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趣味のデータ分析031_近くて遠い国④_なぜ2010年代に人的距離が縮まったのか?

027では、2010年代に経済距離と人的距離の双方が縮まったこと、特に人的距離については、入国者数、つまり海外から日本に来た人が増加したことによる寄与が大きいことがわかった(図1)。

図1:日本から見た人的距離の2010~2019年の変化の要因分解
(出所:出入国管理統計、JNTO、IMF

今回は、どういった人たちが2010年代に日本にやってきたのか、というところを確認していく。

在留資格別訪日客

法務省の出入国管理統計では、在留資格別に入国者のデータが取得できる。先ずはこれを見ていこう。2019年の、訪問外国人の絶対水準の状況は図2(資格定義の詳細は補足にて)。

図2:国別滞在資格別入国者数・2019年
(出所:出入国統計)

大宗は短期滞在、つまり観光客である。中韓台米タイの順。欧米だとオーストラリアが多いか。やっぱり物理的距離の関係は大きい。また以前確認したとおり、BRICsの中国以外の少なさは著しい。ただ、観光客の割合が大きすぎて、それ以外の訪問客の状況がわかりにくいので、短期滞在を除こう(図3)。

図3:国別滞在資格別入国者数(除く短期滞在)・2019年
(出所:出入国統計)

引き続き中韓がツートップ。観光客を含めると3位の台湾だが、それを除くと台湾は一気に沈む。国民の絶対数の差ではあるが、むしろ台湾からの観光客が異常に多いことを示しているといえる。一方、観光客を除くと、フィリピン、ベトナムがタイ、台湾だけでなく、米国すら押しのけて3位、4位に食い込んでいる。欧米は、オーストラリアの優位性が崩れ五十歩百歩だが、意外にブラジルが多い。
資格的には、永住、親族等、つまり血縁関係を理由に日本に来ている人が多そうで、次点がビジネス、ついで留学等だろうか。この仕切は筆者の整理なので恣意性があるけど。ちなみに永住者は元々ビジネス等できていた人も多分に含まれるので、元々来ていた理由は分からないが、いずれにせよ日本に十分な地盤を有する人である。これをベースに、今度は国ごとに資格別構成比を見てみよう(図4)。

図4:入国者の国別滞在資格別構成比(除く短期滞在)・2019年
(出所:出入国統計)

これまた国ごとにばらつきが多いが、アジア、欧米での差はあまりない感じ。アジアのほうが永住、親族が多いかなと思っていたが、そこまででもなさそう。ただ留学生はアジア系の割合が多いようだ。ここは直感に合っている。絶対数が(欧米の中では)多いブラジルは、実態としてはほぼ日系n世関係者での来日が多いようだ…というか、それ以外来てなさすぎでは?ビジネス関係ではベトナムが多い。

では本論として、図5で2010年から2019年の、在留資格別の増減率を見よう。棒グラフがかなり煩雑になるので、総数、短期滞在等は除いてグラフ化している。

図5:2010年vs2019年の、国別滞在資格別入国者数の伸び(除く短期滞在)
(出所:出入国統計)

ベトナムのビジネス増加が圧倒的すぎるが、それ以外でも東南アジアからのビジネス訪問が多い。永住者等は経済関係がどうあろうとそう簡単に増えないが、ビジネス訪問客の増加は、経済距離が縮まっていることともパラレルなのだろう。個人的には留学がもっと増加率が高いかと思っていたが、案外そうでもない。図4では、アジア系の留学者構成比がやや多いように見えるが、増加率で見れば、むしろ欧米の留学者増加率のほうが多そう。イタリアからの留学は何なんだろ?

ちなみに総数等も含めた、増加率の全体平均は図6。単純には短期滞在=観光客だが、やはりそれを除くとビジネスでの伸びが多い(異常値ともいえるベトナムを除いても傾向は変わらない)。

図6:2010年vs2019年の、滞在資格別入国者数の伸び
(出所:出入国統計)

では資格別の最後に、各国の入国者増加率に占める、資格別の寄与度を確認しよう。最初は観光客込みのグラフ(図7)。

図7:2010年vs2019年の、国別滞在資格別入国者数増加率の寄与度
(出所:出入国統計)

ベトナム(とブラジル)以外は、ほぼ観光客。例によってわかりにくいので、短期滞在を除いた増加率を計算し、その中での寄与度を図8で見てみよう。

図8:2010年vs2019年の、国別滞在資格別入国者数増加率の寄与度(除く短期滞在)
(出所:出入国統計)

図5でなんとなく見たとおり、やはりビジネスの寄与度が大きそうだ。ていうか、寄与度で見ると留学はマジで少ない、永住等以下だ。構成比は永住等に劣るものの、伸び率は負けてないのだが。観光客以外の外国人の増加は、結局大体ビジネス客で、学生さんは言うほど多くないというのが結局の実情なのだろう。

ちなみに、図9の通り資格別構成比(観光除く)の2010年と2019年の差分を取ってみると、特にアジア圏でビジネスの伸びが大きい(欧米ではまちまち)。マイナスの項目も人が減っているわけではない点は注意で、図5を見る限り欧米でもビジネス訪問者は増えてはいるが、「観光客以外の外国人の増加は、大体ビジネス客」というのは、特にアジアに該当するといえる。

図9:国別滞在資格別入国者数構成比の、2010年vs2019年の変化幅(除く短期滞在)
(出所:出入国統計)

性年齢別訪日客

当初調べたかったのはここまでだったが、データ上性年齢別のものもあったので、ついでと言っては何だが調べてみた。ちなみに在留資格×性年齢のデータは取るのが大変な上にほぼ時間軸を遡れなかった(2022年1月から)。
ではまずは図10で、2019年の状況を確認しよう。

図10:国別性年齢別入国者数・2019年
(出所:出入国統計)

年齢は実際はもっと粒度が高い(5歳刻み)が、細かすぎるので丸めている。60代以上は流石に少ないが、それ以下は比較的バランス良く(?)訪日しているようだ。図10で構成比も見てみよう。

図11:入国者の国別性年齢別構成比・2019年
(出所:出入国統計)

図4の在留資格別構成比と比べると、そこまで国ごとの違いが見られないように感じる。ベトナムは若い人が明らかに多いくらいか。若干感じられるのは、アジア系のほうが女性比率が高い(特に30~50代)が多いということだ。アジア系の(女性)配偶者が日本に多く来ているのか、ビジネスで来る女性が多いのか、背景はちょっとわからない。
というわけで、次に2010年から2019年への性別変化率を見てみよう。ちなみにシンガポールとマレーシアは、性年齢別の2010年のデータがない(2013年からしかない)ので、以降空欄である。

図12:2010年vs2019年の、国別性別入国者数増加率
(出所:出入国統計)

男女別の変化率は、やや予想外だがフィリピンなど一部を除き、総じて女性の伸びのほうが多い。これは水準間の差はあれ、アジアも欧米も変わりない傾向だ。国際結婚が増えて、外国人女性が妻として多く日本に来ている…のかと思ったが、そうでもないらしい(図12)。バブル前後以降、日本人夫×フィリピン、タイ人妻が増えていたようだが、2006年をピークに、そもそも国際結婚の絶対割合自体が減少している。

図13:国際結婚及び相手側国籍の構成割合
(出所:人口動態統計)

まあこれは日本の役所に届けた件数でしかないので、逆に日本人女性が多く国際結婚し拠点を海外に移す一方、定期的に日本に帰っているという可能性もある…が、100万単位の訪問外国人数の伸びに比すると、スケールがしょぼすぎる。観光客に女性が多いか、あるいは、単にビジネスで活躍する女性が増えた結果、変化率としては女性の変化率が大きく出ているのかもしれない。
仮説は色々できるが、一旦年齢別のグラフに移ろう。

図14:2010年vs2019年の、国別年齢別入国者数増加率
(出所:出入国統計)

棒が多くて分かりにくくなってしまったが、全体的に10代~20代と60代以上が伸び、30~50代の伸びは比較的緩やかに見える。ただこれも、30~50代の訪日が案外伸びなかったというより、30~50代は従前ビジネスや旅行で訪日していたが、若年層や高齢者でも、比較的豊かになり海外志向が高まり(特にアジア)、相対的に変化率としては大きく出た…というのが実態な気がする。ベース効果はいまいち定量的に示すのが難しいんだけどね。

では、性×年齢別の変化率はどうか。図15で見てみよう。

図15:2010年vs2019年の、国別性年齢別入国者数増加率
(出所:出入国統計)

多少丸めたものの、これまた見にくくて申し訳ない。一旦アジアの方を見ると、図11で見た通り男性訪日客のほうが多いフィリピンという例外以外、30~50代と、60代以上で、女性の変化率が男性より明らかに多い。図15では、各国各年代の年代別の男女伸び率の差を取り出してみたが、割とそこがきれいに出た(赤と緑がプラス側になっている)。

図16:2010年vs2019年の性別入国者数増加率の、国別年齢別の差
(出所:出入国統計)

もちろん若い層も増えているが、20代以下に男女差は相対的に顕著でない。図12の女性の伸び>男性の伸びの背景は、中高年女性の変化があったようだ。ビジネスなのか単なる観光なのかはよくわからないけど、実数的には観光客が大宗なのだから、多分寄与度としては観光なんだろう。欧米も、グラフではわかりにくいが、同様の背景があるように思われる。

ちなみに図9と同じく、構成比の変化幅をとる(図17)と、まあグローバルに30~50代の男性のプレゼンスの低下が著しいことよ。図11で、欧米のほうが30~50代男性が多そう、と言ったが、2010年代における減少幅は欧米のほうが大きい。つまり、欧米からの訪問客は、2010年はもっと中年男性に偏っていたらしい(水準的には、2010年は30~50%くらい)。代わりに欧米では若い人の構成比の増加が大きいのもポイントかもしれない。欧米人観光客は、若い兄ちゃん姉ちゃんが特に増加したのだろう。

図17:国別性年齢別入国者数構成比の、2010年vs2019年の変化幅
(出所:出入国統計)

まとめ

さて、今回は相当色々グラフを並べたが、2010年代での日本への訪問客は、観光客が大宗で、それ以外では、永住者の割合が大きく、伸びとしてはビジネス客が大きいこと、性別年齢別では、特にアジアでは30代以降の女性の伸びが大きく、またその他地域では若い層の訪日の伸びも結構貢献していることがわかった。女性の社会進出の進展が、訪日客数変化からも何となくうかがえる結果となった。

一方、個人的に気になっているのは、特にアジアでは相対的に若い人の伸びが弱いこと。特に東南アジアからの留学生が相対的に少ないのは、今後の人的交流の深化としては若干心細いと感じた。ビジネス深化に伴う人的交流深化は、ほぼ直接的な関係にあるのでそれでいいが、それが今後のビジネス深化をどこまで約束できるのかは、必ずしも一対一対応ではないと思う。
やっぱり若い方、特に日本で学んだ方が増えれば、その後の訪日、ひいては日本とのビジネス深化にもかなり繋がると思うんだけど、その他の地域(というか欧米)からのほうが留学生の伸びが多いというのは、アジアの今後の成長を捉えるという意味では、ちょっと不安を感じてしまった。もちろんいちゃもんレベルなんだけど。
というわけで、距離関係の話は一旦これまで。ビジネス関係の内訳について更に深掘りできるかも、と思ったけど、単に制度改正の話になりそうなので、今んとこあまり深掘りする感じじゃないかも。

補足・データの作り方等

出入国統計の滞在資格はかなり細かく取得できる上、定義も時系列で若干変化もあるのだが、
・短期滞在 → 15日と90日の短期滞在ビザの者(観光客が大宗)
・永住者等 → (特定)永住者、定住者(いわゆる「日系人」が該当することが多い)、配偶者、家族滞在(ビジネスできている人などの帯同家族)
・留学等 → 就学、留学、研修、文化活動を詰め込んだ。
・政府、報道等 → 外交、公用、教授、芸術、宗教、報道。ここはビジネスにもっと入れても良かったかもだが、いずれにせよ絶対数は少ない。
・ビジネス関係 → 基本は上記以外。特定技能研修から派遣員、駐在員まで幅広に含めた。
という感じ。家族滞在を「永住者等」に含めるのはかなり誤解もある気がしたが、この人達はビジネスをするわけでないし、誰の家族として滞在しているかも実際不明なので、永住者等に紛れ込ませている。ちなみに家族滞在は、永住者等全体の10~20%位を占める。

図9までは、ちょこちょこ「短期滞在除く」としているものがあるが、これは、図3以外は短期滞在を完全に母集団から除いて構成比、伸び率等を計算しており、単にグラフに示していない、というものではない。

最後に、人口動態統計から作った図13だが、データが1965年の次は1970年、以降毎年作成されたもので、「日本国内で届け出された婚姻」のデータである。なので、海外で結婚した日本人のデータはわからない(これはこれで頑張ればデータ作れそうで興味深い。日韓比較とかできそう)。
また妙に国籍データが少なく、基本は米中韓のみ、それ以外は1992年までは全部「その他」になっていた。その後、タイとフィリピンほか英国やブラジル、ペルーが(何故か)内訳に出てきたが、それ以外は、引き続き「それ以外」である。
…しっかし、なんつーか、バブル前夜からの日本人男性の国際結婚の増加(おそらくは東南アジア系+中国)って、パパ活やってる連中とかより遥かに「私たちは買われた」感を感じるなぁ。。。もちろん実態は様々なんだろうけど。そして2006年以降の男性の国際結婚率の急落は、そうしたバブルの残滓が、その頃(実際にはリーマンショック後?)から本格的に駆逐されたことの一つの表徴なのかも(単に、いわゆる草食化/日本人男性の国際的プレゼンス低下が加速しただけかもしれないけど)。

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