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小説の読めないあなたへ。

どうぞ、お座りになって。
そうですね、お手荷物はここにすべて置いていきましょう。
さぁさ、どうぞお読みになって。
そうです、そうです。

「え。ちょっと、いきなり変な人出てきたんだけど」

大丈夫です。ここはそういう世界です。
そのうち慣れますから、どうぞそのままお読みください。
そうです、そうです。

「えっと、誰だっけ?この人。出てきたっけ、どこかで…?」

あ、戻らなくて大丈夫です。
ページはそのままで、どうぞ先をお読みください。話していると思い出しますから、そう、この人が誰か。あるでしょう?顔は知ってるのに、名前が出てこない人とでも、会話しているうちに思い出してくること。そういう感じで、思い出してきますから、大丈夫。
そのまま進んでいきましょう。

「っていうか、何?なんで?これいつ?時系列とかわかんないんだけど」

大丈夫です。今なのか、昔なのか、ちょっと前なのか、それはいずれご説明します。あるいは、あとでわかりますから、どうぞ、そのままお読みください。

「ん?なんかおかしくない?」

おかしくなど。いえ、おかしいのかもしれませんね。どうぞ先をお読みください、きっとわけがあるはずです。

「え?どういうこと?なんで?」

さぁどういうことでしょうか、見てみましょう。先を、どうぞ、お進みください。あ、大丈夫です、戻ったりしなくて大丈夫。きっとこの先に何かが待っていますから。

「えー、こんな人いたっけ。出てきた?こんな人。」

あ、戻らなくて大丈夫です。出てきたとしてもチラッとくらいで、きっと記憶にないくらい通りすがった程度です。あの時気が付かなくても、今気が付いたのなら、これから知っていけばいいのですから。どんな人なのかみていきましょう、さぁさ、先をどうぞ。

「っていうかさ、ここどこ?実際にあるとこなの?架空の場所?」

あります、あります。そんなことよりも、先を急ぎましょう。きっと美しい場所です。あるいは、危険な場所かもしれませんが。ウロウロしなければ大丈夫、そのまま進みましょう。

そうです、そうです。

そのまま。

「っあー!そーゆーこと!?なんだ〜、そういうことかぁ。」

そう、そう。そういうことです。

「わー、なんか、変な話。だったけど、おもしろかった〜。」

そうですね、変な話でしたね。とても面白いお話でした。

「え、これってさ、フィクションだよね。ホントにあるわけじゃないよね。」

さぁ、どうでしょうね。あったのかもしれませんし、なかったのかもしれませんが、確かにあなたは、その世界へ行ってきました。あの人たちに会ってきました。

「本の中だけのことでしょ。」

どうでしょうね。
さぁ、どうぞ、先ほどの荷物はこちらです。ここにすべて置いてありますので、忘れずにお持ちくださいね。

「あー、そうだった。忘れてくとこだった」

忘れたままでもいいですよ。
本の世界と現実世界を、もっと自由に行き来してみてください。

 


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なかなか小説の読めない姉がいます。
どうにも些細なことが気になって、本を読み進めていけない、のだと。登場人物の名前だとか、関係性だとか、場所だとか、これが何時の話なのか、きっちり把握していないと入れない、のだと。そしてその度に、ページを戻って読み返し、そうこうしているうちに疲れてしまって、読むのをやめてしまう、と。
事実に基づいたノンフィクションならまだしも、物語や小説の世界にはなかなか入っていけないという。
そんな、少々怖がりな読者に、誘導ガイドを書いてみました。
本の世界へ一度入ってしまえば、きっと大丈夫。手荷物を置いて、そのままお進みください、どうぞ作者に委ねて。

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