。まあ、物価指数が上昇しているわけでもないので当然だが。
さて、ではその平均値と、展望レポートでの見通しはどうなっているのか。

図6:展望レポートと平均上昇率シナリオの比較
(出所:日銀、消費者物価指数)

図6を見ると、展望レポートと合致しているのは③A「2023年3月の物価水準がその後6ヶ月続き、そこから年度末まで緩やかに低下」のみだ。というか、展望レポートのバンドがやたら狭い気がする…
また更に興味深いのは、シナリオ②をベースにすると、物価上昇率は2023年度の日銀予想を大きく下回る、ということだ。もちろんシナリオ②は、(比較的物価が高水準である)Bシナリオであっても、2022年10月以降年度中物価水準が変わらない、という仮定であり、2023年度になってから物価指数が上昇する可能性は否定しない。ただ2022年度中にこれ以上物価が上昇しないのに、2023年度になってから物価が上昇するというのはちょっと無理筋な気がする。日銀先生、2022年度はシナリオ②なのに、2023年度はシナリオ③じゃないと…というのは、予想に矛盾があるんじゃないんですかね。
はっきり言うが、この予想の矛盾は、黒田退陣までの時間稼ぎというか、(なんでか分からんが)YCCとかの政策を変更しないための様々な言い訳の犠牲になっている感がある。それとも2023年年央にでもまた物価が上昇するようなイベントってなんかあるんだろうか?あるんならぜひMPCとかで言及して、そのような不要な物価変動が起きないよう、中央銀行としての役割を果たしてほしい。

まとめ

日銀の物価予想は、「2022年度中は、2022年10月の物価水準が年度末まで継続する」ものである一方、「2023年度中は、2022年度中物価が上昇し、2023年度後半になって緩やかに下落する」という形になっていることが判明した。どう考えても矛盾している気がするが。。。
最後にせっかくなので、2022年度の物価指数が「2022年10月を上限に年度末まで推移」である場合に、2023年度の予想と整合的な物価パスはどのようなものか、考えてみよう。
というわけで、作ってみたのが下記グラフ。

図7:展望レポートと合致する物価指数、上昇率シナリオ
(出所:日銀、消費者物価指数)

ポイントは2023年度が矛盾しないようなシナリオ…ということで設定してみたのは、「2023年4月以降、物価指数が0.15ずつ高くなる」というシナリオ。2022年度後半は物価が横ばいなのに、2023年度になってまた物価が上昇傾向になる…どういうシナリオ?真面目にMPCメンバーに聞いてほしいんだが。日銀の偉い人がどういう物価パスで現状の予想を形成しているのか、本当に分からんですよ。

補足・データの作り方等

今回は特に小賢しいことはしていない。生鮮食品除く月次物価指数をここからダウンロードして、あとは指数のシナリオ作るのと前年同月比の物価上昇率を計算するだけ。割とシンプル。

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