家を出たい姪っこへ。
「はやく家を出て行きたい」
仕事を手伝いに来てくれる姪っ子が、いろいろ話しているうちに、そうこぼした。
彼女は、家族が大好きで、出先でもこまめに家族のLINEグループに連絡をして、終電には必ず帰ってくる。実際、傍から見ても仲良し家族だ。ただ、近ごろは、家に居たくないことが増えて、家族と食事をしたくなくて、一人でいたいことが増えたのだと。
こと、父親の言動に対してイラついてしまうのだと。
彼女は今、きっと大切な時期。
年頃の娘が父親のことを疎ましく思うようになる、というのはよくある話で。
ただ、彼女は家族が大好きなだけに複雑な心情のようで、気持ちの置き所が分からずに、情緒不安定になってみたり、自己啓発本を読んでみたり、三年日記をはじめてみたりしてもがいている。感受性の豊かなタイプなだけに、揺れ動く自分に振り回され、立て直し、大変そうだ。
私は叔母として、そして一人の大人として、そんな彼女に少し話をした。
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小さな頃は、お父さんやお母さんが喜ぶこと、嫌がること、悲しむこと、怒ることを基準に価値観が育っていく。
やってはいけないことや、褒められること、それはお父さんやお母さんの顔や言葉を感じながら、なんとなく育っていく。
そのうちに、幼稚園、小・中・高校の友達や先生や部活動でかかわる人たちや、自分自身の経験によって、自分自身の独自の価値観もまた育っていく。
お父さんやお母さんはこう言うけれど、あの人はこう言っていたし、私はこう思うんだよね、がたくさん増えていく。
そして、恋をすればまた、
今までの自分の価値観がごっそり作り変わるような、まったく新しい視野も生まれる。
お父さんやお母さんが、たくさんいる大人のうちの一人二人だということに、気が付く。たくさんある価値観の中の、一つ二つに過ぎないことに気付く。違和感を感じることもあるだろうし、全く逆な価値観が見えてくることもある。それはとても当然なことだよ。
あなたが親の価値観で動いていた小さな子どもではなくなって、自身の価値観がちゃんと育って一人の大人になったから感じること。
成長してきた証なんだよ。
同じ屋根の下で暮らしていくうち、窮屈に感じるのは、あなたが間違ってるわけじゃないから大丈夫。
「はやく家を出て行きたい」
そう思うようになったのを、叔母ちゃんは喜ばしいことだと思うよ。ツバメだって、大きくなって窮屈な巣から、飛び立っていくんだもの。
いざ一人で生活してみたら、心細い事も大変なことも当然あるだろうけど、きっとすぐに慣れるから。
だからどうか、その自分自身の経験から育ててきたあなたの価値観を大切にしてほしい。
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大好きなお父さんやお母さんへ、違和感や反抗心を抱いてしまうのは、私は、薄情な子どもだろうか と、反発してしまう自分を抑え込んだりしないで。
窮屈だとか、出て行きたいと思うことは、大人になれば当然のこと。
いくら仲良し家族だって、それはそう。
十分に成長したこどもは、
巣を窮屈がり、自分で生きていこうとする。
「はやく家を出て行きたい」
そう思うあなたは、立派に成長してきた証拠なんだから、誇らしく思えばいい。
お父さんとお母さんは、
狭くて窮屈な食卓で、相変わらずのお味噌汁をズズッとしているから大丈夫。
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