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ややこしい人。

「ごめんね、その日行けなくなっちゃった」

そっか大丈夫だよ、
私のことは気にしなくて。
あなたの都合が悪くなったのは、あなたのせいではないのだし。全然、大丈夫だよ。

「私のことどうでもいいからでしょう?」

いやいや。
私もさ、「約束」って実は苦手だし。
だってわからないもの、その日その時までそんな気分でいられるかどうかなんて。
そうしたら、その日その時にそういう気分に「なっていかなきゃ」ならないもの。

どうするの?
あなたと会う約束をした、その日その時、私が一人で本を読んでいたい気分になっていたとしたら。出かける気分じゃなくて、とにかく急に億劫になってしまったら。
たちまち後悔してしまう、「約束した」ことを。なんだってあんな約束してしまったんだろうと、過去のやたら気前のいい私を恨んでしまう。

いや、ただ、ここで大切なのは。
「約束をした私」が、のちに「気分じゃない」ことで、「約束してしまった」ことを後悔したというだけで。

もちろん、その「あなた」にはなんら非などはなくて。もちろん「会いたい」から約束をしたのだし。もちろん、その時は、本当にそういう気分だったのだから。

ただ、約束をしたその日その時の気分と、
約束当日のその時の気分とは、一続きではないものだから。

「私のこと、どうでもいいからでしょう?」にはならなくて、「そんなわけない」のだけど、とにかく、それは乱暴だよ。
それはたとえば、入学したての高校生活で広げた慣れないお弁当の卵焼きにホッとして
「卵焼きめっちゃおいしかった!」
というなり、毎朝せっせこと卵焼きをやくことに決めた母へ、
「卵焼きもういいんやけどな」
と言うことに
「は?もう二度と卵焼き焼かへんからな」
と言ってしまうくらい乱暴だ。

そんなのはまるで、裏切り者みたいじゃないか。一貫して「卵焼きめっちゃ好き」でいなければならないわけじゃないでしょう。
「卵焼き」はもういいかな…と、言うだけのことで、「もう二度と卵焼きを入れないで」
とも、ひいては「私のお弁当がそんなに不満なの?」というのは、乱暴だ。

予定がキャンセルになって。
残念に思いながらも、どこかホッとしていたのは、まっとうしなければならない「約束」から、しなくてもよくなった「自由」を得たことに対してで。いや残念なのは本当だよ。ただ、
「私のことどうでもいいからでしょう?」
だなんて、そんなのは、どんなに深読みしていったって、まったく別の話だもの。予定をキャンセルすることについて気を病むあなたへ、「気にしないで」と言ったまでで。
もちろん残念だけれど、あなたの都合を責めたって仕方ないでしょう。
だからとにかく、大丈夫だよ。
私のことは気にしなくて。

「どうしてそんなにあっさり言えるの?
  やっぱり私のことなんてどうでもいいのね」

だから、そういうことじゃなくて。
「卵焼き」は好きだけど、いつもいつもは要らないよ、みたいな…いや、違うな。「約束」ってちょっと苦手で、「守らないと」と思うと天邪鬼になってしまったりして…いや、違うな。そんな話じゃなくて。えっと。
えっと。
とにかく。


つまりは。

私は、ただ、

「そっか…それは、残念だな…」

と眉毛を下げるべきだったのだ。






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