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趣味のデータ分析029_ゆとりある暮らしのために④_物価と消費は関係しているのか?

11月18日、2022年10月の消費者物価指数が公表された。前年同期比+3.6%。これは流石に結構すごいと思った。

そしてもう一つ、これはニュースになっていないが、11月8日に家計調査の最新データが公表された。というわけで、今回はこれらの更新プラスアルファの分析をしたい。

家計のゆとりは減ったのか?

では早速だが、023の図8、つまり、二人以上の勤労者世帯における、家計の実支出と、その実収入との差分である「ゆとり(黒字)」、及び(黒字対可処分所得である)黒字率並びに黒字率の変化率の最新時点を見てみよう。

図1:勤労二人以上世帯の実支出と「ゆとり」、黒字率の推移
(出所:家計調査、日銀)

黒字率(黒線)は、減少傾向にあるがプラス圏。黒字率の変化率(臙脂色)はマイナス圏で、2021年9月より黒字率は減っているのだが、まあゆとり(赤棒)が目に見えて少ない、という感じはない。021023でなんとなく見たとおり、「ゆとりは減ったがなくなってはない」という状況が引き続いているようだ。
では次に、図1を構成する実消費と実消費の変化率に、物価水準を重ねて見てみよう。

図2:勤労二人以上世帯の実支出と「ゆとり」、実消費と実収入の変化率及び物価の推移
(出所:家計調査、日銀)

棒グラフの部分は同じ。緑の実消費は、2022年初から上昇傾向で、8月は前年同期比+8.1%、9月はやや収まったものの+5.6%と、実消費額は、2022年5月辺りから消費者物価全体を超える程度の水準で伸びている。では図1で黒字率が何故持ちこたえているかというと、橙の実収入もビミョーだがプラス圏にあり、9月は+3.7%。このへんが理由になって、黒字率が維持されている感じになる。

物価と消費の微妙な関係

さて、ではそもそも、消費者物価指数と支出にはどれほど相関があるのか?以降では、消費者物価指数と、消費支出の関係を見てみよう。なお消費支出と図2の実消費の関係だが、消費支出に税金の支払いや社会保険料等を加えたのが実消費である。インフレの影響は基本的に消費支出にしか影響しないので、消費支出と消費者物価指数は、概ねパラレルになっていると予想されるが、実際はどうか。図3を見てみよう。

図3:勤労世帯の消費支出変化率と物価変化率の変化差分の推移
(出所:家計調査、日銀)

色々見せ方は悩んだが、「消費者物価指数の前年同期比 ー 消費支出の前年同期比」の3ヶ月移動平均(以降、「差分」と呼ぶ)を示すことにした。グラフ上部のほうが、消費者物価指数のほうが伸びが大きいことを示している。3ヶ月移動平均なのは、単月ベースだと毎月の変化が激しすぎるから。あと住居費も調べたが、消費支出の方のボラが激しすぎて軸が飛ぶので、こちらは割愛している。
さて、グラフの方を見てみよう。消費者物価指数の方は、冒頭で述べたとおり、総合値が+3.8%で40年ぶり、ということだが、差分は足元+4.2%で、消費者物価の伸びほど消費支出は伸びていない。食料は比較的差分が小さいが、足元では▲1.2%。食料品の消費者物価以上に、消費支出が伸びている。

とまあグダグダ書いたが、散布図で相関を見たほうがわかり易かろうので、そっちを見てみよう。図4では、図3と同じ範囲を散布図にしている。

図4:勤労世帯の消費支出変化率と物価変化率の変化散布図及び相関
(出所:家計調査、日銀)

軸が結構違うので分かりにくくなったのだが、期間中の10年超の回帰直線の決定係数だけ見てもらいたい。光熱水道費は0.5と比較的強い相関があるが、全体も食料も、相関はあまりない。家計調査は、調査家庭を3ヶ月毎に、全体の1/12を入れ替えているので、そのせいで変動が大きくなっている可能性があるのだが、それにしても相関は小さい。
ただ、こちらを時系列で見るとちょっと雰囲気が違う。36ヶ月後方移動相関係数を2013年12月から取得、つまり2011年1月から2013年12月までの相関係数に始まり、以降1ヶ月ずつ取得値を動かしてみた相関係数が図5である。

図5:勤労世帯の消費支出変化率と物価変化率の36ヶ月移動相関
(出所:家計調査、日銀)

結構相関係数のボラが大きい。全体については、2014年4月の消費増税以降、大きく相関がマイナスになり、消費税の影響が消えた2017年後半辺りから相関係数が急上昇、2019年以降コロナ禍を挟みまた減少しながら、足元また上昇している。

そもそもグラフを見て思ったが、物価上昇率と消費支出の関係は必ずしもパラレルではないな。物価が高くなれば、その分消費を減らして、結果消費支出が案外伸びないとかは容易に考えられる。vise versa。消費税増税のタイミングで相関がマイナス転換していることが典型だろう。
足元で両者の相関がプラスであることは、消費を減らすまでのタイミングのズレか、所得も増えていて実際消費を減らす必要がないか、あるいは物価変動が(光熱費等の)インフレ的支出で、裁量的消費量変更が難しいかのいずれかだろう。そして図2を見る限り、いずれなのかは判断し難い。

まとめ

家計のゆとりは1ヶ月分追加してみてみたが、021等で見たところからそこまで大きく変わっていない。黒字率の長期推移は022の図2で見たので再掲するが、そもそも黒字率自体は2013年以降急上昇、2020年以降更に切り上がっている。足元の多少の黒字率の減少は、長期的に見れば誤差でしかない。

図6:年収五分位別家計黒字率
(出所:家計調査)

また物価と消費水準の相関も見たが、そこにも思ったほど自明な相関はなかった。全体に消費税増税の歪みはあるが、光熱水道費もよくわからない動きをしているし、物価の高騰は「ゆとりがない感」には強い影響を与えている感じがある(021の図3)が、実際の消費額との相関は微妙な感じである。
少なくとも「物価が高いほど消費額も高くなってゆとりがなくなる」というほど直感的な話が通用するわけではないようだ。まあ、消費者も馬鹿ではない。何らか自衛手段を取っている人も多いのかもしれない。

資産所得倍増ネタもまた出てきたのでそっちを分析したいのだが、そもそも分析時間を取れていないし、この「生活のゆとり」や「ゆとり感」がどのような動きをしているのかも、もうちょっと分析したいなぁ。

補足・データの作り方等

まずは物価データだが、全国の指数をそのまま使っている。季節調整値や(生鮮食品除く)とかは使っていない。
家計消費のほうが悩ましいのだが、図1、2は実消費、図3~5は消費支出を取得している。これは、「黒字」が「実収入―実支出」で作られているので、前者では実収入、実支出を使いたく、一方で後者は物価水準なので消費支出と対照させたほうがより近いデータが取れると考えたため。
一点注意点だが、実消費は「二人以上世帯うち勤労世帯」、消費支出は「二人以上世帯」からデータを取っている。というのも、前者…というかメインの黒字率のデータが「勤労世帯」でないと取得できないからだ。後者は非勤労世帯も含めてデータを取れるので、よりユニバースが広いほうでデータを作っている。

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