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趣味のデータ分析082_金があれば子どもを産むか?③_金の問題じゃない(かも)

081では、夫婦の理想の子供数、予定子供数の推移についてデータを確認した。結果、以下のことがわかった。
・理想子供数はやや漸減しているが、予定子供数との差は縮小している(理想と予定が合致していっている)
・予定子供数を持てないと感じている女性の割合は不変
・理想子供数の構成比は、34歳以下は2人~3人で全期間で概ね変わらないが、35歳以上では3人から2人に減少している。
・予定子供数の構成比は、34歳以下でも35歳以上でも変わらない。

グラフとしては以下のようになっていた(図5のタイトルは修正している。理由は後述)。

図1:既婚女性の年齢別の理想子ども数等の推移
(出所:出生動向基本調査)
図2:既婚女性の理想・予定子ども数の構成比(34歳以下)
(出所:出生動向基本調査)
図3:既婚女性の理想・予定子ども数の構成比(35歳以上)
(出所:出生動向基本調査)
図4:理想の子ども数>予定の子ども数である既婚夫婦の割合
(出所:出生動向基本調査)
図5:既婚女性のうち、予定子ども数を持てない理由を回答した者の割合
(出所:出生動向基本調査)

今回は、本題である図4と図5――理想と予定の差や、予定子供数を持てない(場合の理由)の背景にどのようなものがあるのか、という点について、データを確認しよう。

<概要>
子ども数が理想>予定となっている人が、特に2000年代以降減少している。「子育て等にお金がかかりすぎるので理想の子ども数を持てない」と思っている人は10%程度。
・「子育て等にお金がかかりすぎるので理想の子ども数を持てない」と考える人は、理想の子ども数が3人以上の人が多く、子ども一人すら持てないと考える人は、身体的要因を掲げる人が多い。
・予定の子ども数を持てないと想定した場合の理由に、子育てにお金がかかりすぎることを挙げた人は、趨勢的に減少している。

理想の子供を持てない理由

まずは、理想>予定となっている背景について考えよう。グラフでいうと図4だが、まず前提として、「理想の子供数を持てない」と考えている女性の数が多いわけではない。趨勢的にも、2005年以降は明確に減少しており、2021年時点では、34歳以下で11.48%、35歳以上でも22.12%にとどまる。世の夫婦の80%程度は、「理想の子供数を持っている」あるいは「持てると思っている」のである。
これが意味するところは別途検討したいと思うが、ともあれ「理想の子供数を持てない」と感じている女性が一定数いることも事実。まずはその背景を確認しよう。図6になる。

アンケート回答的には、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という回答になる。たしかにグラフの青線のとおり、「理想>予定とした夫婦」の中では、その要因を金銭面に求める夫婦の割合が、特に34歳以下では高い(1982年以降、バブル期ですら上昇しているし、2002年以降高止まりしているが)。他方、35歳以上では、ほぼ50%を越えてはいるが、やや減少傾向にあり、2021年時点では48.6%となっている。
ただ、上述のとおり、そもそも「理想>予定とした夫婦」自体の割合が減少している(緑線)。よって、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから予定の子供数を持てない」と考える夫婦の数自体は、趨勢的に減少しているのだ(赤線)。
34歳以下でも35歳以上でも、高くて20%、足元では10%前後しかいない(2021年の34歳以下では8.9%!)。

図6:子育てにお金がかかりすぎて理想の子供数を持てないと考える既婚夫婦の割合
(出所:出生動向基本調査)

もう一つ、別の視点からこの問題を考えてみよう。理想、予定の子ども数の差は、年齢だけではなく、理想と予想の数にもよると考えられる。何故かエクセルデータが整備されていないという罠データなのだが、報告書を読めば、2005年から遡ってデータ取得可能である。というわけで、整理してみたのが図7になる。
まず青い棒グラフが、「理想>予定となっている夫婦に占める、理想・予定の組み合わせの割合」である(ここに掲載した以外の組み合わせもあるので、棒グラフの各年合計は100%にならない)。最も多いのは、「理想3人以上、予定2人以上」の組み合わせで、50%を超えている。そしてこの層では、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が、理想の子ども数を持てない理由に挙げている割合が比較的高い。
ただ、一見して分かるもう一つの特徴として、「予定の子ども数が少ないほど、「欲しいけれどもできないから」が多く、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が少なくなっている」という点がある。言い換えれば、子どもを1人もつ程度なら、金銭面は大きなハードルにはなっていない蓋然性が高い

図7:理想・予定の組み合わせ別理想の子ども数を持てない理由

予定の子どもを持てない(場合の想定される)理由

次に、予定の子どもを持てない(図5)場合の理由について、その背景を探ってい…きたいのだが、その前に、このデータの留意点について述べておく。

本来はもっと前に触れておくべきだったが、これに関する質問は、
・「予定追加子ども数が1人以上の者に対し」
・「今後持つおつもりのお子さんの数が、もし結果的に持てないことがあるとしたら、その原因は何である可能性が高いですか。」(複数回答)
という質問である。つまり、追加で子どもを持ちたいと思っている人のみに対して、ifの世界について問うている。回答の中には、「持つつもりの子ども数を実現できない可能性は低い」という選択肢もあるのだが、「いや、予定の子どもは持てますよ」という回答は、ifを問うているなら回答になっていないと思う。少なくとも、結構心臓の強い人だな、とは思う。以前も述べたが、「結婚したいと思っている人」が、実際には「「一生結婚するつもりはない」というわけではない人」であるのにも似ている(私も同様のミス?をしてしまった)。
そのうえで、図5に示したのは、総数に占める「今後持つつもりの子どもを持てない可能性がある」と回答した割合なのだが、まず総数には、「予定の子ども数を産みきった=予定追加子ども数が0人」の者を含んでいる。さらに、複数回答でもあるため、「持つつもりの子ども数を実現できない可能性は低い」という者を減算して、「既婚女性で予定子ども数を持てないと考える人」の数を計算している。なので、「予定追加数が0人の者を除いた割合」は、図5よりもずっと高く、図8のようになる。実に9割が、「子どもを持てない場合の理由」を回答してくれている。
図5では、「予定追加数が0人の者」が分母に含まれており、35歳以上の女性では当然こうした者が多いので、図5では35歳以上では「追加予定の子どもを産める」と考えている者が多いようにも錯覚してしまうが、実のところ、そういう理由ではない。単に理由を問う母集団に入っていないだけである。

正直ミスリーディングなことをしてしまったとも思うが、そもそも質問が「子どもを持てなかったら」という仮定の話なので、「予定の子ども数が持てない」と真に感じている(悩んでいる)人が9割もいる、というわけではない点には留意してほしい。そういう人もいるだろうが、実際にそういう人がどれくらい含まれているかは不明であり、あくまで「質問に順当に答えた」だけの人も多いと思われるのだ。またこの点を踏まえ、081から、図5のタイトルも修正している。

図8:既婚女性で追加予定子ども数が1人以上の者のうち、
予定子ども数を持てない理由を回答した者の割合
(出所:出生動向基本調査)

さて、前置き、というか言い訳が長くなったが、仮に予定子ども数を持てないと仮定した場合に、その理由として金銭的理由を挙げる者はどれくらいいるのだろうか?まとめたのが図9である。
上記の通り、あくまで「予定の子どもを持てなかったら」の仮定の世界で、金銭的な理由を挙げる者は、2021年時点で、34歳以下で32.7%。総数ベースでは17.0%である。2010年以降の3時点だけだが、趨勢的には減少している。

図9:予定の子ども数を持てない場合の理由に収入の不安定さを挙げた既婚夫婦の割合
(出所:出生動向基本調査)

まとめ

今回は、理想や予定の子ども数を持てない背景について確認した。結果、図6のとおり、理想の子どもを持てない可能性があると思っている人(理想>予定)の背景には、子育て等にお金がかかりすぎる、という考えがあるのは事実である。ただ、そもそも子ども数が理想>予定となっている人が、特に2000年代以降減少している。図2、3を見る限り、特に35歳以上で3人以上の子ども数を理想と掲げる女性が減少したことが、最も大きい理由として挙げられる。
この現象の背景には、出産年齢がそもそも遅くなり(図9)、3人以上の子どもを(身体的要因等から?)理想とすら掲げなくなったことが考えられる。

図9:母の第一子出生年齢別出生数構成比
(出所:人口動態統計)

他方、3人以上の多子家族の割合は、遅くとも2000年以降、必ずしも減少していない(図10、11)ので、社会的環境要因は決してネガティブではない。「なぜ3人以上の子ども数を、理想とすら掲げなくなったか」は、多少深堀りする価値のある問題かもしれない。
ともあれ、図6を総体としてみれば、「教育費がかかるから欲しい数の子どもをもてない」と考えている人は、全体としては減少している。

図10:出生順位別出生数
(出所;人口動態統計)
図11:二人以上勤労者世帯のうち、夫婦と未婚の子供世帯の構成比
(出所:家計構造調査)

また図7を見る限り、「子ども数が理想>予定となっている人では、お金がその原因である」というのも、マクロで見たらそうなのであって、「一人の子どもも持てない」というわけではない。子どもを3人持つのを理想とする場合には、金銭的なハードルが出てくる、というだけで、子どもを1人持つという次元では、金銭面より身体面がより問題となっている。
余談だが、(多分)こういった事実を背景に、「子どもを3人産んだら支援金」という制度も整備されている。

児童手当の多子加算については、こども3人以上の世帯数の割合が特に減少していることや、こども3人以上の世帯はより経済的支援の必要性が高いと考えられること等を踏まえ、第3子以降3万円とする。

こども未来戦略方針

最後に、予定の子ども数を持てないとしたら、という問(図8)については、もはや完全に想像を答えさせる問で、それ自体解釈自体が悩ましいのだが、2010年以降では、お金を原因にする者は減少傾向にある。絶対水準が3割というのも難しいが、すごく多い、というわけではないだろう。

本稿の結論としては、「お金がないから欲しいだけの子どもを持てない」と考える既婚夫婦は、高齢でも若い夫婦でも、決して多くないということになる。

補足、データの作り方

まず、図6、7、9のデータについて補足しておく。図6については、1997年以降は、2021年に時系列のデータがあるので、基本的にそこから「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を回答した人の数を引用している。母集団(総数)のみ、各年の回答者総数のデータを使っている(081の補足も参照)。
図7は、2002~2015年は、表だけが報告書にあるので、そこから引用、2021年はエクセルデータがあるのでそれを使用した。ちなみに凡例で「理想2人以上、予定1人」などとなっているが、これは「理想3人、予定1人」と回答した人等がいて、それらを合算しているからだ。年ごとに少し表の仕切りが違うのだが、同じ定義で合算できる。
図9は、081と同じく、2021年の時系列データをそのまま使用している。

もう一つ、図6、7と図9では「お金がないから」「欲しいけどできないから」などの理由を挙げたが、他にどのような理由が選択肢にあるのか、ついでにその時系列の変化も、参考までに挙げておく。複数選択で数の制限もなし。「お金がないから」に類する回答が複数あることも確認できると思うが、今回は煩雑なので、最もわかり易い回答を選んでいる。

理想>予定となる理由は図11のとおりだが、全部で選択肢は13個もあるが、図6、7で採用した「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と、あと35歳以上では「高年齢で産むのはいやだから」という理由が多い。「ほしいけどもできないから」は、この推移ではいまいち目立たないポジションだが、理想、予定の組み合わせのグラフではかなりきれいに変化が現れる選択肢となっているので、採用した(図示しないが、「高年齢で産むのはいやだから」は、理想、予定の組み合わせ別ではほぼ変化がない。逆説的に、理想、予定の組み合わせには、年齢があまり関係ない(若い人も高齢の人も入り混じっている)ことが伺われる)。

図11:理想の子ども数を持てないと考える既婚夫婦のうち、理由別割合
(出所:出生動向基本調査)

図9の方は、また理由の選択肢が若干異なっている。全部で選択肢は8つで、年齢を追うごとに「収入が不安定なこと」が減少し、「年齢や健康上の理由で子どもができないこと」が上昇している。というか、2021年は、30歳未満でも「年齢や健康上の理由で子どもができないこと」が一番多い。子どもを持てない理由としての収入は、もはやどの意味でも、多数派ですらない。
補足で述べるようなことでもないが、やはり既婚夫婦にとって、子どもを持てない理由として収入は大きなハードルではないと思われる。あるいは、現代の夫婦は、「収入で許される範囲の子供の数を予定している」のかもしれないが。
ちなみに、年齢が30歳未満、30~34歳、35歳以上の3区分になっているが、これはもとの2021年の区分がこうなっているから。図9は34歳以下と35歳以上の2区分だが、元データから再構成したものである。

図12:追加予定子ども数が1人以上の既婚女性で、
予定子ども数を持てない理由を回答したもののうち、理由別割合
(出所:出生動向基本調査)

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